23-15 少女たち/カイナ村
ご迷惑をお掛けしますが、前話23-14の後半部分を大幅に改訂しました。
この話には影響ありませんが、ここに記しておきます。
現地時間午後11時。
イカサナート郊外に着陸した『コンロン2』には、10人の少女が集められていた。
「……心配いらない。あなたたちはもう、解放されたから」
エルザは証文を見せ、それを2つに破って見せた。
「あ、あの……」
彼女等の中で一番年長と思われる少女が手を上げた。
「ん、どうしたの?」
「私たち、これからどうなるんでしょうか?」
「それは今から説明しようと思ってた。……あなたたちはもう自由。家に帰りたければ送っていく。でも、それはもう少し待った方がいいかもしれない」
そこで言葉を切ったエルザは、少女たちの顔を見回す。皆、その言葉の意味を理解しているようだ。
「そう。まだ食糧不足は終わっていない。だから、家に帰るなら、新作物の収穫が終わる春の終わり頃がいいと、思う」
その言葉に、数名の少女が頷き、別の少女たちは顔を俯かせた。
「大丈夫。心配しなくて、いい。……この人は『崑崙君』。自分の領地を持っているから、そこにあなたたちを連れていく」
諭すようにエルザが言うと、再度、年長の少女が口を開いた。
「あの、それにこの首輪が……」
それに反応したのは仁だった。
「ああ、ごめん。すぐに取ってあげるから」
言うが早いか、年長の少女の首に手を伸ばし、その首輪を取り外した。
「え、え?」
何が起きたか理解できない少女。自分で外そうとしてもできなかったことを、仁があっさりやったのだから。
「彼は『魔法工学師』。世界で一番の魔法工作士。だからこんなこと、簡単にできる」
エルザが解説してやると、少女たちは少し納得したようだった。
その間に仁は、全員の首輪を外してしまう。
「あ、ありがとうございます……!」
絶対外せないと思われていた首輪を簡単に外してしまった仁に、尊敬の眼差しが注がれた。
魔導具を使わないのは、老君の助言でもあった。すなわち、『多少驚かせることで、仁への信頼が増すだろう』ということ。
彼女たちが見ている前で、仁は外したその首輪を放り捨てた。
「さあ、これで君たちは自由だ」
が、年長の少女が三度口を開く。
「……駄目なんです。この入れ墨が……」
少女たちの胸元には、奴隷の証として、一様に図形と黒い文字が入れられていたのである。図形はセルロア王国の紋章、文字は買い主だった商人の名前だ。
「……ちょっと見せて」
エルザは一言断ると、年長の少女の胸元を凝視した。そして、
「『精査』『分析』」
と、魔力の働きも調べてみる。
「……わかった。これは単なる目印。色素にも毒性はない。……『分解』」
「え? え?」
エルザは診察に続けて、色素の分解まで行い、入れ墨を綺麗に消してしまったのである。
原子に分解された色素は、大半が皮膚を通して排出され、本人には害がない。
「はい、それじゃあ次。……『分解』」
エルザは短時間のうちに、少女たちの入れ墨も綺麗にしてしまう。
「ありがとうございます!!」
こうして、仁とエルザは、少女たちからの信頼を勝ち取ったのであった。
時刻はそろそろ午前0時を回る頃。
「それじゃあ、ちょっと寝心地が悪いと思うが、今夜はここで寝てくれ」
仁は、『コンロン2』の座席をフルフラットにしながら少女たちに言った。
「は、はい。……みんな、もう遅いから休みましょう?」
「……うん」
「はい……」
年長の少女が声を掛け、残りの少女たちは素直に休むことになった。
仁は、今回操縦を行っている礼子に命じ、『力場発生器』も用いてカイナ村へ向かうよう指示をする。
理由は、船体を極力揺らさないようにするためだ。
仁とエルザは助手席に座り、椅子を倒して仮眠を取ることにした。
「それじゃあ礼子、夜明け前に二堂城前に着くように頼む」
「はい、わかりました」
蓬莱島では、老君とアンが、一連の流れを確認していた。
『ほぼ問題なく終わったでしょうか』
「はい。ごしゅじんさまが外された首輪と、エルザ様が破った証文は確保されてますよね?」
『当然です。この後、セルロア王国を糾弾する材料となるでしょうから』
* * *
イカサナートとカイナ村の時差は1時間20分、距離は500キロ弱。
『コンロン2』は時速100キロで航行した。
こうして午前5時過ぎ、一行を乗せた『コンロン2』は二堂城前広場に着陸していたのである。
そして1時間、夜が明け始めた。
仮眠を取っていた仁は目覚める。エルザはよく眠っているようだ。
少し可哀想に思ったが、この後のこともあるので、仁はエルザを起こした。
「……んう、ジン兄?」
「おはよう、エルザ」
「おはよう、ジン兄」
小さな声でのやり取りだったが、2人の声が聞こえたか、連れてきた少女たちも目覚めたようだ。
「……あ、おはよう、ございます」
仁に挨拶したのは、やはり一番年長の少女。
「おはよう。少しは眠れたかい?」
「あ、はい。……あのう、ここはどこでしょうか?」
「ここはカイナ村といって、クライン王国北部の小さな村さ」
実際には仁の独立領地なのだが、その辺を説明するとややこしくなるので、まずは簡単な説明に留めておく。
「カイナ村……」
聞き覚えはないようだ。それも仕方ないだろう。
「ああ。君……そうだ、名前を教えてもらえるかな?」
名前を聞いていなかったことに今更ながら気がついた仁。
「あ、ごめんなさい、私は、ソニアといいます」
「ソニアか。見たところ、君が一番しっかりしているようだ。他の子たちのまとめ役をしばらく頼みたいんだが」
「え、ええ、それは構いませんが……」
「よし。それじゃあ、まず外に出よう。少し寒いからそのつもりでな」
「は、はい……?」
カイナ村は、彼女たちの村から見てもかなり寒い。まして、寝る前はエゲレア王国のイカサナートという、かなり暖かい土地にいたのである。
「……うわ、寒い!」
「どこ、ここ?」
「え? 今出てきたこれ、何?」
「……あの建物っていったい……?」
外に出た少女たちは、仁が思った通り、寒さに驚き、『コンロン2』に驚き、そして二堂城に驚いていた。
まずは彼女たちを二堂城へと連れていく。
「こっちへおいで。あ、靴は脱いでくれよ」
「え?」
靴を脱ぐ、という行為に面くらいはしたものの、暖かい城の中に入って、彼女たちはほっとしている。
そのまま食堂へと連れて行く仁。エルザと礼子は最後尾を行く。
「さあ、入ってくれ」
そこは大広間。テーブルと椅子が運び込まれていた。
広すぎて落ち着かない、ということがないよう、衝立で区切りもされている。
老君から連絡を受け、5色ゴーレムメイドたちが揃っており、朝食の仕度もできていたのである。
仁とエルザが席についても、少女たちは立ったまま。
「さあ、座っていいんだよ」
仁にそう言われてようやく席に着く少女たちである。
「そこにあるものは好きなだけ食べていいからな。足りなかったらそばに居るゴーレムメイドに言ってくれ。ソニア、君からも、みんなを安心させてやってくれ」
そう声を掛け、仁は率先して食べ始めた。エルザも食べ始める。
それを見てソニアは左右を見回して声を掛ける。
「さ、さあ、みんな。ジン様、エルザ様のご厚意に甘えましょう!」
そして真っ先にシチューに口を付けた。
「おいしい……!」
トポポをはじめとした、野菜をふんだんに使ったコクのあるシチューである。
それを見て、他の少女たちも食べ物に手を付ける。
「おいしい!」
「食べたことない味だけど、すっごく美味しいわ!」
一度手を付けると、空腹だったこともあって、次から次へと手が伸びていく。
「何このパン、真っ白よ! 信じられないくらいふわふわしてるわ!」
蓬莱島特製、イーストを使った白パン。
「このお粥、麦じゃないわ! でも美味しい!」
お米のお粥。
「軟らかくて美味しいお肉! 何の肉かしら?」
蓬莱島で最近飼い始めたカウブル(牛)の肉。
「この果物、口の中でとろけるわ! なんて甘いのかしら!」
蓬莱島産のペルシカ。
等、等、等。
久しぶりに思う存分食べた少女たちであった。
「さて」
食べ終えた彼女たちを見て、仁が言葉を掛ける。一斉に仁の方を見る少女たち。その瞳にはもう怯えの色はない。
「部屋を用意するから、少し休むといい。その後でゆっくり、今後のことについて相談しよう」
仁はそれだけを言うと、後のことをエルザとゴーレムメイドに任せ、席を立った。
仁が部屋を出る時、
「ありがとうございました!」
と、少女たちからお礼の言葉が投げかけられる。
「うん、もう何も心配はいらないよ」
と返し、仁は村長宅へと向かったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20150417 修正
(旧)最近完成した、イーストを使った白パン
(新)蓬莱島特製、イーストを使った白パン
14-25でイーストパン完成してましたので表現を変えました。
(誤)イサカナート
(正)イカサナート
20181017 修正
(誤)と返し、仁は村長宅とへ向かったのである。
(正)と返し、仁は村長宅へと向かったのである。
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