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100-11 保護者

 アーノルト主導のもと、『新魔法陣式』の運用形態が決まっていくのを見届けた仁は、メルツェの様子を見に行くことにした。


 まずは、秘書課へ。

 つまりフィオネ・フィアスの執務室である。

 彼女は最高管理官の秘書なので、就業時間の3分の2くらいはそちらに付いているが、今回は運よく執務室にいた。


「ジン殿、どうなさいました?」


 ノックして執務室に入ると、フィオネ・フィアスは書類仕事の手を止め、仁に尋ねた。


「メルツェのことが気になるので、教えていただこうかと」

「なるほど、保護者っぽいですね」


 フィオネ・フィアスはくすりと笑うと、秘書課係長のテツオ・ダイを呼んでくれた。


「彼に任せていますので、いろいろと聞いてやってください」

「ありがとうございます」


 ということで、仁は秘書課係長テツオ・ダイと共にフィオネ・フィアスの執務室を出た。

 そして、打ち合わせ用の小会議室が空いていたのでそこを使わせてもらう。

 ここは最も小さい会議室で、6畳くらい。

 真ん中にテーブルが1つあり、椅子が4脚と、予備の折りたたみ椅子が2脚備え付けられている。

 そこに、仁とテツオ・ダイは向かい合わせに座った。

 礼子は仁の後ろに立つ。


「ええと、お時間を取っていただき、ありがとうございます」


 社会人としての口上を述べる仁である。


「いえいえ。……で、メルツェさんの様子を知りたいということでよろしいですか?」

「はい。それに加えて、事件調査の方はどうなったか、も」

「わかりました」


 テツオ・ダイはゆっくりと話し始める。


「メルツェさんは今、秘書課の中堅どころとして活躍されています。役職はまだありませんが、堅実な仕事ぶりで、上司からも期待されています」

「それはよかった」

「一番彼女の実力が発揮されたのは、業務の振り分けでしたね」

「振り分け?」

「ええ。『アヴァロン』には多彩な業務内容があるわけですが、それを担当する人員にも向き不向きがあるわけです」

「それはそうですね」


 テツオ・ダイはさらに続ける。


「その際彼女は、業務と人員の能力を可能な限りマッチングさせて振り分けてくれたのですよ。しかもかなりの短時間で」

「ほう……」

「記憶力が抜群によくて、なおかつそれらを組み合わせ、構成するシミュレート能力にも優れているようですね」

「なるほど」

「ですので秘書課から管理課へ移籍されるのも時間の問題でしょうね」

「そうなのですね」


 これは間違いなく栄転である。

 が、その前に、仁はもう1つの気掛かりなことについて確認をする。


「例の盗難事件についてはどうなっていますか?」

「それは、基本的な調査をメルツェさんが行ってくれまして、それ以後は、手に余るということで彼女の希望により専門部署にゆだねられました」

「そうですか」

「ですが、かなり有益な手掛かりを掴んでくれましたので、今後の捜査が楽になった、と言われていますね」

「その専門部署というのは……」

「世界警備隊ですね」

「やはりそうですか」


 いずれにせよ、メルツェに最後までやらせるということは考えられなかったので、これはある意味当然だろう、と仁は思った。


「ですが、彼女と共に現地を調査した『テクノ』が有力な発見をしてくれまして」

「それは?」


 実は知っている仁であるが、ここは知らないふりをしておく。


「現場に残されていた『転移魔法陣』の痕跡を集計して解析する、という方法です」

「なるほど、どうなりました?」

「完全には再現できませんでしたので、補間するための計算中です」

「『魔導頭脳』で、ですね?」

「そうです」

「解析終了までどれくらい掛かりそうですか?」

「あと3日くらい、と言われております」

「かなりのものですね」

「転移先の座標データがメインですから」


 座標というのは1つ間違えばとんでもないことになるので、この慎重さは正しい。

 ただ、『アヴァロン』の『魔導頭脳』の処理速度の限界がこれなのである。


 とりあえず、仁が聞きたかったことはこれで終わった。


*   *   *


「ご説明、ありがとうございました」

「いえいえ、他ならぬジン殿の要望ですから」


 仁は礼を言って秘書課係長テツオ・ダイと別れた。

 時刻は午前11時半になろうとしている。


「まだ昼休みにはちょっと早いな……病院へ行ってみるかな」


 仁も『アヴァロン病院』に顔を出してみることにした。


「こんにちは」

「あら、ジン様、お珍しい」


 まずは病院長に挨拶する仁。


「エルザ様は口腔外科の方へ行ってらっしゃいます」

「口腔外科?」

「今回は『歯科』ですね」

「ああ、なるほど」


 魔法でも、失った歯の再生はできない。

 つまりこの分野では、『工学魔法』の出番があるということだ。

 エルザは『工学魔法』の腕も超一流なので、医学と工学魔法両面からの治療を考えているのだろうと仁は推測したのである。


 待つこと15分、エルザが戻ってきた。


「あ、ジン兄」

「やあ。義歯の検討だって?」

「ん。ちょうどよかった。ちょっとだけ相談したいことが」

「なんだい?」

「アクリル製義歯を、欠損した歯の部分に接着する際の、強度」


 従来の接着剤だとどうしても強度が足りないという。


「うーん……いい接着剤が見つかるまで、『工学魔法』の『接着(ボンディング)』を使うか……?」

「やっぱり、それがいい?」

「いい接着剤ができるまでな」

「ん、わかる」


 接着法の魔導具を作ればいい、と仁は言い、エルザも納得した。


「それについてジン兄に頼んでもいい?」

「……いいぞ」


 少し考え、小型で用途も限定の魔導具なので引き受けた仁である……。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月3日(日)12:00の予定です。


 20260501 修正

(誤)彼女は最高管理官の秘書なので、就業時間の3人の2くらいはそちらに付いているが

(正)彼女は最高管理官の秘書なので、就業時間の3分の2くらいはそちらに付いているが

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― 新着の感想 ―
>100-11 保護者 ↑ってこの流れでなんだr >「メルツェのことが気になるので、教えていただこうかと」 >「なるほど、   お父s o...っぽいですn ジ「俺は婚前の娘が居るような歳か?(真顔」…
>3人?  違う、そうじゃない ありゃ、分かりづらかったですね。 就業時間の3人の2くらいはそちらに付いているが ↓ 就業時間の3分の2くらいはそちらに付いているが 遅ればせながら誤字報告です。
>>つまりフィオネ・フィアスの執務室である。 部外者なので(略 >>彼女は最高管理官の秘書なので、就業時間の3人の2くらいはそちらに付いているが、今回は運よく執務室にいた。 残りの3分の1は胃痛…
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