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100-12 旧知

 欠けた歯に義歯を接着するための魔導具。


 仁が引き受けた仕事である。

 さっそく『アカデミー』の工房へ行こうとした仁であるが……。


「お父さま、もうお昼になります」

「ジン兄、お昼休みが終わってから」


 と、礼子とエルザの2人から止められたのである……。


*   *   *


 食堂では、ゴウとルビーナ、メルツェらと待ち合わせ。


「お昼をご一緒するのも久しぶりですね」

「そうだな。……3人とも役目を十分に果たしているようで安心したよ」

「ありがとう、ジン様」

「光栄です」

「お恥ずかしいです」


 ルビーナ、ゴウ、メルツェである。


「エルザ様は病院に行ってらしたんですよね?」


 メルツェが、確認するように尋ねた。


「ん、そう。今日は『義歯』についての会議だったから、少し参加させてもらった」

「義歯……入れ歯、ってこと?」

「ルビーナ、ちょっと違うよ。歯って治療のために削っても再生しないから、被せ物をしたり詰め物をしたりするんだよ。それを『義歯』っていう……んじゃないかな?」

「ん、ゴウも、ちょっとだけ違う、かな? 今回の『義歯』は、欠けた歯に人工の歯をくっつけて再建するもの」

「ああ、わかりました」


 ここで、ルビーナからの質問が。


「エルザ様、人間の歯って、どうして再生しないんですか?」

「それは、歯には神経や血管が通っていないから。 生きた細胞がいないため、修復できない」


 人間の場合、歯を作っている組織が、一度歯を作るとなくなってしまうから、といわれている。


「『治癒魔法』は、基本的に人体が持つ治癒能力を極限にまで高めるものだから、自然治癒できない歯は治せない」

「そうなんですね……」

「だから、事故で歯が欠けた場合、義歯を作って接着する、という治療法しかない」

「わかりました……」

「歯を大事に、ね」

「はい」

「はーい」

「気を付けます」


 3人とも、改めて歯の大切さを認識したようである……。


 実は、裏技として顎の骨を全て除去してから再生させることで歯も元に戻せるのだが、神経の再生が不十分になりやすいという危険を伴うため、今のところ秘されている(エルザなら問題なく行使できるが)。


*   *   *


 昼食後の昼休み、仁たちはそのまま談笑している。


「『魔法陣』の改良、よかったぞ」

「そうですか? ありがとうございます」


 午前中の打ち合わせについて仁が褒めると、ゴウとルビーナは照れ笑いを浮かべる。


「メルツェも、自分の限界を自覚して、任せるべきところは任せるようにしたんだな」

「はい。問題解決にはそれが一番いいと思いました」

「うん、その判断はいいと思う」

「ありがとうございます」


 そして、仁は少し冷めたお茶を一気に飲み干して、


「午後は多分『ベルリッヒ工房』に行ってると思う」


 と告げた。


「ああ、そこで『義歯』を接着する魔導具を作るんですね」

「メルツェ、よくわかったな」

「ジン様の行動パターンはだいぶ覚えました」

「そうか、大したものだ」

「うふふ」


 そんなやり取りをしているうちに、昼休みも終了。


「それじゃあ、行ってくる」

「ん、私は、また病院へ」


 そしてゴウとルビーナは『アカデミー』へ、メルツェは管理部秘書課へと戻ったのだった。


*   *   *


 仁がベルリッヒ工房へ行った理由の1つに、カチェアのことがある。

 仁が複体となる前、『精神生命体』の世界からこちらへ戻ってきた際に出会った人たちの1人。

 まだ蓬莱島とも礼子とも再会していなかった時……苦労していた時に出会った友人だけに、気にかけている。

 少し後に出会ったエイラとグローマは『アカデミー』にいるのでわりあい頻繁に顔を合わせているが、カチェアとはあまり会っていなかった。


 カチェアはパンドア大陸(パンドール大陸)にあるメルカーナ公国の出身。

 セミショートの金髪で青緑の目をしている。近視のため、丸めがねを着用。

 おとなしい性格だが、計算が速く、会計仕事が得意なのだ。


 パンドア大陸に飛ばされた仁とともにジャグス公国へと連れて行かれるなど、なかなか波乱万丈な人生を送っている。

 そのカチェアは、今では『アヴァロン』の生産部門の一翼をになう『ベルリッヒ工房』の工房長であるベルリッヒ・ベッカーの奥方であった。


「こんちはー」

「あ、ジンさん、レーコちゃん!」


 仁と礼子が『ベルリッヒ工房』の事務所に顔を出すと、3人の事務員がいて、その1人がカチェアだった。

 工房長の奥方ではあるが、同時に工房のマネジメントを引き受けている。つまり事務方のトップなのだ。


「お久しぶりですね」

「そうだな……悪い」

「いえいえ。……今日は、お仕事ですか?」

「そうなんだ」

「では、こちらへどうぞ」


 カチェアは仁と礼子を商談室へと案内した。

 そして手ずからお茶をれ、向かい合って座った。


「では、お話を伺います」


 仁は頷いて、2枚の書類を出した。


「こっちは『アヴァロン病院』からの依頼書だ。開発費、設計費、試作費、生産費などを引き受けてくれる」

「そうですね。つまり、予算はあまり気にしないでいい、と」

「そうなる。で、こっちは依頼したい魔導具についてのメモだ」

「ええと……『口腔外科・歯科で使用する、義歯と患者の歯を接着するための魔導具』ですか」

「そういうことだな。構想についてはその下半分に書いてある」

「こっちは私にはわかりませんから、あとで担当を呼びますね」

「そうしてくれ。俺から説明する」

「それなら安心ですね」


 こうして、仁とカチェアは仕事の話を通じて、お互いに変わっていないなと思ったのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月5日(火)12:00の予定です。


 20260503 修正

(旧)今回の『義歯』は、欠けた歯に人工の歯をくっつけて再生するもの」

(新)今回の『義歯』は、欠けた歯に人工の歯をくっつけて再建するもの」

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― 新着の感想 ―
魔道具が起動していることが分かるように「ギュイィィィイン」という音が出るようにしよう。
>今回の『義歯』は、欠けた歯に人工の歯をくっつけて再生するもの その場合は再生というより再建かも。 >実は、裏技として顎の骨を全て除去してから再生させることで歯も元に戻せるのだが、 つまり、実験…
サメみたいに簡単に生え変わる歯があれば虫歯治療とか抜歯以外の選択肢なくなってたんでしょうがねえw
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