100-06 実験
空間の歪みを検出する。
それにより、歪みをもたらした『力』の方向性を知ることができるかもしれない。
ハンナは『紛い物』たちとの話し合いでその可能性を見出したのである。
理論は検証しなければ応用できない。
「うーん……空間の歪みをどうやって検出するか……だよね……」
方向性を知る以前に、まずは『歪み』を検出できなければ話にならないわけだ。
ハンナは考えた……。
「光……『光波』は媒質の密度によって屈折するわけで、『自由魔力素波』は媒質には影響を受けない」
だから『光波』と『自由魔力素波』を同方向に発射し、その偏差を調べることで媒質の密度分布を知ることができる。
これを『亜自由魔力素波』と空間に当てはめてみる。
「『亜自由魔力素波』は空間の歪みの影響は受けない、で、『自由魔力素波』は空間の影響を受けにくい。『光波』は媒質や空間の歪みに大きく左右される……それなら」
3種類の波動の偏差を測定できれば、歪みの状態がわかるのではないか、とハンナは考えた。
例えばA点からB点へ向けて3種類の波動を発信する。
『亜自由魔力素波』は直進するから正確にB点に到達する。
空間が歪んでいなければ『自由魔力素波』も『光波』もB点に到達するだろう。
しかし、間の空間が歪んでいたなら、『自由魔力素波』はB点より少しズレたB’点に。『光波』はそれよりも更にズレたB”点に至るはずだ。
B、B’、B”の位置関係を把握し、解析すれば、空間の歪みがどれくらいかわかるはず、とハンナは考えたのである。
これは測定原理を思い付いたに過ぎない。
だが、確かな第一歩、といえるだろう。
「老君さん、実験をサポートしてくれる?」
『もちろんですよ、ハンナちゃん、いえ、ハンナさん』
老君としても、仁の願いを叶えようとしてくれているハンナの要望には、できる限り応えようと思っていた。
『実験のために準備が必要です。3時間ほど待っていてください』
「了解だよ、老君さん」
実験のためには宇宙船を出すのが手っ取り早い。
が、平常時のそれには仁の許可が必要になるのだ。
老君はさっそく仁に連絡を取った……。
* * *
「OKだ、老君。ハンナへの全面的な協力を許可する」
『承りました、御主人様』
仁からは即許可が下り、老君は急ピッチで準備を整えていった。
使用するのは宇宙船の中で駆逐艦扱いとなっている直径10メートルの『カストル』と『ポルックス』。
この2隻は、仁がほぼ同時に魔導頭脳を組み上げたので、2隻1組での行動をする際、非常に同期させやすいという特徴がある(それで双子座の恒星名が付けられている)。
その間に、ハンナ自身がアルスへ……具体的には蓬莱島へやって来た。
こうした実験をする際には、やはり蓬莱島での方が設備が整っているからだ。
「老君さん、準備はもういい?」
『大丈夫ですよ、ハンナさん』
「それじゃあ、実験を始めましょう」
『了解です』
測定原理は単純で、『カストル』が『自由魔力素波』と『亜自由魔力素波』を同時に同方向に発射し、それを『ポルックス』が受信するのである。
『カストル』と『ポルックス』の間の空間が歪んでいなければ、2種類の波動は偏差0で受信できるはず。
もしも空間が歪んでいれば2種類の波動の到着点には偏差が生じるはずである。
『自由魔力素波』の代わりに『光波』を使うこともできる。
ただしその場合は、媒質の密度差による屈折を考慮しなくてもいいよう、真空の宇宙空間で行う必要があるだろう。
『ハンナさん、空間の歪みがある場所というのはそうそう見つかるものではないので、時間が掛かると思います』
「それは理解してるから大丈夫。老君さん、実験はお願いね」
『任せておいてください』
ハンナは待つことにした……。
* * *
さて仁は、ゴウとルビーナ、それにメルツェの様子が気になってきた。
「老君、『アヴァロン』の様子は?」
『はい御主人様、特に緊急を要するような問題は起きていません』
老君が答える。
ハンナとのやり取りや実験の準備をしていても、今の老君なら能力的に何の問題もない。
どちらも、能力の1パーセントも使わずにこなせてしまうのだから。
仁渾身の力作の1つであるというのは、そういうことだ。
『ゴウさんとルビーナさんは、順調に仕事をこなしています』
「メルツェは?」
『メルツェさんも、例の事件調査を報告後、メインの担当から降りたので、負担は軽くなっています』
「そうか。……で、事件の調査はどうなんだ? 進んでいるのか?」
『はい。……今現在、同様な事件はピッタリと止んでいます』
「『アヴァロン』が乗り出したことを感付いたのかな?」
『その可能性もありますが、私の仮説は少し違います』
「ほう」
仁としては、老君の仮説を聞くことになんのためらいもない。むしろ聞いてみたいと思った。
「聞かせてくれ」
『はい、御主人様。今現在で可能性の高い仮説は3つあります』
「うん」
『1つは、賊の目的が、世の中を混乱させること、つまり愉快犯である可能性ですね』
「なるほどな。……盗んだものは大したものじゃないものな」
『はい、そうです』
そして。
『2つめは、『自分が必要とするものを買わずに盗んだ』可能性です』
「そういうことか」
盗難にあった物資は一見バラバラであるが、逆に言えば欲しいものを盗んだ、と言えなくもないわけだ。
そして老君はもう1つの可能性に言及する。
『もう1つは……こちらの可能性のほうが高いのですが、盗みはすべて『実験』であった可能性ですね』
「実験? 何を確認するための実験だ?」
『それも2通りに絞り込みました。1つは、どこまでやったら『世界警備隊』が出てくるか』
「前にもちょっと聞いたな」
『もう1つは、『『転移魔法陣』を使った盗み』の実験です』
「あとの方、それって、この先もっと高価なもの、あるいは貴重なものを盗もうとしている可能性があるってことになるな?」
『仰るとおりです』
「うーん……」
あくまでも仮説であるが、今後より貴重なものを盗むための実験だとしたら、それはなんとしても防がなければならない、と考えた仁であった。
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次回更新は4月21日(火)12:00の予定です。
20260419 修正
(誤)仁渾身の力作の1つであるというのは、そういうことだ。
(正)仁渾身の力作の1つであるというのは、そういうことだ。




