100-07 顔出し
仁とエルザ、礼子らが久しぶりに『アヴァロン』に顔を見せたのは9月13日、9日ぶりの訪問である。
5日に『アヴァロン』を去った際、『近いうちに顔を出すよ』と言い残したとおりである。
「ジン殿、エルザ殿、ようこそ『アヴァロン』へ」
『ハリケーン改』が着陸すると、最高管理官トマックス・バートマン自らが出迎えた。
「先日アイデアとヒントを伝えた件でやって来ました」
「……といいますと、『自由魔力素貯蔵庫』ですな。では、『アカデミー』へどうぞ」
「ホープ、『ハリケーン改』を整備しながら待機していてくれ」
「わかりました」
そこからはゴーレム自動車により仁とエルザは『アカデミー』へ向かうことになる。
仁たちは、今は『外部からの客人』もしくは『普段は外部にいる関係者』という扱いになるのだ。
ゆえにこの段階ではまだ内部の移動に『転移魔法陣』は利用できない。
5分足らずでゴーレム自動車は『アカデミー』に到着。
同伴したのはトマックス・バートマンではなく、秘書のフィオネ・フィアス。
「ここまででいいよ。フィフィさんも自分の仕事があるだろうし」
「そうですか? ……では、これで失礼いたします」
フィフィさん、と呼ばれたフィオネ・フィアスはちょっと苦笑してからゴーレム自動車で戻っていった。
「さて、みんなやってるかな」
仁たちは『アカデミー』の入口をくぐる。
手には『身分証』がある。
個人の認証はきちんと機能しており、仁、エルザ、礼子らは何の問題もなくアカデミー内へと足を踏み入れることができた。
「ジン様、エルザ様、ようこそ」
「お久しぶりです、ジン様、エルザ様」
既に連絡がなされていたため、職員たちは驚くことはなく仁たちに挨拶をする。
仁たちはそんな彼ら彼女らに挨拶を返しつつ、まずは『農業研』へ向かった。
* * *
「あ、ジン様、エルザ様! レーコさんも!!」
仁たちが顔を出すと、『農業研』の面々は諸手を上げて歓迎した。
「貯蔵庫の方がどうなっているか気になってな」
「そうでしたか、一言で言えば順調ですよ」
室長のヤシマ・スガタが説明してくれる。
「ジン様とエルザ様にアドバイスを頂いたとおり、まず『自由魔力素濃度』を上げる装置を用意しました。それにはゴウ君が協力してくれましたよ」
「そうか」
「さすが『総合技術士』、1日で装置を作り上げてくれました。おかげで研究が捗っています」
「それはよかったな」
そしてヤシマ・スガタは、試作貯蔵庫を仁に見せた。
「これが試作品です」
「おお、いいじゃないか」
外見は白物家電の冷蔵庫である。2ドアだが。
「上のドアは濃度が高め、下のドアは濃度が低めに設定してあります」
「なるほどな」
「まだ実験を開始して6日なので、有意差は見られないと思いますが」
「まあそうだろうな」
貯蔵した食品の自由魔力素濃度が目に見えて上昇するには最低でも1ヵ月はかかるだろうと思われる。
「濃度はどれくらいに設定しているんだ?」
「上が50パーセント、下が20パーセントです」
「ふむ……内部の温度は?」
「摂氏5度に調整しています」
「そうか」
蓬莱島で使われている『魔力庫』は、自由魔力素比が20パーセント以上の冷蔵貯蔵庫である。
これを使うと、魔力系素材の半永久的保存が可能になる。
一方、『自由魔力素ボックス』は自由魔力素比が80パーセント以上の貯蔵庫で、魔力系素材の純度が上がる。
「基本的に、栽培されている作物は大なり小なり『自由魔力素』を含んでいますので、この保存庫の意味があると思っています」
「確かにそうだな」
今回『農業研』が試作した貯蔵庫は、濃度が低い方は仁が作った『魔力庫』とほぼ同じ環境である。
が、濃度が高い方はまだ濃度の値は仁たちのものに届いていない。
(50パーセントだと、どれくらいの品質向上が見込めるかな……ここはもう一言アドバイスしておくか)
……と考えた仁は、
「上の方はもう少し濃度が高いものも実験してみたらどうだろう?」
と言ってみる。
「ゴウが用意した……『自由魔力素凝縮器』の能力はまだ余裕があるんじゃないのか?」
「そうですね、仰るとおりです」
「70パーセント以上で実験してみたら、何か得るものがあるんじゃないと思う。もし『自由魔力素凝縮器』の能力が不足しているなら、2段にして使えばいいんだし」
「あ、そうですね。さすがジン様です」
一旦『自由魔力素濃度』を上げた空間に、もう一度濃度を上げる処理をすることで、効果を倍増させることができる。
これは真空を作り出す真空ポンプや、逆に高圧を作り出す高圧ポンプで使われる手法だ。
「作物の方は……まだまだ結果は出るわけもないな」
「いえ、そうでもないんです」
「ん?」
「実はロロナ様からも助言をいただきまして、『もやし』で実験しているんです」
「あ、なるほどな」
もやしは、緑豆やダイズを、光を当てずに発芽させて水だけで栽培する。
1週間から10日という短期間で収穫でき、種子の時にはなかったビタミンCが生成されるので栄養的にも優秀だ。
なお、光に当てて栽培すると『スプラウト』になる。
アルスでは緑豆のもやしが主流であるが、丸豆もやしも作られてはいる。
今回『農業研』で実験に使っているのは丸豆もやしとのことだった。
「あと2日ほどで収穫し、含まれる自由魔力素濃度を測定してみる予定です」
「もちろん比較対象も栽培しているんだよな?」
「はい。ノーマルな環境で栽培しています」
「それならよし」
結果が出るのが楽しみだな、と仁は内心で思っていたのである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月24日(金)12:00の予定です。
20260421 修正
(誤)「上のドアは濃度が低め、下のドアは濃度が高めに設定してあります」
(正)「上のドアは濃度が高め、下のドアは濃度が低めに設定してあります」




