99-121 メルツェの判断
ルビーナからの忠告を聞き、じっと考えていたメルツェは、ふと顔を上げて改めて考えを口にする。
「そうね……。ルビちゃんの言うとおりかも。重要なのは事件を解決することであって、私が解決することは二の次よね」
「そうだと思う……もちろん、メルちゃんが解決できるのが一番いいんだろうけども」
「うん……」
ルビーナから『頼ってくれ』と言われて、メルツェは少しだけ視野が広くなったようだ。
「だから、今わかっていることをきちんとまとめて報告し、上司の指示を仰ぐ。……それが、私の精一杯」
「うん、なんかいいと思う。メルちゃんらしいよ」
そんな話のあとは少し雑談をし、ルビーナは自室へ戻ったのである。
* * *
翌2日、午前中を最終報告書作製に費やしたメルツェは、午後一番で最高管理官副官のイルミナ・ラトキンと話し合っていた。
「……というわけで、これが最終報告書となります。これ以上は私の能力を超えますので、さらなる指示をいただきたいと思います」
イルミナ・ラトキンは、報告書にざっと目を通してからメルツェに質問する。
「これを見ると、得られた断片的な『転移魔法陣』のデータを使えば、賊がどこへ盗品を送り出したかわかるとありますね」
「はい。それはお借りした『テクノ』からの情報です」
「なるほど、そうでしたね」
技術ゴーレム『テクノ』シリーズは仁が『アヴァロン』支援用に作った技術系ゴーレムである、
ゆえに、そうした解析能力も高いのだ。
「ですが、それを用いて賊の拠点を探すための効果的な作戦は思い付けませんでした。ですので、まずはここまでとして、指示を仰ごうと思ったんです」
「それは、ちょっと残念ではありますが、正しい判断ですね」
イルミナ・ラトキンは微笑んだ。
残念、というのは、メルツェの限界が見えてしまったこと。
が、事件を短期間で解決するためには正しい判断であることは間違いない。
「足りないと思った技能は、これから学んでもいいですし、別の専門家などを頼るのもいいでしょう」
イルミナ・ラトキンはメルツェを諭すように言った。
「さて、メルツェさんは、このあとどうしますか? ……この件から手を引くか、多少なりとも捜査の流れを追っていきたいか、どちらです?」
「ここまで手掛けたので、ここで投げ出したくはありません。捜査の流れを追わせてください」
「いいでしょう。報告や会議のときには声を掛けますから」
「ありがとうございます」
と、そういうことになったのである。
* * *
「ふむ、そういう結果か」
「はい、閣下」
「ぎりぎり及第点……かな」
「そうですね」
「できれば、事件を解決するプロジェクトチームを立ち上げ、その責任者になる……まで行ってくれると満点なんだが」
「彼女の年齢と経験を考えると、それは酷なのでは?」
「まあそうだな。……役目への取り組み方や、責任感、そして柔軟な思考。これからが楽しみだ」
早く一人前になってほしいと切に願う最高管理官であった。
* * *
メルツェの選んだ道は、すぐに老君の知るところとなり、仁に伝えられた。
仁は『ハリケーン改』の中で老君と話し合う。
『御主人様、どういたしますか?』
「そうだなあ……メルツェが選んだわけだから、もう少し見守ってやろうか」
『わかりました』
「ところで、『テクノ』が見つけた『転移魔法陣の痕跡』だが、実際のところ、どの程度再現できているんだ?」
『はい、御主人様。修復率は95パーセント、『テクノ49』と『テクノ50』の能力によるものです』
「なるほど」
仁は少し考えてから、再度尋ねる。
「『転移魔法陣』だが、95パーセントってことは、転移先を特定できそうなのか?」
『はい、御主人様。少し難しいですね』
「やっぱり、キーワードか?」
『仰るとおりです』
『転移門』の場合、2つの場所を繋ぐのは魔力波の同調であり、もっとも簡単なのは魔力波発信の『核』となるパーツを、1つの『魔結晶』から2基分を作ることである。
これなら、チューニングの手間はほとんどなしに作れるが、『転移魔法陣』はその方法は使えない。
ではどうするか。
やり方は幾つかあるが、もっとも大事なのは『偶然に同じ魔力波を発信しない』ことである。
なぜならば『転移魔法陣』は2つ1組が基本であり最終形態であるからだ。
以前仁たちが実験したことであるが、魔法的に同じ魔法陣を3つ作ってしまうと、転移した物体は消えてしまうのである。
そして、3つのうち1つを消しても、ロストした物体はそのまま消えたままである。
4つ、6つなど偶数の場合は安定していて転移は起こらない。
が、消す際に1つを消すと4つは3つに、6つは5つに、つまり奇数になるため、転移範囲にある物体は消えてしまうことになる。
危険極まりないため、この事実は『仁ファミリー』以外には伏せられている。
なんとなれば、簡単に対象を消滅させることができてしまうからだ。
話を戻すと、偶然に『3つめ』を作り出さないよう、同調部分の『魔導式』や『命令』は長く複雑になっている。
わかりやすくいえば、パスワードを日本語の文字全部を使用可能にし、100文字で構成する、としたようなもの。
最低でも1000の10乗通りの組み合わせができ、偶然同じ魔法陣になってしまう確率は天文学的に小さい。
『その同調部分のキーワードが95パーセントしか、『テクノ』には再構成できませんでした』
「老君なら可能か?」
『可能です』
「うーん……それじゃあ、『アヴァロン3』の『管理魔導頭脳ポセイドン』には?」
『時間は掛かりますが、可能でしょう』
「そうか」
それなら『アヴァロン』に任せてもいいなと仁は考えた。
「そもそも、今回の強奪を見てみると、相手は反社会的な集団というよりも、巧妙な犯罪者集団、というようなイメージがあるんだが」
『はい、御主人様、それは正しいと思います』
「そうか」
『はい。……おそらく、転移先を特定し、そこを急襲しても、捕らえられるのは末端だけでしょう』
「なるほどな」
かろうじて幸いと思えるのは、この賊が社会転覆を企むような連中ではなさそうということだろう。
これまで仁が相手にしてきたのは反社会的な集団がほとんどだったので、今回の相手は少々毛色が違うともいえる。
そういう意味で、仁は極力手出しを控え、『アヴァロン』の実力で解決させたいと思っているのだ。
「もう少し様子を見ていてくれ」
『承りました、御主人様』
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次回更新は3月27日(金)12:00の予定です。




