99-120 メルツェの悩み
一夜明けて9月になった。
仁とエルザは、『アヴァロン』を引き払う準備を進めている。
といっても、私物はほとんど置いていない(着替え数着くらい)し、それも『転移門』で送り出してしまえば荷物にならない。
「まあ、私物に関しては気にしてないよ」
「ん、私も」
「問題は引き継ぎと……」
「連絡先」
「だよなあ」
デウス・エクス・マキナ3世の拠点は『アルカディア』だった、ということになっているので問題ないが、仁の拠点は、というと……。
「聞かれるたびにその都度誤魔化してたからな」
「ん、よく今日まで誤魔化し続けられたと、思う」
「だよなあ……」
普段はあちこち飛び回っているので、拠点に連絡をもらってもいない可能性が高いとか、マキナ3世に連絡してくれればいいとか、今は『アヴァロン』にいるからいいだろうとか、その都度適当にはぐらかしていた仁なのである。
「蓬莱島は論外だし、崑崙島も今更かな」
「ん、そうかも」
「どうしようか……」
「……」
「そうだ!」
「え?」
「自分用の『アルカディア』を用意しよう」
「……」
デウス・エクス・マキナ3世には『アルカディア』という拠点があり、それを今は『アヴァロン3』として使っている。
ならば仁も同型の拠点を持っており、いずれ『アヴァロン4』とでもすればいい、と考えたのだ。
拠点としての『アヴァロン』の中心となっているのは、『始祖』が作った、元『ディザスター』と呼ばれたメガフロートである。直径は2キロ。
その周囲に、旧ディナール王国が作った『球形基地』を中心に据えたメガフロート『アヴァロン2』と、元はデウス・エクス・マキナ3世の『アルカディア』転用の『アヴァロン3』が連結されている。
中心となる『アヴァロン1』(元ディザスター)は直径2キロで、『アヴァロン2』と『アヴァロン3』はほぼ同型で直径1キロ。
ならば仁が用意する拠点も同型にしよう、と仁は考えていた。
「エルザはどう思う?」
「……うん、貯まる一方の資材を使うにはいい機会だと、思う」
「だよな!」
エルザの同意も得られたと、仁は喜び勇んで建設計画を考え始めた。
直径は1キロ、全高も1キロ。上面は平らで、胴部は円筒形、下面は半球状にして水圧に対抗する。
そこまでは『アルカディア』と同じだ。
「1が中心となっていて、2が工業、3が軍事施設だったな」
仁は、いずれ4となる自分の拠点は、どんな用途にするべきかを考え始めた。
「やっぱり、農業?」
「産業としてはそうなるかな? 『アヴァロン3』にも農業施設はあるわけだが」
将来連結したらこっちに全部移動させてもいいかな、と仁は考えた。
「……でも、ジン兄の……『魔法工学師』の拠点が農業施設、っておかしくない?」
「あ、そうか……それもそうだな」
じゃあ農業と工場と、2つの用途を担うようにするか、と仁は構想を変更した。
「さすがに2つを持っているというのはやりすぎかな?」
「ん、やりすぎ」
「やっぱりな……」
いずれヘールで隠居する際に、その拠点を『アヴァロン』に寄付していくことを前提に建造していくことになる。
今はその前段階だ。
「じゃあ、やっぱり1つで、3分の1が農業で、3分の2が工場とするか」
「それが妥当。ただ……」
「わかってるよ。工場と農地以外にも居住区とか倉庫とか作るから」
さすがに農地と工場がそのほとんどを占めているというのはまずい。
「ん、なら、いい」
とまあ、そんな検討もしつつ、仁とエルザは引き払う準備を進めていく。
「ゴウとルビーナはまあいいとして、メルツェが問題だな」
「うん、今、抱えている問題がちょっと、大きい」
メルツェ1人の手には余るだろうというのが仁とエルザの見解である。
「メルツェがそれをどう判断するか、だな」
「同感」
自分が任された事件だから、最後まで自分一人で解決しようとするのか、あるいは手に余ることを悟って人に頼るのか。
メルツェの性格上、前者ではないか、と仁もエルザも考えている。
調査員、諜報員であればそれでもいいが、メルツェはいずれ管理官となるべき人材である。
手に余ると判断したなら、速やかに他者に任せることもまた、必要なことなのだ。
「大事なのは事件を解決、それもできるだけ早く……であって、1人でなんとかすることじゃないからな」
「ん、その判断ができるか、どうか」
メルツェに関しては、もう少しだけ見守ることにする2人であった。
* * *
さて、そのメルツェであるが、自室で煩悶していた。
「うう……進展しません……」
情報収集は問題なくこなしたのだが、そこから先、どうすればいいのかがわからない。
もちろん、蓬莱島で老君に相談すればどうにでもなるのだろうが、これは自分の成長のため、と自覚しているメルツェは、己一人でなんとかしようとしていた。
それゆえ、出口の見えない葛藤に悩まされているのである……。
そこに、ノックの音が。
「メルちゃん、ちょっと、いい?」
「あ、ルビちゃん? ちょっと待ってて」
メルツェがドアの鍵を開けると、ルビーナが入ってきた。
リビングにルビーナを通し、メルツェは向かい合って座る。
「ごめんね、こんな夜に」
「いいけど、どうしたの?」
「なんだか、夕食の時から、メルちゃんが悩んでいるような気がして」
「ああ……うん」
「やっぱり、調査の件?」
「……うん」
そっかー、と言って、ルビーナはソファの背もたれに身体を預けた。
そして、
「メルちゃんって、時々一人で抱えちゃうわよね」
と言った。
「え?」
「真面目なメルちゃんらしいけどね、優先順位って、あるじゃない?」
「優先順位……」
「そうよ。悩んでいるなら、あたしやゴウを頼ってよ。ジン様だってエルザ様だって、頼っていいと思うわ」
「そう、かな……」
ルビーナに言われ、メルツェも少し考え方が変わるであろうか……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月24日(火)12:00の予定です。
20260322 修正
(誤)さすがに農地と工場がそのほとんどを締めているというのはまずい。
(正)さすがに農地と工場がそのほとんどを占めているというのはまずい。




