99-119 仁たち、『アヴァロン』に帰る
仁の『ハリケーン改』は現地時間午後3時に『アヴァロン』に到着。
まずは管理課に帰還の報告を行う。
「おかえりなさいませ、ジン殿、エルザ殿」
最高管理官秘書のフィオネ・フィアスが手続きをしてくれた。
「それじゃあ俺は『アカデミー』に顔を出してくる」
「うん、私は『病院』へ行ってくる」
ということで、仁は『アカデミー』へ、エルザは『アヴァロン病院』へとそれぞれ向かった。
* * *
「やあ、やってるな」
「ジンさん、お帰りでしたか」
仁はまず、技術主任であるアーノルトのところへ。
「うん、さっき帰ってきたんだ」
「そうでしたか」
「で、どうだい?」
「ええ、みんなバリバリやってますよ」
「それはよかった。……実はな、そろそろ『アヴァロン』を引き払おうかと考えているんだ」
「えっ……やっぱりそうなんですね」
「うん。とはいえ、しばらくは非常勤ということで時々顔を出すつもりだけどな」
このままズルズルと『アヴァロン』に居続けると、自分への依存度が一向に減らないだろうと仁は考えていた。
そして、それはエルザも同じである。
「そろそろ『非常勤』として、時々顔を出す、程度に減らしていきたい」
「そうですか……」
『アヴァロン病院』院長、ハーシャ・クラウドは少し残念そうに言った。
「でも、困ったときには協力を惜しまない、から」
「はい、ありがとうございます。私たちも自立できるよう頑張ります」
「うん、頑張って」
『アカデミー』も『アヴァロン病院』も、自立の気風が育ち始めているようだった……。
* * *
そして、就業時間も終わり、仁とエルザはそれぞれ風呂へと向かう。
当然のように、仁はゴウと、エルザはルビーナとメルツェに会う。
「あ、お帰りなさい、ジン様」
「ああ、ただいま。……ゴウ」
浴室で仁とゴウは顔を合わせた。
「旅行はどうでしたか?」
「ああ、いいリフレッシュになったよ。いろいろと得るものもあったし」
「よかったですね」
「うん」
* * *
もちろんエルザも、ルビーナやメルツェと浴槽で顔を合わせていた。
「私も今日戻ってきました」
「そう、調査の進み具合は、どう?」
「詳細は話せませんけど、やや行き詰まってます」
「メルちゃん、1人で大丈夫? そろそろ誰かを頼ったほうがいいんじゃない?」
「うん……もう少し、やってみるから」
「無理しないでね」
メルツェの方はあまり進展していないようだった。
* * *
そして夕食時には、久しぶりに仁、エルザ、ゴウ、ルビーナ、メルツェらが顔を合わせた。
「なんか久しぶりね」
「ルビちゃんとゴウさんとも2日ぶりかしら」
「そうだな。メルツェはミツホに泊まったんだって? ジン様とは会わなかったんだ?」
「ええ。でも、ジン様が救助した遊覧船のすぐそばにはいたんですけど」
そんな話が交わされ、食事後も会話は続く。
「そういえば、ショウロ皇国で新たに法整備がされるみたいだぞ」
仁が切り出した。
どうやら今上皇帝陛下は、この話をメルツェの耳に入れて欲しそうだと感じたからだ。
「もうすぐ、国の内外で活躍する者に貴族位を与える、という法が定められることになるようだ」
「それって、例えばゴウさんが、認められれば爵位をもらえるということですか?」
「そうなるな」
「すごい! きっと爵位をもらえますよ」
が、そんなメルツェに、エルザが一言。
「……それよりも、メルツェもその対象に入っていると、自覚しないと」
「え? ……あ、ああ……」
エルザに言われて、メルツェも気が付いたようで、複雑そうな顔になった。
「まあ、今の社会で、『名誉貴族』としての肩書はあって困るものじゃないさ」
仁がフォローする。
仁自身、名誉貴族待遇なのだから。
「そうでしょうか」
「身分差のない世界、社会はまだまだ実現にはほど遠いからな」
「『賢者』がいた世界がそうだった、とか?」
「よく勉強しているな、メルツェ。でも、階級はないけど、仕事上の役職なんかで上下関係はやっぱり残っていたようだぞ」
「そうなんですね」
「そうした命令……いや、指示系統がなかったら社会は成り立たないしな」
「そうですよね」
誰もが好きなことを好きにやっていたら、秩序は崩壊してしまう。
それはもう自由ではなく身勝手だ、とメルツェは思った。
社会秩序を維持するためには、上下関係は不可欠なのである。
ただしそれは人としての尊厳を侵すものであってはならない、というのが仁の持論だ。
(民主主義社会でも、格差は発生するからな……)
仁はそれをよく知っている。
富、地位、発言力だけでなく、身体の健康度でさえ、生まれた時から差があるのだ。
(平等なんて、言葉の上での概念だものな)
そんなプチ哲学的なことも考えてしまう仁。
「まあ社会構造を変えるのは一朝一夕にはできないさ」
社会秩序に関する話題はこれまで、と仁は話を変えることにした。
「ゴウも、そろそろ自分の立場を考えないとな」
「う……わかっては、いるんですけど……」
ゴウも、多少自覚はしているようだ、と仁は感じた。
「こればかりは他人から強制されるんじゃなく、自分で道を選ばないとな」
「……はい、わかりました」
「とにかく、悔いのないようにな」
ゴウたちはどんな道を歩むのだろうか、とまだ見ぬ未来に思いを馳せる仁であった。
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次回更新は3月22日(日)12:00の予定です。




