99-118 旅行最終日
8月29日になった。
「今日は『アヴァロン』に帰る日だなあ」
「ん、楽しかった」
「そうだな」
少なくとも精神的には十分にリフレッシュできたと感じる仁たちである。
「『アヴァロン』に午後3時頃着くには……」
『アヴァロン』との時差はプラス2時間。
なので、
「こっちを午後1時に出れば、いい」
となる。
「と、すると、午前中はどうしようか?」
「うーん……休暇最後の日だから、のんびり、する?」
「それでいいと思うぞ」
「ん」
ということで、お昼までニドー邸でのんびりすることになった。
とはいえ、仁がただ漫然と座っていられるわけがない。
「ああ、ここがちょっと弱っているな。『強靱化』」
とか、
「ここの梁が僅かに曲がっているな。『変形』……これでよし。あとは強化だ『強靱化』」
などと、建物のチェックと修理、補強を行っていた……。
また、エルザはエルザで、使用人に健康診断を行っていた。もちろん無償で。
ニドー邸には4人の使用人がいるのだが、全員健康であったため、診察は20分で終了。
手持ち無沙汰になったエルザは、この機会にフレディとグリーナの結婚式についての情報やアイデアをまとめようと考えた。
そこでココナを呼び、いろいろと話を聞く。
「そうですか、一族の末裔のお二人が結婚式を……」
「ん。今どきの結婚式について、教えてほしい、と思って」
「そうですね……クライン王国の北にあるカイナ村で行うんですよね?」
「そう」
「でしたら、クライン王国には期日をお伝えしておいたほうがよろしいかと」
「確かに、そう。……招待まではしなくてもいい?」
「難しいところですね。自治領の次期領主夫妻ですからね……」
さじ加減が難しい、とココナは言う。
「最初に、『身内だけで』とはっきりしておけば大丈夫かと思います」
「あ、なるほど」
ココナのアドバイスに納得するエルザ。
「そうすれば、お祝いの言葉か、場合によってはお祝いの品物が送られてくる程度で済むかと」
「ん、それなら、ちょうどいい」
だとしたら、『ファミリー』で出席するのも仁とエルザだけにしておいたほうが無難かなと考えたエルザである。
「『ファミリー』や『オノゴロ島』のメンバーには、披露宴か新婚旅行で顔合わせすればいいと、思う」
「そうですわね、それでいいのではないでしょうか。……第一、村の人たちはみんな来るんでしょう?」
「二堂城でやる以上、そうなると、思う」
少なくとも前庭には集まるだろうとエルザは想像した。
「でしたら、お偉いさんは少ないほうがいいと思います」
「ん、確かに」
『ファミリー』のメンバーは遠くから見守っていればいい、とエルザは思う。
『覗き見望遠鏡』でもいいし、透明化できる結界だってあるからだ。
こうして、いろいろと情報を集めるエルザであった。
* * *
そうこうするうち、時刻は午前11時を過ぎる。
「全部終わった」
屋敷のチェックをしていた仁は、満足そうに頷いた。
仁渾身の強化も加えているので、余程のことがない限り、あと500年くらいは劣化しないであろう。
「ありがとうございました、ジン様」
「いやいや、ここは思い出の屋敷だしなあ」
仁がショウロ皇国に居を構えた、その時のまま今も使われているのだ。
これは、仁が施した保存・強化系の工学魔法が強力であると同時に、代々の子孫たちが大切に使い、住んできたからでもある。
(今度ヘールに、ここと同じ屋敷も建ててみようかなあ)
と思い付いた仁である。
そして一休みするために居間へ行くと、ちょうどエルザも、ココナとの話が一段落したところであった。
「あら、もう11時20分ですか。そろそろ、お昼の支度ですわね」
ココナはそう言って席を立った。
通常は、自分で調理はしないものの、料理人に指示を出すのがココナの役目なのである。
「今日のお昼はパシュタにしましょうか」
トカ村の名物料理である。
味付けは各地でいろいろとアレンジが増え、ニドー家での定番はミートソースだ。
トマトケチャップ、マルネギ(タマネギ)、カロット(ニンジン)、ガリク(ニンニク)、塩、コショウ、植物油などを使う。
それぞれの分量は世代によって違うようで、ココナのレシピは初代であるエルザのモノに近い感じであった。
粉チーズを掛けて食べると、風味がよい。
「うん、美味しいよ」
「よかったです」
「ん、これはいい味」
仁とエルザに褒められ、ココナは喜んだ。
なお、飲み物はシトランジュースで、エルザのお気に入りだった。
* * *
「いろいろとお世話になりました」
いよいよ仁たちが出発する時刻である。
「お構いもしませんで」
短い挨拶ではあるが、心のこもったやり取りを交わし、
「ホープ、発進だ」
「了解です」
『ハリケーン改』はロイザートの空に舞い上がったのであった。
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次回更新は3月20日(金)12:00の予定です。




