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99-117 保護者たちの話

「最近のメルツェの様子はどうだろうか?」

「はい?」

「いや、ここのところ、メルツェからの手紙が来なくてなあ」


 何かあったのか心配でならぬ、と皇帝陛下。


「ええと、今彼女は世界各国で起きている物資の盗難について調べています。あ、もちろん護衛もついていますから大丈夫ですよ」

「ふむふむ。……それは、我が国では例の『トロッケンバーン』で起きた事件か?」

「はい、そうです。調査といっても聞き込みがメインで、荒事とは無縁ですので」

「そうか、ならば一応は安全なのだな」

「はい。ゴーレムの護衛も一緒ですし」


 実際に現地を訪れているのは『分身人形(ドッペル)』なのだが、そこまで打ち明けるわけにはいかない。

 それでも、


「それを聞いて少し安心したぞ」


 と、胸を撫で下ろす皇帝陛下であった。


「だが、何ゆえにそんな役目を?」

「将来の管理職として、経験を積む必要がある、ということでした」

「……なるほど。メルツェは『最高管理官』候補ということだったな」

「はい」


 仁が頷くと、皇帝陛下は小さくため息をいた。


「やはり戻って来る気はないのだな……」


 万に一つ、気が変わって戻ってくるなら喜んで一族に迎え入れようと思っていたのだが、と皇帝陛下は愚痴のようにつぶやいたのだった。


「いや、ショウロ皇国との絆が切れないようにすることが最善か……なあ、ジン殿?」

「そうだと思います」


 仁も忌憚きたんのない意見を口にする。


「『アヴァロン』の幹部になったとしても、母国との繋がりが切れないようにする、というのも重要かと」

「ふむ……母国との繋がりが完全に切れてしまうと『アヴァロン』が独立国家になってしまう危険性があるからな」


 皇帝陛下は、仁も思っていなかった側面を突く。


「それは杞憂きゆうではないでしょうか?」


 思わず仁も、正直な感想を口にしてしまう。


「そうかな? ……うむ、今はまだ、母国への帰属意識があるだろう。だが、将来的にはどうかな?」

「将来的ですか……」

「そうだ。……この先『アヴァロン』がさらに拡張され、自給自足ができるようになったとしよう。また、居住環境もより整備され、『アヴァロン』で生まれ育つ『第2世代』が出てきた時を考えてみるがよい」

「なるほど、そういうことですか」


 皇帝陛下の説明で、仁にも想像することができた。

 そもそも、仁自身が『アヴァロン』をそうした独立できる環境にしようとしているのだから。

 だが、自給自足できる独立した環境であることと、そこに住む人間の帰属意識が変わるのは分けて考えるべき問題であるらしいと気が付く。


「『アヴァロン』は、あくまでも中立な機関であるべきだと思っています」

「それは正しい認識だと思うぞ」


 仁は己の考えを口に出し、皇帝陛下はそれを認めた。


「だが、その先が難しい。勤めている人員は、それぞれ世界各地から来ており、母国の利害と無関係ではいられないだろう」

「そう思います。それをなんとかしたいとも考えています」

「理想論だな。だが追うべき理想だ」


 皇帝陛下はそう言って仁の考えを称賛した。


 今のところアルス人類は、まだまだ未熟であり、己の帰属する社会はせいぜいが『国』止まりである。

 いや大多数は『村』もしくは『町』であり、『家』である者も少なくないと思われる。


(世界市民という言葉があったが、まだまだアルス人類はそこまで至っていないよなあ……俺を含めて)


 宇宙の深淵を垣間見た仁でさえ、この世界の故郷はカイナ村であると感じているのだから。

 そして、


(おそらく『始祖(オリジン)』は世界市民的な意識を持っていたんだろうな)


 とも考えていた。


*   *   *


「この問題は一朝一夕に解決するものではないし、特定の国だけでなんとかできるものはない。長い目で見ていこうではないか」


 との言葉を残し、今上皇帝陛下はニドー邸を後に、宮城(きゅうじょう)へと戻っていった。


「お戻りになりましたな」

「しかし、驚いたね」


 ダイキと仁は顔を見合わせた。


「だけれど、陛下がああしたお考えを持っているということが知れてよかったよ」

「そうですね」


 今後、ゴウがニドー伯爵家を継ぐにあたって、『アヴァロン』に勤務したままでも大丈夫、となれば好都合である。


「あとは、メルツェとルビーナの問題か」

「そうですね……伯爵であれば、2人ともめとるのに問題はないのですが……」


 言葉を濁すダイキ。


「……その場合どうしても、第1夫人はメルツェになるな」

「……はい」

「もっとも、ルビーナは第2であることを気にするような子じゃないよ」

「そうでしょうね、それはわかっているんですが」


 ゴウがどう思うか、という問題もある。


「そのあたりは、私どもから話をしましょう」

「その方がいいかもしれませんね」


 家の継承問題が絡むので、養父母からの方がいいだろうと仁も納得した。


「……では、この問題はここまでということで」

「はい、ジン様」


 これ以上は話し合うだけでは進展しそうもないため、一区切りをつけることにした仁たちである。


*   *   *


 そうこうするうちに時刻は午後6時を回っている。

 夕食にはちょうどいい時刻だ。


 支度はココナとゴーレムメイドたちが済ませていた。

 ショウロ皇国の伝統料理……ではなく、ニドー家の伝統料理である。

 つまり和洋折衷の日本の家庭料理だ。


 白米のご飯、トポポ(ジャガイモ)とマルネギ(タマネギ)の味噌汁、プレーンオムレツ、ピグ(豚)カツ、野菜サラダ。

 食前酒にはプルメ酒(梅酒)、食後のお茶は緑茶である。


「うん、美味しかったよ」

「おそまつさまでした」


 もう難しい話はやめにして、世間話に花が咲く。


 最近のロイザートの流行はやりとか、皇帝陛下の皇妃さがしの話とか、隣近所の貴族家の噂話とか……。


 主に話をしていたのはココナ。聞き役に徹していた仁とエルザだったが、このひとときを十分に楽しんだのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月17日(火)12:00の予定です。

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L「最近のおばちゃんの様子はどうだろうか?」 仁「はい?」 L「いや、ここのところ、おばちゃんからの手紙が来なくてなあ」 何かあったのか心配でならぬ、と皇帝陛下。 仁「むしろ、陛下に何があったか心配な…
アヴァロン自体がもともとジンの所領(崑崙国)なのだから、そのことを説明すれば一発で済むのでは? 自給自足になったらとか言っても、蓬莱島から大量輸送が可能なのだから、心配する意味がないでしょう。 既に自…
>「そうかな? ……うむ、今はまだ、母国への帰属意識があるだろう。だが、将来的にはどうかな?」 元憂世団メンバーにはなさそう。 >との言葉を残し、今上皇帝陛下はニドー邸を後に、宮城へと戻っていった…
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