99-116 突然の・・・
ゴウ、ルビーナ、メルツェの将来について考えている仁に、ダイキがさらなる報告をする。
「その上、先日陛下が新法を提案なさいまして」
「うん、どういう内容で?」
「ええ、それが、貴族の義務に関することでして」
「うん」
ショウロ皇国における貴族のあり方は3つほどある(他の国でも似たようなもの)。
1つ目は、領地を経営し、決まった税を民に納めさせ、そこからさらに国に納める。
国の予算の大半はこれで賄われている。
2つ目は、領地を持たず、国の運営に携わる。
上は宰相から下は兵士まで。言うなれば国家公務員である。
もちろん、領地持ちだからといって国の運営に携われないということはない。
その場合、自領の運営には代官を置くことになる。
3つ目は、名誉貴族。過去の功績により爵位を持っているが、領地はない。
が、国への納税の義務もない。
2と3は同時に担うこともできる。
かつてリシア・ファールハイトの父が近衛騎士として手柄を立て、名誉士爵になったのもこの制度である。
ちなみにニドー家も2と3である。
初代である仁の功績により名誉貴族となり、今現在は伯爵。
また、宮城での役職は技術職の1つ、『近衛技術士官』。階級は少佐である。
ダイキ自身は工学魔法を使えないが、その豊富な知識を活用し、指導やプロジェクトのまとめ役を任されている。
『近衛』であるため、簡単な手続きで皇帝への謁見も行える。
「4つ目として、国の内外で世の中に貢献をする者にも貴族位を与えていいのではないかということだったんですよ」
「ほう……」
「あ、国の内外、ということは、例えば『アヴァロン』で活躍する、とか?」
エルザが思いつきを口にする。が、それは的を射ているようだった。
「それはあると思っています」
「つまり、ゴウやメルツェが『アヴァロン』で功績をあげれば、内容によっては貴族位が?」
「そうなるのではないでしょうか」
「うーん……」
「あの陛下なら、そうした案を、考えそう」
「エルザの言うとおりかもな……」
叔母であるメルツェをこの上なく大事に思っている今上皇帝陛下。
『世界会議』を通じて、メルツェの活躍も(もちろんゴウの活躍も)耳にしているはずである。
その上でこうした制度を思い付いても不思議はない。
メルツェが母国ではなく『アヴァロン』で働きたいという意思があることははっきりしており、かつ将来の管理官として有望である。
さらにゴウも『アヴァロン』で『総合技術士』の資格を得ている。
そして2人が惹かれ合っていることもなんとなく察しており、『『アヴァロン』の幹部になることも許容する』という言葉と合わせて考えれば、そんな彼らの将来を考えた……という推測は、あながち的外れでもないであろう。
「これは、陛下にお会いしてみる必要があるかな?」
「ん、ゴウたちの将来を考えるなら、早めに」
「でしたら明日の朝、謁見致しましょうか」
「できるかな?」
「ジン様なら、いつでも大丈夫だと思います。特にメルツェさんにも関わりのあることですから」
「ならいいんだが……」
実際、『魔法工学師』はそうした特権を持っているのだが、今回に関してはかなりプライベート寄りの内容なので少々遠慮している仁なのであった。
そこでダイキは宮城へ使いの者を走らせたのである。
* * *
午後3時。
昼食が午後1時だったので、お茶の時間にするかどうか考えていた、その時。
「皇帝陛下がお越しです」
と、執事ゴーレムのバトラーDが報告してきた。
「ええっ!?」
慌てて玄関へ向かうダイキ。
仁とエルザ、礼子、ホープも続く。
そこには、皇帝陛下を護衛する近衛騎士が3名立っていた。
背後にはお忍び用と思われる、比較的地味な馬車が。
「陛下のおなりである」
「はっ、臣下ダイキ・ニドー、謹んでお迎えいたします」
片膝を突き、臣下の礼を取るダイキ。
仁とエルザは臣下ではないので、立ったまま胸に右手を当て、45度のお辞儀を行う。
礼子とホープは仁たちのさらに後ろに立ち、30度ほどのお辞儀をしている。
「よい、忍びである。顔を上げよ」
よく通る声が響いた。
暗めの金髪に碧眼、今上皇帝エルンスト・ルプス・フォン・リヒト・ショウロが、馬車から降り立ったのである。
「城から『魔法工学師』の飛行船が見えたのでな。話がしたくてやって来たのだ」
今年42歳になる皇帝はフットワークが軽い。
そんなところはかつての女皇帝によく似ているな、と感じた仁であった。
* * *
応接室にて。
もちろん皇帝は一番の上座に着席。
次席には仁、その隣にエルザ。
仁とエルザの対面にダイキとココナ夫妻が座った。
バトラーDが全員分の(近衛騎士は立ったままなので除く)お茶を用意した。
ダイキ ココナ
皇帝 ←上座 下座→
仁 エルザ
こんな位置関係である。
閑話休題。
「さて、いきなり城を抜け出してきたので時間もあまりない。要件を手短に済ませてしまおう」
いきなりぶっ飛んだことを言い出す皇帝陛下だった。
護衛の近衛騎士たちは平然としている。
時折こうした突飛な行動をする以外は名君なのである。
「先日、ニドー卿には伝えたが、ジン殿は聞いてくれたかな?」
「ええと、国の内外で活躍する者に貴族位を与える、という件でしょうか?」
「そうだ。どう思われる?」
「私としてはいいことだと思います」
「そうか、それは嬉しい」
破顔する皇帝。
「それでだな、ここからが本題なのだが……」
仁たちは居住まいを正した……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月15日(日)12:00の予定です。
20260313 修正
(誤)片膝を付来、臣下の礼を取るダイキ。
(正)片膝を突き、臣下の礼を取るダイキ。




