97-83 仮想世界
『ヘッドセット』は、個人用のものがあるといい、という意見を受け、ゴウたちは考えた。
「コネクターで接続すれば、ヘルメット部分は個人用にできるんじゃないでしょうか」
「お、それはいいな。その線で行こう」
512本分のコネクタをどうするか、という問題が残るが、そちらは些細なこと。
「ヘッドセットはこちらで預かるのがいいでしょうね」
「そうだね。持ち帰って弄られたら困るし」
「分解されたり改造されたりも困りますよ」
「そういうことがないよう、『世界会議』用のヘッドセットは専用のロッカーを設ければいいよ」
仁がそう言うと、グローマが別の問題を提起してきた。
「あと、ヘッドセットの接続はどうします?」
「というと?」
「20台くらいならまだいいけれど、100台を接続しようとしたら挿し間違いも起きそうで」
「なるほど……でも、ヘッドセットのコネクターはどこに挿してもいいだろう?」
「あ、それはそうですね。でも、各自用のコネクターをどこに設けます?」
会議用テーブルか、それとも会議用の椅子か、あるいは天井からケーブルをぶら下げるか……。
「天井からケーブルというのはやめよう。見た目が悪すぎる」
「……そうですね」
天井から無数のケーブルがぶら下がり、そこに繋いだヘッドセットを被っている者が数十人……。
という光景を想像すると、仁としては勘弁してくれ、と言いたくなるのだった。
「つまり、『会議室を設計し直す』必要があるということですね」
「そう……なるな」
今までは大きな円卓であったが、『思考会議』であればその必要はなくなる。
それこそ、学校の教室のように並べてもいいわけだ。
「それでしたら、各国ごとにテーブルを設けたらどうかしら?」
ルビーナの提案を聞いた仁は、現代日本での結婚式披露宴を思い出す。
(あれも『新婦友人一同』とか『新郎親族』とかで分けていたんだよな……)
2度ほど、先輩の結婚式に出席したので覚えがある仁であった。
(だけど、料理はまずいし少ないし、ご祝儀は取られるし、引き出物は2人が寄り添った写真を使った絵皿だし……ロクなもんじゃなかったな……)
苦い思い出である。
それを振り払い、仁はそういったテーブルの配置を考えてみる。
「ルビーナの意見はいいかもな。国の数プラスアルファのテーブルを用意しておき、どこにどの国が座るかはくじ引きで決めれば文句も出ないだろう」
「毎回、座るテーブルも違うんですね」
「テーブル中央に『魔導投影窓』を埋め込んでおくのも面白いんじゃない?」
ルビーナがちょっと方向性の違う意見を出す。
「反対側に座った人は見にくいだろう」
「あ、そうか。じゃあ、4つくらい埋め込んで、どの方向からも見えるようにしたらどう?」
「それならいいかもな」
「なら、テーブルの側面にコネクターを付けますか」
「それもいいかな」
「あと、椅子は少しゆったりくつろげるものにしないと、長時間の会議には辛いかも」
「長時間といっても半日くらいじゃないの?」
「いや、『世界会議』なら3日間くらいがデフォだから、3倍としてちょうどまる1日だよ」
「そっか……」
いろいろな意見が出ている。
「うーん……これもすぐには決められないな」
「やってみてから決められるといいんですけど」
アーノルトの呟きにゴウが応じ、それを聞いたルビーナがひらめく。
「『思考会議』……ううん、『仮想世界』の中でシミュレーションできないかしら?」
「ルビーナ、いいアイデアだ!」
エイラが即反応した。
「もしもそれができれば、デザインや使い勝手を決めるための試作もずっと少なくて済むから予算の節約になるね。そして開発期間の短縮にも」
アーノルトが興味深そうな顔でそう言った。
(蓬莱島だと、老君がシミュレートしてくれるが、合議制の場合はこうした3Dシミュレーターみたいなものがあるといいんだなあ……)
仁はふと、そんなことを考えたのである。
(その代わりに『仮想世界』でのシミュレーションか、悪くないな)
「『思考会議の場所』……もう『仮想世界』でいいかな。……『仮想世界』のレイアウトはこちらで決められるから、『世界会議』の会議室のデザインを決めるためにもう一度『思考会議』をしてみるのもいいかも」
「そうよね。……みなさん、どうかしら?」
「異議なし」
「面白いじゃないか」
反対は出なかったので、全員ヘッドセットを被り、『仮想世界』へと移動(?)した。
《では、工学魔法を使って、テーブルと椅子を作ります》
《工学魔法?》
ゴウの言葉を、グローマが聞きとがめた。
《えっと、正確には設定を拡大して、イメージを反映できるようにするんです》
《ほう……》
《それはすごいな》
まさに『仮想世界』。
この説明に、エイラとグローマは感嘆した。
《『変形』》
《お……》
《これはいい》
なにもない空間にテーブルや椅子が『生えて』くる。
《『仮想世界』ならではの光景だな……》
仁も感心せざるを得ない。
もっとも、こういう体験は、仁が異空間にあった時、『精神生命体』が無から有を生み出す光景を何度も見ていたのだが。
何度見ても慣れるものではないようだ。
ゴウとルビーナにより、たちまちのうちにテーブルと椅子ができあがった。
《どうでしょう?》
《うん、なかなかいいね》
アーノルトは気に入ったようだ。
《椅子は、背もたれの角度を調節できるといいかもな》
《あ、そうですね》
すぐさまゴウは対応した。
《ほう……これは面白いな》
《イメージがしっかりとできあがっていないと駄目ですけどね》
《そういう意味でも『魔法技術者』は慣れているわけだ》
《そうも言えます》
こうして、世界初めての『仮想世界』での検討会が行われていった。
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