97-84 仮想世界の可能性
『仮想世界』での検討会は一段落。
最終決定は翌日、本日の実験に参加してくれた人たちからの意見を聞いてからになる。
「そういうわけで、もう少し時間があるから、別のことを検討してみよう」
「何をです?」
「それはやはり、『仮想世界』の可能性だな」
「何ができるか、ですね」
「それに必要なのは、やはりイメージかな……」
『仮想世界』でのイメージ力。
それはやはり『魔法工学』を修めている者たちが抜きん出ている。
「『変形』」
実際に魔法を行使しているわけではないが、いつもの癖というか、習慣というか。
こうすることでイメージも固めやすくなるようで……。
「うん、真球50個を作ることもできるな」
「……ジン様だけですよ……」
「……あたしは20個が限界……」
ゴウとルビーナでも仁にはまるで及ばない。
それを見たアーノルトが、
「これって、『工学魔法の練習用』にもいいんじゃないかな?」
と気がついた。
「ああ、いいかもな。それ用にカスタマイズする手もある」
「ですね。それなら20人も100人も繋ぐ必要はないでしょうし」
「だな。せいぜい5人くらいか? なら、かなり高機能にできそうだ」
新たな可能性も生まれてきた。
「だったら、いろいろな『練習』にも使えないか?」
エイラもまた、意見を述べる。
「ああ、自動車とか飛行機とかの操縦なら練習できるかも……うまく使えば有益だな」
その場合、実際の練習機を使うよりも短時間で習熟できるだろう。
特に飛行機。
最初期を『仮想世界』で訓練することで、墜落の危険性をぐっと減らすことができそうである。しかも短時間で。
「検討する価値はあるね。予算を計上しよう」
アーノルトは大乗り気である。
「ただ、取り掛かれるのはだいぶ後になるでしょうが」
「それは仕方ないと思いますよ、主任」
「頑張って今の仕事を終わらせますから」
「うん、ゴウ君たちに期待しているよ」
そこへさらに、エイラからアイデアが投下される。
「運動能力の訓練ってできないかな?」
「そうだなあ……反射神経を鍛えることならできそうだけど……エルザ、どう思う?」
「ん……運動は、筋肉も大きく関わってくるから、神経系・命令系だけを鍛えてもあまり効果はない……と思う」
「そっかー」
「でも、疑似的に筋肉に刺激を与えて鍛えることは、理論的には、可能」
そこで一旦エルザは言葉を切って、再び語り始める。
「やっぱり、動作に慣れる、そのくらいにしておくのがいいと、思う」
「うん、わかったよ、エルザさん」
エルザからもちょっと無理と言われ、エイラは引き下がったのである。
「訓練用のシミュレーターも、この後研究するとして、『思考会議』の魔導機について、もう手を加えるところはないでしょうか」
「今日参加してくれた人たちの意見を明日の午前中に取りまとめてもらうとして、そちらはソフト面だろうから、ハードの方は取り掛かってもいいんじゃないかな?」
「そうですね……」
一番の懸念は高品質の『魔結晶』である。
仁はそれは任せてくれと言い残し、工房へと向かった。
それに続き、ゴウとルビーナも工房へ向かう。
残ったエイラ、グローマにエルザが声を掛ける。
「ソフト面……基本的な部分はもう手掛けてもいいと、思う」
「そうですね」
「及ばずながら、私も、手伝う」
「エルザさんが力を貸してくださるなら百人力ですよ!」
「ふふ、だといいけど」
そして、エルザ、エイラ、グローマという変則的な3人での検討会が始まったのだった。
* * *
ゴウたちが使っている工房に向かった仁は、ゴウたちが到着するのを待った。
そして数十秒後、ゴウとルビーナが到着した。
「ゴウ、ルビーナ、使えそうな『魔結晶』はあるか?」
「はい、横の棚に」
「お、これか」
『光属性』の『魔結晶』を6つ。
大きさは中くらい……つまり大きめの飴玉くらい。
それを3つ、手に載せた仁は、ゴウとルビーナに話し掛ける。
「いいか、よく見ておけよ」
「はい」
「はい!」
「『融合』『変形』『純化』『均質化』『結晶化』」
「わあ……」
「どうだ、見たか?」
「はい!」
「何をやったか、わかるな?」
「はい」
「はい!」
大きく頷くゴウとルビーナ。
「『融合』で3つの『魔結晶』を1つにしました。それを『変形』で使いやすい形にし……」
まずゴウが答え、ルビーナが引き継ぐ。
「『純化』で不純物を取り除き、『均質化』で組織を均一化」
ここからは2人で交互に答える。
「『結晶化』で」
「1つの『結晶』にしたんだわ」
仁は満足気に頷いた。
「そうだ。『融合』で一体化した『魔結晶』は、例えるなら融かして1つにした水晶みたいなものだから、結晶としての性質を失っている」
「だから『不純物』を取り除いたあと、組織を均一化し、『結晶化』で再結晶させたわけですね」
「そのとおりだ。もう一度やってみせるから、よく見ていろよ」
「はい!」
「『融合』『変形』『純化』『均質化』『結晶化』」
こうして、高品質な『魔結晶』2個は準備できたのであった。
「……やっぱりジン様の工学魔法は見事だなあ」
「見習いたいわね」
と、感心している2人に、仁から声が掛かる。
「おいおい、感心しないでやってみるんだ」
「えっ」
「まだ棚に『魔結晶』があるだろう? 最初は2個でいいから、やってみろ」
「は、はい……」
「失敗したら、蓬莱島の在庫から補充してやるから、思い切ってやれ」
「はい……」
ゴウとルビーナも、仁に言われ、ゆっくり目ではあるが同じことをやってみる……。
「あ、できました」
「あたしも!」
4個ほど駄目にした後の結果である。
「よくやったな」
「ご指導、ありがとうございます!」
「ジン様、ありがとう!」
「そのコツを忘れるなよ」
こうして、ゴウとルビーナも成長していくのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240707 修正
(誤)もう一度やってみせるから、よく見ているよ」
(正)もう一度やってみせるから、よく見ていろよ」




