97-01 3年後の風景
月日は流れ、3906年の4月4日。
蓬莱島の研究所に『仁ファミリー』が勢揃いしていた。
「乾杯!」
「乾杯!」
「かんぱーい!」
『仁ファミリー』メンバーの誕生会以外では珍しいことである。
が、この日は『打ち上げパーティー』であった。
なんの打ち上げかというと……。
「これで『オノゴロ島』も元の無人島か……」
『オノゴロ島』の住民を『惑星ヘール』に移住させるプロジェクトが終了したのである。
「いやあ、ジン、3年間、大変だったよなあ」
「それでもやり遂げたものなあ」
「みんなの協力あってのことさ」
「……で、元の場所はどうなっているんだっけ?」
「ほぼそのまま残っているよ。人工物は全部撤去したけど」
以前話をしていた、『惑星ヘールの再興』の一環として、『オノゴロ島』の住民を全員移住させたのである。
「説得が大変かと思ったけど、全然大変じゃなかったからな」
「ジンしゃまの人徳でしゅ」
「いや、そこはマリッカの人望だろう」
「はわわ」
移住を渋る者が出るかと心配していたのだが、仁とマリッカが計画を説明すると、全員が即了承したのである。
そこで住民の協力を得て移住計画が発動した。
移動は『転移門』があるから全く問題なかった。
大変だったのは環境を整えること。
仁としては『オノゴロ島』の環境にできる限り近付けたかったのである。
島でなくなることについては、住民の総意として許容してくれたので、自然環境を近付けることにしたのだ。
具体的には温湿度、である。
『オノゴロ島』は南回帰線上にあるため、冬至には太陽セランが真上に来る。
また、海の中にある島なので、海洋性気候である。
これらを考慮した結果、『南半球』『海の近く』という条件が決まった。
残るは年間の気温である。
観測地点がまばらではあるが、温湿度のデータはあったので、それを参考に、適した土地を決めた。
ポジションとしては南回帰線上(南緯16.5度。アルスと同じ)、西経(ヘールもアルスと同じく西経を使う)90度付近。
そこに、『オノゴロ島』と同じような地形にするため工事が行われた。
これがなかなか大変であった。
土地の起伏や地質もできる限り似せるということに仁が拘ったからだ。
結局『オノゴロ地区』が完成するまで、ほぼ2年が費やされた。
これは、地形を変えるだけでなく、植生も似たようなものにするために時間が掛かったのである。
しかしその甲斐あって、全く違和感がないほどに『オノゴロ島』そっくりに仕上がったのである。
そしてその後1年を掛け、ゆっくりと移住を進めていったのだ。
住んでいた家をそっくりそのまま移築するため、これまた時間が掛かったのである。
ちなみに最後に家を移築したのは、『世話役』を務めるトライハルト・ランドルとスザンヌ・ランドルの夫妻であった。
もちろん、ルビーナの祖母であるアマンダ・ギャレットもヘールに移住済み。
ゆえにルビーナの生家もそっくりそのまま移築された。
ちなみに、近々ルビーナを『ヘール』へと連れて行ってやろうかと仁は考えていた。
* * *
マリッカの配下で『管理統括魔導頭脳テスタ』、地上施設を管理する『自動人形ディレク』、『モヒカン』風の突起が付いた頭頂部を持つ『ゴーレムのヘレンテ』もやって来ており、オノゴロ地区がオノゴロ島そっくりであることに驚愕していた。
「生活はこれまでどおりに続けてくれて構わないし、『外』へ行きたければそれも自由だ。アルスに行きたいときも、『テスタ』に断ってもらえばいい」
彼らの生活は『ディレク』が中心となって支えていくことになる。
要望があれば仁もゴーレム部隊を派遣することはやぶさかではない。
とはいえ、今のヘールならその必要はないだろうが……。
「これからはどうするんだい、ジン?」
ラインハルトが尋ねた。
「そうだな……また少し、アルスで過ごすかな」
この3年間、アルスには『分身人形』が派遣され、必要最小限の活動をしていたのだ。
『中継基地』の細かな整備や改造。
『通信ネットワーク』のフォロー。
『看護師候補生』たちの教育。
『医療』の講義。
『カレー』のレシピ公開とスパイス栽培の指導。
『バニラ』の公開と栽培の奨励。
『魔導高分子合成機』のお披露目と使い方の指導。
化学物質の危険性と取り扱いについての指導。
『電気技術『中級』講座』教科書の監修。
『四つ足歩行』機動車のチェック。
カートコースの充実と新型カートの用意。
『アヴァロン3』での薬草栽培。
「……知らない間にいろいろと進展したなあ」
「ゴウとルビーナも『自動車』を完成させましたしね」
「『雪上車』も作ったようだね」
「エイラとグローマも『四つ足歩行機』を完成させているし」
「そうそう、そのお二人、結婚もしたそうじゃない?」
「そうだったな。式も何も挙げなかったから忘れていたよ」
「結婚といえば、カチェアとベルリッヒもだろう?」
「そうだったそうだった」
3年という年月はそれなりに長かったようである。
「そういえば、ダーラト公国の運河もとっくに完成していたんだろう?」
これはルイスである。
「していた。3902年の3月27日にな」
「あまり知られていないよな?」
「うん……。ダーラト公国があまり大々的な発表をしなかったことが大きいな」
そしてもう1つ、ローレン大陸の住民には恩恵が少ないことが挙げられる。
ゆえに最も利益を得られるダーラト公国以外では大した話題にはならなかったようだ。
「将来的には船舶の往来で賑やかになると思うんだけどなあ」
仁はそうした未来を想像していた。
「うん、そうだろうな。ただ、まだその船舶が未発達だからじゃないかな」
「そうかもしれない」
「その前に『転移魔法陣』や航空機が発達したらどうなるんだろうな」
「そういう未来の可能性もあるのかな」
「可能性はありそうだな……」
それは神のみぞ知る、というやつだな、とラインハルトは言って、手にしたワインを飲み干した。
「あとは『アヴァロン4』だな」
「増設かい?」
「うん。『1』を中心にして周囲に3つ、120度ずつずらして連結するつもりだ」
建造自体は昨年取り掛かって1ヵ月でできていた。
「タイミングもあったしな」
「そういうことか」
「これで『アヴァロン』も当分、収容人員や機能面で余裕ができるだろう」
* * *
「今は第2期の『看護師』養成中?」
一方で、ステアリーナがエルザに尋ねている。
「ん。第1期の5人は、1人も脱落せずに『正看護師』になった。今は第2期の10人を指導している。もう1年経ったので、あと1年」
「2年間の研修が必要なんだ?」
「そう。実習が必要だし、いろいろ経験していないと対処できないこともあるから」
……と言っているが、エルザとリシア、それにミーネが指導した『看護師』は、現代日本で言えば『NP』……『Nurse Practitioner』、『診療看護師』に近い実力を要求されていた。
病院によっては希望者に学費を援助し、資格を取ることを奨励しているところもあるという。
要するに『医療行為』もできる看護師である。
「『アカデミー』の認可を受けた『医師』も12名、各国に最低1人はいて、指導も行っている」
「まだまだ足りなそうね」
「ん、こればかりは、仕方ない」
人材の育成には時間が必要なのだから、と言ってエルザは苦笑を浮かべたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240415 修正
(誤)土地の起伏や地質もできる限り似せるというこに仁が拘ったからだ。
(正)土地の起伏や地質もできる限り似せるということに仁が拘ったからだ。




