96-100 ハンナの誕生日
2月8日はハンナの誕生日である。
蓬莱島では恒例の誕生日会が開かれていた。
「ハンナ、誕生日おめでとう」
「ハンナちゃん、お誕生日おめでとう」
「おめでとう、ハンナちゃん」
「おにーちゃん、ありがとう。みんな、ありがとう」
そして今回も花束やお祝い品の贈呈はなしである。
本人たちもある意味ほっとしているので、これでいいのだ。
「ハンナ、この前の『魔導高分子合成機』、重宝しているよ」
「うん、よかった」
「くふ、ボクもいろいろ作って試しているんだ」
「サキおねーちゃん、毒性の高い物質もあるからね?」
「大丈夫さ。自分で操作せずに助手ゴーレムにやってもらっているから」
「それなら安心だね」
サキもまた、危険物の生成にはゴーレムに手伝ってもらっていることを知り、仁はやはりその方法は安全性が高いなと再認識する。
「おにーちゃんの方はどう?」
「うん、こっちは……」
『アヴァロン』での用途はいろいろ制約を掛けたものを使っているので、検証できている物質も限られてはいるが、それでもいくつか結論らしきものは上がってきている。
「アクリルとポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンは使い道が多そうだ。だから単体を量産できる大型の魔導機を作る予定だな」
「なるほどね。透明樹脂は窓や風防、ポリエチレンとポリプロピレンは容器やシートかな?」
「そんな感じだと思う。逆に、気体と液体のアルカンはほとんど需要がないな」
「ああ、そうかもね」
揮発性が高く、人体に有害で引火性がある。
液体燃料の需要は、この世界ではほとんどない。
あまり大量生産してほしくないものだ、と仁も感じていた。
「実験室レベルだね」
「うん。ゴーレムに作らせて、専用の密閉容器に入れさせるのがよさそうだ」
「サキおねーちゃんと同じだね」
「そういうことになるな。とはいえ作れるのは限定された高分子だけだけどな」
「最初はしょうがないよね。試しに作ってみよう、なんてのは危険すぎるもん」
「ハンナの言うとおりだよな。『データベース』にそうした高分子のデータを入れておいたほうがよさそうだな」
今のところ『誰がこのデータを入力したのか』というような疑問が出たことはない。思っているのかもしれないが……。
「あとはエポキシ樹脂。これは粘度が高いし、2液だからやっぱり専用の魔導機が必要だよな」
「ゴムは?」
「そうそう。それもあったな。合成ゴムはデフォルトでいいみたいだ」
「形状は?」
「樹脂はペレット、ゴムはもちろん生ゴム状態で、バケツみたいな容器に出すことになるな」
仁は今現在の状況を説明した。
「あとは材料の補給だが、カートリッジ式もいいかもと思ってる」
「そうだねー。炭素は黒鉛からの方が効率いいし、酸素と水素も水からがいいよね」
「余った材料には危険なものがあるから、それも専用容器に溜めて処理することになるかな」
「塩素とか水素とか酸素とか、単体というか気体だと扱いが面倒だもんね」
「事故だけは起こしてほしくないからな」
「同感だよ」
その他、出てくる物質の受け皿もしくは容器を用意できてない間は合成しないような安全装置を付けるとか、粘性の高い物質が出てくるノズルは掃除が楽なようにするなどの工夫も必要だと仁は説明した。
「そのためにも『補助魔導頭脳』を搭載するつもりだ」
「必要だよね……」
「『補助魔導頭脳』があれば、入れた材料から作れる物質とその量を表示できるようにすることもできる」
「それ、便利そう」
「あとはこうした化学物質について、もっと勉強してもらわないとな」
本来なら並行して知識も付いてくるはずなのだが、今回は一足飛びに物質を製造できるようになってしまったので、知識的なギャップが心配であった。
ハンナもその心配はわかる、と言って頷いた。
「また『アヴァロン』で講義をする必要がありそうだね」
「ハンナとサキに頼むかなあ……」
「うーん、見た目が若い講師って、侮られないかな?」
ハンナの見た目は16、7歳くらい。実際の中身はもっと上なのだが。
「それはあるかもなあ。……ゴウとルビーナは実力を示すことでよくやってると思うよ」
「それは嬉しいですね」
マリッカもやって来て、ゴウとルビーナの近況を聞き、喜んでいる。
「『アヴァロン』もいよいよ軌道に乗ってきたから、少しずつ手を引きたいんだよなあ」
「……でも、まだまだ目が離せない時も、ある」
「エルザもそう思うか。……経験不足から来るんだろうな」
「それは『データベース』で補ってもらえないものかな?」
ラインハルトも話に参加する。
「それも1つの手だけどな」
「心配だから、っていつまでも面倒を見ていたら、成長が阻害されるってわかってはいるんだけど」
「だな。エルザの言うとおりなんだ」
いずれは手を引くつもりなんだが、と仁は言った。
「それは今じゃないな」
今手を引くのはあまりにも無責任だ、と仁は続ける。
「ゴウとルビーナ、それにメルツェが大人になる頃には……かなあ」
「ん、そのくらいかも」
「そうしたらどうするつもりなんだい、ジン?」
「名前も身分も隠して、ただの庶民として生きるのもいいかもな」
「おにーちゃんにできるかなあ……」
ハンナは懐疑的である。
「トラブルが起きると、黙ってみていられないでしょ?」
「うーん、ハンナの言うことは間違ってはいないが……」
「それにトラブル体質だし」
「……うーん……」
そもそもトラブル体質というものがあるのかどうか、であるが、人は生きていれば大なり小なりさまざまなトラブルに遭うものである。
そのトラブルが解決できそうもない時、普通の人間は逃げるか諦めるかくらいしか選択肢がない。
ところがまれに、『なんとかする』という選択をすることができ、実際になんとかしてしまうことができる人間がいる。
そういった人間を『トラブル体質』と呼ぶ……のかもしれない。
「……ということじゃないかと思うんだが」
「理由づけしたね……」
「まあ、それはいいんだが」
「話がそれたね」
「ヘールを再興する、というのもいいと思ってる」
「おお、それは喜ばしい」
ここで『長老』ターレスも話に参加した。
「資源の枯渇が最大の問題点であったが、それはジン殿が解決しているな」
「ええ。あとは、退廃的な文化文明も問題だったと思いますが」
「然り。……だがそれは、ここアルスの先住民の血を取り入れ、回避することができている」
「そうなんでしょうね」
今のアルス人類は、当分退廃的になる気遣いはなさそうである。
「『オノゴロ島』の人たちなら、ヘールに住んでくれると思います」
「ジンしゃまの言うとおりだと思います」
「『転移門』があるから、いつでも好きな時に行き来できるしな」
「そうでしゅね」
マリッカも仁の意見に賛成のようだ。
「ヘールの再興となると、当分退屈はしなさそうだし」
それが済んだらまた何か考えるさ、と仁は言う。
反対するものはいない。
季節は冬だが蓬莱島は暖かだ。
そして『仁ファミリー』もまた、熱意に溢れていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240414 修正
(誤)検証できている物質も限られて入るが、それでもいくつか結論らしきものは上がってきている。
(正)検証できている物質も限られてはいるが、それでもいくつか結論らしきものは上がってきている。
(誤)今のアルス人類は、当分退廃的になる気遣いはなさそうである。
(正)今のアルス人類は、当分退廃的になる気遣いはなさそうである。
(誤)それが済んだらまた何か考える差、と仁は言う。
(正)それが済んだらまた何か考えるさ、と仁は言う。




