97-02 仁、『アヴァロン』へ
『打ち上げパーティー』の2日後である4月6日、仁は久しぶりに『アヴァロン』の床を踏んだ。
1日空けたのは、3年間分の出来事を覚える時間が必要だったからである。
「ゴウたちに会うのも久しぶりだな」
「お二人……いえ、メルツェさんも入れてお三方とも、大きくなったでしょうね」
「そうだな、礼子」
まずは最高管理官、トマックス・バートマンに挨拶する。
仁は久しぶりなのだが、仁Dはしょっちゅう訪れていたので、その辺をうまく演技する必要がある。
実際、仁Dが最後に『アヴァロン』を訪れたのは1週間前なのである。
「おお、ジン殿、ようこそ」
「閣下もお変わりなく」
というよりも、かなり健康そうに見える。
『アヴァロン』も組織として成熟してきたため、最高管理官の負担も大きく減って、トマックス・バートマンの心労も軽くなったというわけだ。
「今日は何か?」
「いえ、マキナの様子を見に来ただけです」
「そうですか。マキナ殿にはいろいろとご指導いただいておりますが、それも最近は少し減ってきましたかな」
「『アヴァロン』の技術力が向上した証拠ですね」
「だといいのですが」
などと話していると、メルツェがお茶を出してくれた。
「ジン様、ようこそいらっしゃいました」
「やあ、メルツェ、ありがとう」
大きくなったな、と言いたかった仁であるが、その言葉をぐっと飲み込む。
代わりにお祝いの言葉を口にする。
「メルツェ、ちょっと遅くなったが、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます!」
メルツェの誕生日は3月30日であった。
今年で17歳、すっかり娘らしく成長した。
その高い管理能力を買われ、今は『最高管理官第2副官見習い』である。
「メルツェ君にも随分助けられていますからな」
「いえ、私なんてまだまだです。……ゴウさんやルビちゃんはすごい実績を上げていますもの……」
「そう卑下するもんじゃないぞ。役割は違うんだし、あの2人は相乗効果もあるからな」
「そうでしょうか」
「そうだとも、メルツェ君は十分に私を補佐してくれているよ」
トマックス・バートマンもメルツェの能力を称賛した。
「あ、ありがとうございます」
少し頬を染めながらメルツェは引っ込んだ。
「いや、実際、彼女は優秀ですよ」
「そうですよね」
「……私の、次の次くらいの最高管理官を務めてほしいですな」
そう言ってトマックス・バートマンは笑ったのだった。
「……それでですね、明日1日、メルツェに休暇をやって欲しいんですよ」
「はあ、それは構いません」
規約により、『アヴァロン』職員は、年14日間の有給休暇の取得が認められている。
「メルツェ君、ちょっと」
「はい?」
自席に引っ込んだメルツェは再びやって来た。
「ジン殿からの要望で、明日1日、有給を取ってくれ」
「はい、それは構いませんが」
「済まないな、急な話で」
「いえ、有給は余っているので大丈夫です。……ですよね、閣下」
「うむ。……本当は感心しないことなのですがね」
有給は残さず全消化する必要があるのだ。
頭を掻くトマックス・バートマンであった。
「明日の朝、『ハリケーン改』で一緒に来てもらいたい」
「わかりました」
「トマックス閣下、ゴウとルビーナにも休暇を取らせたいのですが」
「わかりました。メルツェ君、自分のも含め、3人分の休暇手続きを頼むよ」
「はい、閣下」
なお、今の仁の肩書は『相談役』なので、『アヴァロン』の構成員に対し、こうした権限も持っているのだ。
「あと、例の『アヴァロン4』ですが、予定どおり完成しますので、連結も予定どおりということで」
「おお、わかりましたぞ。感謝します」
「いえ」
* * *
最高管理官に挨拶をした後、仁はゴウとルビーナの研究室へ顔を出した。
「あ、ジン様」
「こんにちは」
今年、ゴウは18歳、ルビーナは17歳(誕生日は7月1日なのでまだ16歳だが)になる。
仁の感覚ではメルツェも含め、成人扱いしてもいい歳になったわけだ。
ちなみに、仁は、アルスの慣習と現代日本での慣例を併せ、男子は18歳、女子は16歳を成人扱いしようと考えていた(アルスでは男女とも15歳で成人扱い、特に貴族社会で)。
蛇足ながら仁は、今(2024年の時点)の日本では、男女ともに婚姻開始年齢が統一され、18歳となったことを知らない(日本での施行は2022年4月1日)。
「メルツェにも話しておいたが、明日1日、休暇を取ってくれ。急な話で悪いが、もう最高管理官には話してあるし、メルツェが手続きをしてくれている」
「え……それは、大丈夫ですけど」
「一体何かあったんですか?」
「それは、明日、説明する」
「はあ……」
「急を要する案件は入っていませんから、大丈夫ですが」
そのあたりは事前に調査し、都合のよさそうな日を選んであるのだった。
* * *
ゴウたちの研究室をあとにした仁は、エイラとグローマの研究室へ。
「やあ、ジン、今日はどうした?」
「いや、特に用があるわけじゃないんだが」
実際は3年ぶりなので懐かしいのだが、それを口にするわけにはいかなかった。
「ちょっとゴウとルビーナに用があってこっちへ来たものだから」
「ついでってわけか」
「悪いな」
「いや、いいんだけどな。ちょうど暇だったから」
「そうか」
「やあ、ジンさん、来ていたんですか」
「やあ」
というわけで、エイラとグローマの研究室で雑談をして過ごした仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240416 修正
(誤)まずは最高管理官、トマックス・バーマンに挨拶する。
(正)まずは最高管理官、トマックス・バートマンに挨拶する。




