96-72 翌日への期待
同日午後、仁とマキナ3世は最高管理官トマックス・バートマンに報告を行った。
デウス・エクス・マキナ3世が『海底で発見した『古代遺物』について』である。
『アカデミー』学長、セイバン・イライエ・センチと技術主任アーノルトも同席している。
「……そういうわけで俺の配下が、深度8000メートル付近の海底でそれを見つけたわけだ」
発見者である(ことになっている)マキナ3世が報告を終えた。
「し、深度8000……」
絶句する最高管理官。
だがアーノルトは冷静に発言する。
「閣下、問題となるのはそこではなく、『古代遺物』です」
「うむ、わかってはいるのだが……マキナ殿、ジン殿、どんな『古代遺物』なんです?」
これには仁が答える。
「解析がほぼ終わりましたので報告できるのですが、物質の合成です」
「なんですと!?」
学長セイバンが驚いて声を上げた。
「ああ、いや、無から合成するわけではないです。材料を入れてやらないとできません」
「お、は、はあ、なるほど。……で、何を合成することができるのですかな?」
「一般的に『高分子』と呼ばれるものの一部……ですね。なにしろ長いこと海底にあったので、損傷も激しく、完全な修復は難しそうです」
「うむ……ジン殿とマキナ殿にもできないなら、まず誰にもできないでしょうな……」
残念そうな学長セイバン。
「いえいえ、それでも機能の幾つかは再現できそうです」
「ほう……?」
「まず、ゴム類。何種類かの合成ゴムが作れます」
「ほう、それは朗報です。天然ゴムの供給が追いつかなくなりつつありますからね」
トマックス・バートマンは素直に喜んだ。
「それから、透明な樹脂も作れるみたいです」
「用途は広そうですね」
アーノルトも興味津々である。
「完全修復は無理でしょうから、それを参考に、使える形で『魔導機』を持ってきますよ。……そうですね、明日にはなんとか」
「あ、明日……ですか?」
「さ、さすが、ジン殿とマキナ殿ですなあ……」
「おそらく、それ以上の修復は無理だ。だが、再現できた機能だけでも、大きな利益がある」
マキナも口添えした。
「ですな」
「明日には試作を2基持ち込むから、いろいろ検証してほしい。そして次の世界会議までに量産して各国に最低1基は引き渡したいと思う」
「妥当……ですな」
「わかりました」
「心配しなくても、危険物は生成できないから」
仁はそう言って、最高管理官らの懸念を払拭したのである。
* * *
「と、いうことになったよ」
その日の夜、仁はエルザに報告をしていた。
「順調そうで、よかった」
「そっちもな」
「ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ポリカーボネート、エポキシ、それに合成ゴム?」
「そうなるな」
「うん、いろいろな用具が使いやすくなりそう」
「ああ、そうかもな」
例えば聴診器のチューブ部分にはポリエチレンを使うことで、『ラテックスアレルギー』……ゴム類へのアレルギー……の患者に対し、安全である。
ガラス器具もアクリルやポリカーボネートにすることで割れにくくなる。
エポキシ系の接着剤が使えるようになれば、魔導士でなくても作れるものの幅が広がる。
「これくらいは勘弁してもらわないとな」
「ん、仕方ない。今の世界では、高分子の開発なんていつできるかわからない」
「だよなあ……後は定着してくれるといいなあ」
「そういう意味でも、全部の国に2基ずつ支給するほうがいいかも」
「1基じゃ足りないか」
「そう思う。どんどん使わせて生活必需品にしてしまえばいい」
「そういうことか」
生活に溶け込んでしまえば、おいそれと廃棄はできないだろうというわけだ。
「……また『魔法連盟』みたいなのが出てこなければ、な」
「うん……」
「それに関しては『アヴァロン』や『世界会議』にしっかりしてもらうしかないかな」
「ん、そう思う」
「いずれにせよ、これからの話だ」
未来がよりよきものでありますように、と仁もエルザも願ったのである。
* * *
その夜ゴウとルビーナは、アーノルトからこの話を聞いていた。
「そういうわけで、タイヤももっとローコストで作れるだろうね」
「ジン様はこのことを言ってたのね」
「それにしても明日か……」
「楽しみね」
「うん。でも、きっとタイヤのゴムの特性が変わるから、またテスト三昧になると思うよ」
「それはやるべきことだもんね」
2人はワクワクしながらそれぞれの部屋へ。
果たして今夜はちゃんと寝られるだろうか……。
* * *
蓬莱島では、仁が作成した『設計基』をもとに、『魔導高分子合成機』の製造が行われている。
『アヴァロン』向けの試作が2基と、ハンナ・サキの研究用がそれぞれ1基ずつだ。
『アヴァロン』向けは制限付き(合成できる高分子が限られている)で、ハンナとサキ向けは制限なしである。
作業をしているのは『職人』8体。
翌朝には4基の『魔導高分子合成機』が完成していることだろう。
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