96-19 解析と期待
「ぶわっ!」
「あはははははは!」
カモメに集られたグローマを見て、エイラが爆笑している。
カモメの『動作解析』をするためにはカモメがいなくては話にならない。
そこで、餌の小魚を持って『アヴァロン』の縁へ出たところ、十数羽のカモメが寄ってきてしまったのである。
「くっそー、えらい目にあった。……おいエイラ、笑ってないでちゃんと解析用映像は撮れたんだろうな?」
「うん? ああ、バッチリさ」
「それならいいが……あーあ、糞まで引っ掛けられちまった……シャワーを浴びて着替えるか……」
「それがいいな。あたしはデータを解析に回しておく」
「わかった」
先日検討していた『動作解析システム』を使い、『鳥ゴーレム』を作るための資料にしようというのだ。
というわけでグローマは自室へシャワーを浴びに行き、エイラは研究室へ、と二手に分かれたのである。
* * *
「ふう、さっぱりした」
シャワーを浴び、着替えたグローマが研究室へ向かう途中、仁とばったり出くわした。
仁は鳥の動作解析をしていることを聞きつけてやって来たのである。
「解析結果を見せてもらえるかな?」
「どうぞどうぞ」
2人で研究室に入ると、エイラが待っていた。
「お、ジンも来たのか」
「ああ。鳥の動作解析結果を見せてもらおうと思ってね」
「グローマが苦労して取ったデータだ。もう解析は終わってるから、まあ見てやってくれ」
そしてエイラは、画面に解析結果を表示させた。
そこには1羽のカモメが羽ばたく様子が映し出されている。
「まずは実写で、ゆっくり再生させてみよう」
スローモーション再生が行われた。
羽のしなりや角度、動きがよくわかる。
「ふうん、興味深いデータだな」
「こういう風に羽ばたいているんだなあ」
仁は、かつてのエゲレア王国で開催された『ゴーレム園遊会で』見た、『ロワゾー』……セルロア王国のドミニクが作った、鳥型のゴーレム……を思い出していた。
あれは羽ばたくだけで飛べなかったが……。
今回見ている画像は、飛ぶために羽ばたいているカモメの画像である。
文字どおり生きた動きをしている。
さすがの仁も、羽ばたきで飛べる鳥ゴーレムは作ったことがない(作る機会がなかったともいえる)。
「次は、簡略化したモデルを表示するよ」
エイラは端末を操作した。
今度表示されたのは、かなり簡略化されたワイヤーフレームっぽい表示で鳥の外形が描かれている。
羽が動く際、屈曲する部分は6箇所。
それでも滑らかに動いている。
「お、なんとなくわかりやすくなったな」
「これくらいならエミュレートできそうかな、グローマ?」
「そうだなあ……もう少し簡略化できないか?」
「できるよ」
エイラはさらに端末を操作。
表示された鳥が、より粗いワイヤーフレーム表示になった。
「これくらいだな」
羽の屈曲箇所は3箇所となり、ややカクカクした羽ばたきになったが、それでも単なる上下動ではないことは一目瞭然。
(そもそも、羽が腕と同じ骨の構成なら、関節は肩、肘、手首、指だから……あ、そうか)
ここで仁は1つの思い付きをエイラに告げる。
「エイラ、鳥の骨格をデータベースで検索してみたらどうだ?」
「なに……? ああ、その手があったか!!」
するとエイラは驚いたような顔になり、すぐに端末を操作した。
「これがそうらしい」
「ほう……」
表示されたのはコカリスクの骨格だった。
「コカリスクは飛べない鳥だが、骨格の構造は飛べる鳥とほとんど変わらないらしい」
「なるほど。……すると、こことこことここが関節だから、肩……付け根か? ……を入れて4箇所。ちょうどいいモデルということかな?」
「軟らかく見えるのは肉……というより羽がついているからかな?」
仁、エイラ、グローマのセリフである。
「とにかく、この動きを『魔導頭脳』に覚えさせれば、かなり本物に近い動作をさせられるだろう」
「グローマの言うとおりだな。……このシステムも発表するんだろう?」
「…………」
「……ジンに言われるまで忘れてた」
「おい」
この『鳥ゴーレム』は、作り上げる工程を含めて発表することでエイラとグローマを『総合技術士』として認定する説得材料となるわけだ。
「ジンさん、ご忠告ありがとうございました」
グローマも忘れていたことを恥じているようだ。
「ところで」
「?」
「このシステムに、正式な名前を付けようじゃないか」
『動作解析システム』と言ったり、『動作解析機』と言ったりと、一定していないのだ。
これは、開発に携わった人間が多かったため、名称の決定権がうやむやなせいもあるかと思われた。
「俺としてはエイラかグローマが付ければいいと思う」
「うーん、それじゃあ……『魔法式動作解析機』で」
「いいと思う」
これで、今後は『魔法式動作解析機』と呼ぶことに決定した。
「それじゃあ、俺はこれで。なかなか参考になったよ」
「ジン、また時々顔を出してくれよ」
「そうする」
エイラに手を振り、仁は研究室を出ていったのだった。
* * *
同時刻、蓬萊島。
仁は食堂で何やら確認していた。礼子も一緒である。
そう、エイラたちと一緒にいたのは『分身人形』であった。
こちらで、本物の仁が何を確認していたのかというと……。
「うん、これなら大丈夫だ」
グースやトアたちが集めてきたカカオを加工したので、それを見ていたのだ。
カカオ豆……カカオの種子は、実から取り出した後、1週間ほど掛けて発酵させる。
その後、水分が6〜7パーセントになるまで乾燥させたのち焙煎(=煎る)。
それを粗く粉砕し、種子の殻を取り除いたものがカカオニブ(胚乳部)である。
それをすり潰したものがカカオマスである。
カカオマスは『ココアバター』と呼ばれる油脂分が含まれ、ドロドロのペースト状。
ざっくり言うと、これに砂糖を混ぜて固めればチョコレートになる。
……のだが、実際にはそう簡単ではなく、さまざまな配合がなされる。
カカオマス100パーセントは、まず菓子として流通はしない。
大きく分けて以下の3種類だろうか。
ダークチョコレート:カカオマス+ココアバター+砂糖+レシチンや香料など。
ミルクチョコレート:カカオマス+ココアバター+砂糖+乳製品+レシチンや香料など。
ホワイトチョコレート:ココアバター+乳製品+砂糖+レシチンや香料など。
さらに配合比も千差万別である。
「完成を楽しみにしているよ」
『はい、御主人様。お任せください』
もうすぐチョコレートが食べられそうだと、仁は期待するのであった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240124 修正
(誤)仁は食堂で何やら確認 していた。
(正)仁は食堂で何やら確認していた。




