96-18 強化服
1月8日、整備中の『ベルリッヒ工房』に技術主任アーノルトが顔を出した。
「忙しいときに悪いが、お邪魔するよ」
「あ、これは、アーノルト殿」
対応したのは工房長ベルリッヒ・ベッカー。
「いえ、もうほぼ終わっていますから」
「ほう……」
広い工房に、数々の道具、工具、魔導具、棚、素材、作業台などがきちんと整頓されて配置されている。
「早いですね。秘密は『あれ』……ですか」
「はい」
アーノルトが『あれ』と呼んだのは、職人たちが『着て』いるもの。
「『強化服』と呼びます」
かつて仁が『アドリアナ記念館』を建造した際に開発、運用した『土木建設用強化外装』の発展型のようだ。
『土木建設用強化外装』は全高2.5m、単体重量600キロ、2本腕で3本脚だったが、こちらは人間の身体に密着して動いている点が異なる。『スーツ』と呼ぶ所以だ。
初代『アシストスーツ』は、『土木建設用強化外装』を、ショウロ皇国の許可を得て、独自の技術を交えて応用したものだった。
これは『服』というより『補助外骨格』と呼ぶべきもので、足——脚——腰——胴——肩——腕を繋ぐリンク状の外骨格を、ゴーレム技術応用の『魔法筋肉』で駆動するものである。
これにより、重作業において2人から3人分の仕事をすることができるようになった。
その初代『アシストスーツ』をベースに発展させた3代目のものが『強化服』であり、それを今『ベルリッヒ工房』の職人たちが着用して工房内の設定を仕上げていたのである。
かなり太めの胴部に手足がくっついた外観だが、動作はキビキビしている。
重量が単体で70キロあるので、人が着用すると120キロから150キロになってしまうのが要改良点である。
「関節部で苦労しました」
「そうだろうね」
人間が中に入れる外骨格の場合、関節部の設計が悪いと曲げられないもしくは着用者の関節が壊れる、という不具合が出る。
であるから『強化服』の関節は支点を中心に曲がる形式ではなく、蛇腹を曲げるような、柔軟性のある関節である。
仁が見たら、かつての特撮で使われたロボットの着ぐるみのようだ、と言ったかもしれない……。
もっとも、頭部は剥き出し(着用者はヘルメットを被っている)であるが(少しでも軽くするためである)。
閑話休題。
この『強化服』に、アーノルトは少なからず興味を持った。
ゴーレム・自動人形の技術を活かすのに、こういう方向性もあるのか、というわけだ。
それで、『強化服』を着た職人の動きをじっくりと観察したのである。
* * *
執務室へ戻ったアーノルトは、『データベース』端末に向かい、今見てきた『強化服』の動作を入力していく。
アーノルトは『自動人形』のボディを持っているため、入力は魔力波通信で行えるので数秒で済んでしまう。
「さて、どんな感じかな」
自分が直感的に感じたことと、『アヴァロン2』と『データベース』を管理している魔導頭脳『ファースト』の解析結果が一致するかどうか、アーノルトは興味があった。
その結果。
「うん、やはり動作にタイムラグがあるな」
『強化服』は、着用者が動こうとした、その初動を察知して『魔法筋肉』が外骨格であるスーツを動かすわけだ。
察知から動作までにはわずかな遅れ(タイムラグ)がある。
観察の結果、これがやや大きいのではないかとアーノルトは感じたわけで、それが間違いないことが、解析により判明したのである。
このタイムラグが大きいと、着用者が窮屈に感じるのみならず、精密動作の妨げにもなってしまう。
事実、『ベルリッヒ工房』の職人たちがやっていたのは力仕事である。
もっとも、強化服の用途は元々力仕事なのだが。
「反応速度を改善すれば、『強化服』を着て飛んだり跳ねたりもできるはずだ」
とはいえ、今すぐに着手はできないし、これは『ベルリッヒ工房』の仕事である。
そこでアーノルトは、まずはデウス・エクス・マキナ3世に相談をした。
「なるほど、面白い。というより非常に有益な技術だ。……同時に危険もはらんでいるが」
「どういうことです?」
「この技術は、生身の人間を強化してくれる。と同時に、これは武器への転用も可能だということさ」
「あ……確かに」
「だがそれは技術の宿命のようなものだ」
マキナ3世は苦笑を浮かべた。
「ゴーレムも自動人形も、それを使う者次第だし」
「本当に、そうですね……」
アーノルトもまた、『魔導大戦』時に戦闘用のゴーレム開発に携わった技術者だったのだ。
「守ることだけに使えたら、どんなにいいことか」
「言い出した俺が言うのもおかしいが……アーノルト、気持ちはわかるが、あまり考え込むのもよくないぞ」
「そうですね……」
「そのために『世界会議』や『世界警備隊』があるんだからな」
「ええ、わかりました……」
まずは現状の改善から提案してみよう、と考えるアーノルトであった。
* * *
同日午後、アーノルトは再び『ベルリッヒ工房』を訪れた。
そして『データベース』の端末設置と、その使い方を説明する。
「……と、こうすればいいんだよ」
「ははあ……便利なものですねえ」
「皆、慣れてほしいと思います。貴重なデータの閲覧もできるので。例えば、このような」
アーノルトは『強化服』を着て動いている様子を解析したデータを表示させた。
「あ、これは……」
「僕らの『強化服』ですね」
「そう。……動作の入力と出力のタイムラグの値を見てほしい」
「はい。……え? タイムラグが意外と大きいですね」
「これを小さくできれば、より着心地がよくなるだろうし、精密動作も目指せるようになると思う」
「仰るとおりです。……みんな、技術主任のアドバイスどおり、『強化服』の改良を検討してみようじゃないか」
「はい!」
「異議なし」
こうして、『ベルリッヒ工房』も『アヴァロン』での第一歩を踏み出そうとしていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240123 修正
(誤)こちらは人間に身体に密着して動いている点が異なる。
(正)こちらは人間の身体に密着して動いている点が異なる。




