↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
96 アカデミー発展篇
3915/4413

96-17 子爵、退院

 1月7日は、アステロ・ド・カーン子爵が退院する日でもある。

 前回、息女のナルンや奥方のルキアーネの時同様、『転移』か『飛行』かを選択してもらい、今回は『転移』となった。

 そこで、午前7時には専用機『病院用フェニーチェ』が『アヴァロン』を発った。


 『アヴァロン』とフランツ王国首都サンジェルトン間には時差はほとんどないので、時間調整は楽であった。

 結果、午前9時にはカーン邸に『転移魔法陣』を設置することができたのである。

 今後はこのやり方も少しずつ洗練されていくと思われる。


*   *   *


「あなた」

「お父様」

「おお、ルキアーネ、ナルン、迎えに来てくれたのか」


 午前10時、『アヴァロン病院』(仮称)に、子爵の奥方のルキアーネと息女のナルンが転移魔法陣を使い、迎えにやってきた。

 エルザとリシアも一緒だ。


「あなた、すっかり元気になられて……」

「うむ。先生方のおかげだ」

「先生方、本当にありがとうございました……!」


 ルキアーネは深々と頭を下げた。


「いいえ、それが、仕事ですから」

「お元気になられてよかったです」


 エルザとリシアとしても、いや、医者にとって、患者が退院するというのは嬉しいものである。

 主治医ではないナージャスとポリアンナにとっても。

 その2人は医務室でカルテ整理をしていた。

 そこに、呼び出しが掛かる。


「ナージャス先生、アステロ・ド・カーン子爵の病室へおいでください」

「え?」

「子爵閣下とご家族がお呼びです」

「え……はい」


 いぶかしみつつも、ナージャスは子爵の病室へ向かった。


「失礼します」


 ノックしてドアを開けるとそこには、主治医であるエルザとリシア、それに患者である父アステロ・ド・カーン子爵は当然として、義理の母ルキアーネと、姉ナルンが立っていた。


「……」

「ナージャス」


 先に口を開いたのは姉のナルンであった。

 まるまると太っていた体型は、今では見違えるように健康的な体型となっている。

 そのナルン・ド・カーンはナージャスの手を取った。


「……お姉さま?」


 面食らうナージャス。


「ナージャス、今までいろいろとあなたには辛く当たったわね。それを謝りたくて」

「……」

「もちろん、謝って済むことじゃないようなことも随分してきたわね。……許してもらえないかもしれないけれど、ごめんなさい」

「…………」

「これは、私の自己満足かもしれない。でも、私が先へ進むためにも、謝りたかったの」


 プライドの高い姉が、他人の目のあるところで謝ったことに、ナージャスは驚いていた。

 だからこそ本気なのだと伝わってくる。

 そして、そんな姉の本気の言葉に対し、ナージャスは何も言えずにいた。


「……ナージャス、ここは素晴らしい場所だ。エルザ先生もリシア先生も立派な方だ。お前は、ここで学び、人々のお役に立てるよう、頑張りなさい」

「おとう、さま……」

「ナージャス。この先、お前を縛るものがないよう、カーン姓を捨て、アス姓を名乗るがいい」

「それは……」

「だが忘れないでくれ。お前は私の娘だ」

「お父さま……」

「そして、私の妹よ」

「お姉さま?」

「私の家族ですよ」

「お義母かあさま……」


 これは昨日話し合ったこと。

 ナージャスがこの先一人前の医師になったとして、母国フランツ王国に戻ってこいという王命が下される可能性は高い。

 だがそれは子爵位を持つカーン家の者という前提が付くわけだ。

 カーン家を離れた庶民のナージャス・アスであれば、王命を断ることも可能だ。

 『アヴァロン』の所属になるのだから。


 父だけでなく、姉と義母からもそうした心遣いがなされたことがわかっただけに、ナージャスは何と言って返せばいいか分からず、言葉をなくしたのである。


 そんなナージャスの肩に手が置かれた。


「ナージャス、まずは患者さんに、退院のお祝いを」

「……はい、エルザ先生。……アステロ閣下、退院おめでとうございます」

「うむ、ありがとう」


 そして退院の手続きも終わる。


「閣下、お大事に」

「先生方、ありがとうございました」


 そして書類手続きも済ませ、カーン一家は『転移魔法陣』を使い、帰っていったのである。


*   *   *


「……」


 放心したようなナージャスの肩を、リシアが叩いた。


「ナージャス、よかったわね」

「あ、はい、先生」

「ナージャス、憑き物が落ちたような顔、してる」

「エルザ先生……」

「そうね。これまでのナージャスは、どこか悲壮感を漂わせていたものね」

「そう……ですか?」


 リシアの言葉に、ナージャスは少なからず驚いた。

 そしてエルザは、ナージャスの心理を言い当てる。


「ん。……あなたはきっと、『治癒魔法』……『医療魔法』を覚えて、ご家族に……もしかすると国に、認められたいという想いがあったんじゃないか、と思う。そしてそれはきっと、重荷だった、はず」

「そう……かも、しれません……確かに、父たちの言葉でなんだか身体が軽くなったような気が、します」

「そう、よかった」

「これからも、頑張って」

「はい、先生」


 研修医ナージャスの未来は、明るい……。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20240122 修正

(誤)そこで、午前7時には専用機『病院用フェニーチェ』が『アヴァロン』を経った。

(正)そこで、午前7時には専用機『病院用フェニーチェ』が『アヴァロン』を発った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一番の原因であるカーン子爵がナージャスの母親を幼い頃に孕ませた事に対しての謝罪は無かったけど、この話題を出すのは今さら感があるから仕方ないのかも知れませんね。 ナルンはある意味被害者の1人…
[気になる点] 感想を見るかぎり、読者の皆さんもすっきりしないお話に感じられて要でww >「これは、私の自己満足かもしれない。でも、私が先へ進むためにも、謝りたかったの」 この文章にとても驚きま…
[良い点] >「これは、私の自己満足かもしれない。でも、私が先へ進むためにも、謝りたかったの」 エ「これが普通のざまぁなら、謝罪すら許されないし、遅きに失するにも程がある、んだけど……」 仁「これはそ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。