93-20 仁がいなくても彼らは
医療関係者での協議会は終盤に入っていた。
「いずれにせよ、『アヴァロン』および『アカデミー』の権威を取り戻す必要があります」
リシアが言った。
「それには地道な教育と、堅実な実績の積み重ねが必要なのはもちろん、多少のデモンストレーションも必要でしょう」
「デモンストレーション、ですか。……つまり、何か実演して見せると?」
リシアの言葉にアカデミー学長セイバンが質問した。
「概要はそういうことです。内容は要検討ですが、いくつか案はあります」
「お聞かせ願えますかな?」
「はい。まずは『奉仕活動』ですね」
「奉仕活動?」
「ええ。『治癒師団』とでもいうようなグループを作り、各国を無償もしくは格安で治療して回るのです」
「おお!」
特に都市部から遠い地方では治癒師の数も不足しているでしょうから、とリシアは説明した。
「この場合、全員が人間でなくてもいいのです。看護師、助手は自動人形でも」
「なるほど、実際に世界に貢献していこうというわけですね」
「そうです。これとて一朝一夕に認知度が上がるわけではないでしょうけれど」
「いや、『アヴァロン』の理念とも一致しますからね」
学長セイバンや医療研室長ハーシャも、そうした活動の意義を認めたようだ。
「いくつか、ということでしたが他にはどのような案が?」
「はい、次は、同じく各地を回っての『公衆衛生指導』ですね。まだまだ『手洗いうがい』ですら実践できていない地方があるようですから」
都市部に比べ、地方はそうした意識がまだまだ低いようだ、とリシアは言った。
「それにもう1つ、『風土病の根絶』です」
「風土病……といいますと、特定の地方特有の病気ですな」
「はい。実例の1つが、400年ほど前にあった、クライン王国の寄生虫病です。発見、治療したのが当時の『2代目魔法工学師』の奥方だったエルザ・ニドー女史だったのは、広く知られているところです」
この話題が出た時、リシアの隣に座るエルザが少し身じろぎをしたようだった。
「それは聞いております。『住血吸虫』の一種だったとか」
医療研副室長メイ・シャイ・ジョーイが確認の発言をした。
「よくご存知ですね」
「はい。エルザ・ニドー女史の伝記は愛読書です」
またしてもエルザが身じろぎをした……が、誰も気が付いていない。
「私が確認した『風土病』もしくは『地方病』はいくつかあります」
「お聞かせください」
「もちろんです。……まずエゲレア王国南部、海辺の町ナハマスでは原因不明の疾患が報告されています」
「確かに。それは存じております」
医療研室長ハーシャ・クラウドは把握していたようだ。
「それからフランツ王国北部の村々では呼吸困難や肺疾患が多発しているようです」
「それも把握しております。が、いまだに原因不明です」
ハーシャ・クラウドは無念そうに言った。
「もう1つ、エゲレア王国東部の山間地で謎の皮膚炎が蔓延することがありますね」
「ああ、ありますあります。あれも風土病なんでしょうか」
「それは現地で調査してみないことにはなんとも」
「それは道理ですね」
「『アカデミー』では他にも風土病を把握しているものはありますでしょうか?」
今度はリシアからの質問だ。
「いまリシア殿が挙げたものの他には、ショウロ皇国北部の村で原因不明の体調不良が起きることがわかっています。これは家族全員に起きることが多く、伝染性を危惧しております」
「なるほど、そういう病もあるのですね」
実際のところ、この数倍の風土病・地方病が存在した……が、それらのほとんどは400年前に仁が解決していたのである。
それについては、『仁ファミリー』の民俗学者グースと語り部であるヴィヴィアンが詳しい。
「そうした風土病・地方病を根絶することができれば、『アカデミー』の実力が世に知られ、信頼度が増すと思います」
「確かにそうですね」
「問題は我らに解決できるかどうか、ですね」
「それにつきましては私とエルザさんも協力いたします」
「その時は、よろしくお願いします」
* * *
さて、これで協議会は一旦終了となった。
時刻は午前11時50分。
このメンバーで会食である。
今回は特例として、会議室に食事が運び込まれる。
アカデミー学長セイバンが合図をすると、扉が開いてワゴンに載った食事が運ばれてきた。
給仕をするのは食堂関係のゴーレムと自動人形である。
その分、今日の一般食堂のサービスの質が少し低下していたとかいないとか。
* * *
さてさて、ゴウとルビーナである。
2人は『ピスティ』と『助手ゴーレム』を作るのに懸命で、昼食は軽食をさっさと食べていたため、食堂の様子がいつもと少し違うことには全く気が付いていない。
「魔導神経線は2系統配線したほうがいいわよね」
「そうだね。信頼性を高めるなら3系統にしてもいいかも」
「あ、そうね。ジン様からミスリル銀のインゴットをもらっているし」
ルビーナは10キロはありそうなミスリル銀の塊をちらりと見た。
「線に加工して使うから、2体で500グラムくらいしか使わないわよね」
「なら4系統にしよう」
「そういうことが言いたいんじゃないけど……いいわ」
「その分、1本あたりの素線径を少し細くするんだよ」
「あ、そうするとより柔軟性は増すわけね」
「そう。引張強度はその分落ちるけど」
「それに関しては、被覆材の強度を上げるという手があるわよ」
ルビーナは『地底蜘蛛樹脂』の巨大な塊を横目で見た。
「あとは単線じゃなく撚り線を使うという手も」
単線よりも撚り線の方が柔軟性が高いのは、通常のビニール被覆導線でも同じ。
その分、製作には手間が掛かるが、ゴウとルビーナはそんなことをものともせず作業を進めていった。
「『魔素変換器』と『魔力炉』の用意はできたわよ」
「こっちも、シールドケースが完成した」
「組み付けちゃいましょ」
「うん。胸部は僕がやるから腹部はルビーナがやってくれ」
「まかせて」
分担しつつ2人で2体を作るというのは効率がよく、その日のうちにほぼ完成しそうな勢いであった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230613 修正
(旧)
「はい。実例の1つが、400年ほど前にクライン王国での寄生虫病を発見、治療したのが当時の『2代目魔法工学師』の奥方だったエルザ・ニドー女史だったのは、クライン王国では有名です」
(新)
「はい。実例の1つが、400年ほど前にあった、クライン王国の寄生虫病です。発見、治療したのが当時の『2代目魔法工学師』の奥方だったエルザ・ニドー女史だったのは、広く知られているところです」
(誤) この話題が出た得、リシアの隣に座るエルザが少し身じろぎをしたようだった。
(正) この話題が出た時、リシアの隣に座るエルザが少し身じろぎをしたようだった。
(誤)医療研副室長メイ・シャイ・ジョーイが確認の発言した。
(正)医療研副室長メイ・シャイ・ジョーイが確認の発言をした。
(誤)アカデミー学長セイバンが合図をすると、扉が開いてワゴンに載せた食事が運ばれてきた。
(正)アカデミー学長セイバンが合図をすると、扉が開いてワゴンに載った食事が運ばれてきた。




