93-19 協議会(カンファレンス)
さて、仁が出掛けたあとの第5工房では、ゴウとルビーナが忙しく作業を行っていた。
「骨格はできたわね」
「うん」
「どこまでやろうか?」
「そうね……『助手ゴーレム』と同じくらいまで進めちゃいましょうよ」
「それがいいかな」
『助手ゴーレム』を作り始めていたゴウとルビーナは、そちらを中断して『ピスティ』の修理、いや再生に取り掛かっていたのである。
そして、今や『ピスティ』は骨格の再生が終わり、筋肉組織の取り付けが始まっていた。
これが終われば『助手ゴーレム』と同じ進捗状況になる。
「筋肉も『助手ゴーレム』と同じにする?」
「それがいいだろうな」
元々『ピスティ』はゴウが作った助手ゴーレムである。
つまり用途は2体とも同じ。
「この2体は姉弟になるわね」
「あ、そうだな」
そんな会話をしながらも、ゴウとルビーナの手は止まらない。
午前中いっぱいで『ピスティ』の筋肉組織の取り付けは終了したのである。
「これで『助手ゴーレム』と同じね」
「うん。午後は『魔導神経線』からだな」
「そうね。2体、同時並行で行く?」
「そうしよう。姉弟なんだから」
「ええ」
* * *
同じ頃、エルザとリシアは、医療関係者との協議会を朝から行っていた。
内容は『今後の医療体制について』である。
出席者はアカデミー学長セイバン・イライエ・センチ、アカデミー学長補佐サホ・ショマス、医療研室長ハーシャ・クラウド、医療研副室長メイ・シャイ・ジョーイ、医療研メンバーのカイン・ゲイ、ショウ・トニカ・ナカイ、シュルノ・ツジュススキー、そしてナージャス・カーン。
皆、これからの話に期待を膨らませていたが、特にナージャス・カーンはエルザを見て目を輝かせていた。
「では、打ち合わせを始めたいと思います」
リシアが主役で話が始まる。
「まず、先日の講義はいかがでしたか?」
まず返答したのは学長補佐サホ・ショマス。
「わかりやすくてよかったと思いますよ。入門編としてはもってこいかと」
「それはよかったです。では、先日お配りした教本の内容はいかがでしたでしょう?」
事前に目を通しておいてくれと頼んであったのだ。
「はい、5回も読み返してしまいましたが、高度な内容をわかりやすくまとめてあって、とてもいい教本だと思います」
サホ・ショマスは教本を絶賛した。
「同感ですな。この内容を実践できたら、世の中の病人、怪我人を激減させられることでしょう」
「学長の仰るとおりです。現在の世界では乳幼児の死亡率が高いのですが、それを改善するためにも、多くの者に学んでもらいたい内容だと思います」
学長セイバンの言葉に医療研室長ハーシャ・クラウドも同意した。
「それでは、この教本を使い、3ヵ月間の講義をさせていただきます。その先はまたご相談させていただくということで、いかがでしょう」
というリシアの提案に、全員異議はなかった。
* * *
ここまでが前提。
これからが協議会の本番である。
「まず、『医療系』の底上げをしたいと考えています」
リシアはズバリ切り出した。
「それは必然でしょうね」
医療研副室長メイ・シャイ・ジョーイは大きく頷いた。
「残念ですが、あの教本の内容の講義を理解できるのは、私と副室長のメイを含めて、ようやく10名という有様ですので」
「本当に、残念です」
医療研室長ハーシャ・クラウドも同意する。
「今日出席してもらった『医療研』メンバーの他に4名の新人がおりまして、総勢10名となります」
メイ・シャイ・ジョーイが説明した。
「そうですか……。ではまず、その方々の育成が急務ですね。そして次の段階としてその10名に指導員になっていただきたいです」
治癒師……『医師』は、知識もさることながら経験も重要である。
現代日本でも、医師になるには長い道のりが必要で、まず大学が6年間。そして国家試験を受け、2年間の研修医期間を経てようやく一人前の医師を名乗れる(例外もある)。
それに比べたらこの世界での教育は短過ぎると言えよう。
とはいえアルスには、地球にはない利点がある。
魔法である。
『知識転写』、『知識送信』といった、情報を相手に送る魔法が存在するのだ。
もちろん誰でもが使えるものではないし、人間に使うには注意が必要だ。
教育目的であってもおいそれと使えるものではない。
だが『裏技』として、やむを得ない場合にのみ使用することで、短期間に技術を習得させることができる。
ナージャス・カーンはそうやって治癒魔法を習得したのである。
「経験が少ないのは皆同じです」
この時代、治癒師は基本的に受け身であり、来院した患者を診るのが基本である。
その点において『アヴァロン』の治癒師は『世界警備隊』との連携で、世界各地を訪れて治療に勤しんでいた。
『アヴァロン』的には未熟でも、一般レベルでは熟練治癒師と見なされるため、引き抜きが行われたとも言える。
「こうした引き抜きができないようにするのは『アカデミー』ではなく管理部の仕事ですのでここでは議論しませんが、別の面から対処できたらいいのでは、と思っています」
「別の面とは?」
「どういうことですか?」
室長と副室長が揃って質問した。
「引き抜きを受けるも受けないも、結局は本人の意志です。つまり『居心地のいい環境』を作ればいいんです」
「なるほど」
「道理ですね」
「私が提案できる具体的な環境は、『学びの場』ですね。ここでしか得られない知識、学べない内容の教育を行えればな、と思っています」
それ以外の環境改革はマキナ様やジン殿にお任せしたい、とリシアはまとめた。
「有益なご意見、ありがとうございました」
そして協議会は次の議題……教育内容の詳細に移っていった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230612 修正
(誤)午前中いっぱいで『ピスティ』の肌肉組織の取り付けは終了したのである。
(正)午前中いっぱいで『ピスティ』の筋肉組織の取り付けは終了したのである。




