93-18 おかしなゴーレム
第5工房を出た仁は、礼子とともにアーノルトの工房へ向かった。
アーノルトの居室は、寝室(彼は眠る必要がないのだが形式上)、居間、執務室、研究室、工房が隣り合っている。
その工房には、昨日捕らえた『賊ゴーレム』が1体、解析のために置かれていた。
「ジンさん、ようこそ」
「解析はどうなってる?」
「とりあえず分解しました」
「お、なるほど」
作業台の上に、分解された賊ゴーレムが乗っていた。
「ちょっと『アドリアナ式』に似てるな」
「ええ。『球体関節式』にも似ています」
「なんというか……『いいとこ取り』をしようとしてカオスになった、感じかな」
「ああ、それは適切な表現かもしれません」
いろいろな形式を取り入れたと見られる構造。
統一性がなく、混沌としていた。
「これじゃあ逆に、互いの干渉も避けられないのではないですか?」
「いや、そこまででもない。頭、腕、胸、腹、脚……とそれぞれユニットとして見たなら、その中で方式が混在することはないからな」
「まあ、そこで混在させたら動かなくなっても不思議ではありませんものね」
「そういうことだな。つまり、全体のバランスというか、統合するセンスはあるんだろうな……このゴーレムの製作者は」
「なるほど、そういうことが読み取れますね」
仁は『設計者』と言わず『製作者』という言い方をした。
「ただなあ……」
「何か問題が?」
「いや、ゴウたちのところに置いてきたゴーレムと、少し違うみたいでな……」
「え?」
「ちょっと見ただけだから断定はできないが、腕の形式が違うと思う」
「どういうことですか?」
「考えられるのは、製作者が違うということかな」
「その場合は、確かに形式が違っても不思議ではないですが、意図がわかりません」
「あとは、いろいろ試している……とかかな?」
「それなら少しは理解できます……試作品、ということですよね。ですがそんな不確かなものを使ってしまうものですかね?」
アーノルトは首を傾げた。
「俺だってわからないさ。ただ、可能性を考えただけだし」
「それは、確かにそうですね」
「こうなると、エリアス王国に渡した残り4体も気になるな」
仁のこの呟きは礼子から老君に伝わり、『覗き見望遠鏡』による構造確認が即、行われた。
その結果は礼子の口から語られる。
「お父さま、老君からの報告です。4体のうち2体はこちらの1体と同じ。残る2体はこちらの別の1体と同じ、だそうです」
アーノルトも『仁ファミリー』であるから、老君のこうした能力に関しては驚きはするものの、普通に受け入れている。
「すると、3体ずつ2種類のゴーレムがいることになるな」
「はい、お父さま。どうやら山の上からと麓からに分かれて襲ってきた賊ですが、同じ様にゴーレムの構造も分かれていたようです」
「なるほどな」
そして、ついでなので昨日逃げていった『風力式浮揚機』の行方について尋ねてみることにした。
アーノルトの工房は防音結界もあるのでそれを展開してから、だが。
『はい、御主人様。賊のものと思われる『風力式浮揚機』ですが、エゲレア王国西部の『アンダーギ』という町へ行きました』
「アンダーギ?」
『はい、御主人様。主要街道からはかなり離れています。西部にある、なにもない山の山腹にできた鉱山の町です』
それを聞いたアーノルトが、世界地図を持ってきてくれた。
こういう時、居室と隣接しているのは便利だ。
「ここですね」
「ああ、ここか」
エゲレア王国西部、海沿いを走る街道と、内陸へ向かう街道でぐるりと囲まれたエリアの中に『アンダーギ』はあった。
山の名前は『ダギ山』。その東側の山腹にアンダーギ鉱山があり、そばには同名の町もしくは村がある。
フラット鉱山との距離は270キロほど。
風力式浮揚機なら3時間くらいで飛べる距離である。
「『世界警備隊』で調べられないかな?」
という仁に対し、アーノルトは否定的だ。
「難しいのではないでしょうか?」
「なぜ?」
「どうしてそこが怪しいのか、根拠を示せないからです」
「それは、そうか」
蓬莱島に『覗き見望遠鏡』がある、というのは、『受け入れ側が要らない転送機』同様、最高機密である。
「なら鉱山の見物あるいは見学という建前で行ってみようかな?」
『魔法工学師』である仁なら国境をまたぐのに問題はなく、フリーパスである。
「こういう時に権利を使わないとな」
私利私欲のためではなく、世界平和のためである。
「あともう1つ。これはアーノルトの意見も聞きたいんだが」
「何でしょう?」
「ええとな、『ショウロ皇国南海上で起きた船舶事故』と、『セルロア王国東部で起きた飛行船の墜落事故』って、随分と事故が集中しているんじゃないかということさ」
「それは僕もそう思っていました」
そしてさらに続けてフラット鉱山での落盤事故が起きているわけで、作為を感じないか、と仁は言ったのである。
「『アヴァロン』のゴーレムを総動員させるのが目的だとすると、内部に賊もしくは賊への協力者がいる可能性がありますね」
アーノルトも仁の思いつきを支持した。
「うん、調べてみたくなってきた。今日この後行ってみるか」
「ジンさん、気を付けてくださいよ?」
「うん、気を付けるよ」
「僕は最高管理官と、賊もしくは賊への協力者がいないかどうかの洗い出しについて相談してみます」
「そっちは任せた」
「はい。お任せください」
こうして、仁とアーノルトはそれぞれ独自に調査することにしたのである。
仁は『ハリケーン改』でエゲレア王国西部を目指す。
『アヴァロン』から見たらアンダーギはほぼ真北、時差はほとんどない。
距離は100キロくらい。『ハリケーン改』なら10分と掛からない距離である。
* * *
そしてアーノルトは最高管理官と話し合いをしていた。
「……以上が、私とジン殿が出した結論です」
「ふむ……賊か、賊への協力者が、な」
「なんとかして調べてみたいのですが」
「考えてみよう」
果たして『アヴァロン』内にスパイはいるのであろうか……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230611 修正
(誤)西部にある、町も道もない山の山腹にできた鉱山の町です』
(正)西部にある、なにもない山の山腹にできた鉱山の町です』
(誤)フラットヘッド鉱山
(正)フラット鉱山
2箇所修正。
20230616 修正
(誤)4体のうち2体はこちらの1体と同じ。もう1体はこちらの別の1体と同じ、だそうです」
(正)4体のうち2体はこちらの1体と同じ。残る2体はこちらの別の1体と同じ、だそうです」




