93-17 仁の指導、中級編
10月13日、朝食を済ませた仁は第5工房へ。
そこでは、既にゴウが『ピスティ』の修理を開始していた。
「……『制御核』のバックアップを最初にやったな、それでいい」
「はい、最も大事な部分ですから」
「そうだな」
「ゴウ、骨格は64軽銀でいいのよね?」
「あ、そうそう。ルビーナ、ありがとう」
旧『ピスティ』は軽銀だったが、今度は64軽銀を使い、より丈夫にする。
「筋肉はどうするんだ? ピスティは生体素材系だったな」
「はい。精密動作とパワーの両立をどうするか、ジン様に教えていただきましたね」
「ああ、そうだったな。……今はどうだ? 疑問はないか?」
改めてゴウに尋ねる仁。
「精密動作性を左右するのはパワーじゃなくて伸縮率だと教わりました」
「そうだ。それじゃあ、今日はさらにその上の話をしよう。……ルビーナもおいで」
「あ、はい、ジン様!」
呼ばれたルビーナはわくわくしながらやって来た。
「初級編ということで精密動作性を左右するのはパワーじゃなくて伸縮率だと教えた」
「はい」
「今度は中級編だ」
「お願いします!」
「まず、矛盾するようだが、生体素材ではなく金属系素材を使うことになる。ゴウ、理由はわかるな?」
「ええと、経年変化が小さいから、でしょうか?」
「そうだ。この前、『助手ゴーレム』の素材選定の時に教えたな」
「はい」
ゴウがちゃんと理解していることを確認した仁は満足気に頷き、先へ進む。
「矛盾しているようだが、そうではない。……ゴウ、わかるかな?」
「ええと、あの時ジン様は、『筋肉の素線径を細く、かつ長くしてたくさん束ねれば、精密動作性とパワーをうまく両立させることができる』と教えてくれました」
「そうだ」
「生体素材はそういった加工がし易いわけです」
「うん、いいぞ。それで?」
「ですが、経年変化を考慮すると、最適な方法ではない、ということでしょうか」
「そのとおりだ。……ではどうする? ……ルビーナ、わかるか?」
説明をずっと聞いていたルビーナに仁は質問を投げかけた。
「ええと、金属系素材でも『素線径を細く、かつ長く』できればいいんじゃないかしら?」
「うん、よくできた。正解だ」
「やった!」
仁に誉められたルビーナはにこにこ顔である。
「では中級編として、金属系素材で『素線径を細く、かつ長く』する手法を教えよう」
「お願いします!」
仁は中級編と言っているが、現在の『アヴァロン』の技術レベルでは上級編に該当するだろう。
「まず大前提だが、俺は精密動作をさせるには金属素材よりも生体素材の方がいいとは言っていない」
「え…………ええと…………確かに」
「素線の全長が長い方が、小さな変位の誤差に対する許容量が大きくなる。つまり精密動作に向く。これも大前提だ」
「生体素材の方が素線の全長を長く取りやすいんですよね」
撚り線を考えてみるとわかる。
糸を撚る方が、針金をよじるよりも楽にでき、素線の長さも多くできるわけだ。
だが今日ではなおざりにされることが多い技法である。
「そして最も肝心なことだが、『蓬莱島産の生体素材』が最もパワーを出せる」
「やっぱり」
「そうだと思ってたわ」
仁の説明に、ゴウとルビーナは納得した、という顔になった。
「だがそれは実用的じゃないな。だから一般的には金属素材が使われる。生体素材は瞬発力が欲しいときにはいいんだがな」
「……」
「とはいえ、中級編だから教えるが、工学魔法で色々な処理を加えてしまうと、金属素材も生体素材もあまり変わらなくなる」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。だからあとは経年変化を考えるだけだ」
「ええと、一定以上の『自由魔力素濃度』があれば、生体素材は劣化しないんですよね?」
「そうだ。それを行えれば、あと考慮するのは扱いやすさと重さだな」
「わかります。生体素材の方が軽くできますよね」
「そのとおり。……で、今回『ピスティ』には何を使う?」
「工学魔法で処理をした金属素材にします」
「そうか、もう迷いはないようだな」
「はい!」
ゴウの様子を見た仁は、さらに講義を続ける。
「ここで大事なのが『フィードバック』だ。……もう1つ、『精密動作』に欠かせない要素がある。それは何だ、ルビーナ?」
「え、あたし? ……え、ええと………………そうだ、『触覚』!」
「間違ってはいないが、まだ不十分だな。『フィードバック』がヒントだぞ。……ゴウはどうだ?」
「ええと……あ、『測定』でしょうか?」
「よし、そのとおりだ。だが、あと1つある」
『触覚』を使って『計測』ができなければ『フィードバック』は成り立たない。
要は、『最小目盛り』がどれだけか、ということだ。
こう考えると、仁の言う『あと1つ』とは……。
「『制御』ですね!」
「ゴウ、よく思いついたな。正解だ」
いくら精密な測定器を持っていても、読み取れなければ意味がなく、またその読み取った結果を動作に反映させられなければ価値がない。
「これが『中級』の講義になる。……初級の延長だが、基礎は大事だからな」
初級では制御にまで言及しなかった。
が、中級では制御が重要になってくる。
「だから、『制御核』だけではなく『補助制御核』を搭載する方がいいだろう」
「わかりました!」
「その場合、『補助制御核』とのデータのやり取りに注意だ。ここが遅くなったんじゃ無意味だからな」
「つまり、高品質な『魔結晶』を使うわけですね」
「そういうことだ。……さあ、やってみろ、ゴウ、ルビーナ」
「はい!」
「はい!」
ゴウとルビーナは元気よく返事をすると、作業に取り掛かる。
仁は作業をする2人をしばらく眺めていたが、その集中している姿を見て満足気に微笑むと、そっと第5工房を出ていったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20230610 修正
(誤)ゴウとルビーナは元気よく返事をすると、作業に取り掛かっる。
(正)ゴウとルビーナは元気よく返事をすると、作業に取り掛かる。




