93-16 『アヴァロン』の歪み
エリアス王国のフラット鉱山と『アヴァロン』の時差はマイナス30分ほど。
フラット鉱山を午後5時10分に飛び立った『ハリケーン改』は2地点間を5分で飛び抜けた。
なので『アヴァロン』の時刻は午後4時45分である。
一般職員の終業時刻前に戻ってくることができたのだ。
折角なので大急ぎで最高管理官のトマックス・バートマンに報告をする。
「そうでしたか、ジン殿、ありがとうございます。……『アヴァロン』の組織改革も必要ですね……」
『ピスティ』喪失に対するエリアス王国の対応を聞き、トマックス・バートマンはうなだれた。
彼としても、今回の対応はまずかったと思っているのである。
なにしろ職員の私物を借りておいて、それを派遣先で紛失。
それは事故なので仕方ないにせよ、まずいのはその後の対応である。
謝罪まではよかったが、その後の『補償』が何もなされていなかった。
これはそうした場合のマニュアルができていないだけでなく、規約も未整備なのである。
「メルツェにも言われましたよ……」
「そうですか、彼女が……」
こういう点での対応がまずいため、『引き抜き』がなくならないのだと、メルツェは指摘したのである。
一言で言えば『待遇改善』である。
「もっと職員の待遇をよくしないと勤労意欲が落ちます、とね」
それがゴウに関わることだったから、なおのことムキになったのかもしれない。
だが言っていることは全くの正論であったため、トマックス・バートマンも何も言えなかったのであった。
「今の職員の大半は『アヴァロン』という組織に『奉仕』している状況だ、とも言われましたね」
世界に貢献している、という自負や誇りがあるからこそ、今の待遇に不満を言わずに勤めている、とメルツェは分析したようだ。
「そうした話は、マキナも交えて行った方がいいと思いますよ」
「そうですな……」
このままでは話が長くなりそうなので、一旦区切りとした仁であった。
* * *
「……うわあ、ジン様、ありがとうございます!! まさか、戻ってくるとは思いませんでした!」
「ジン様、さすがね……あたしからも、ありがとう!」
「いや、いろいろ気になることもあったしな」
「それに……こんなゴーレムを賊が所有しているのですか」
「ちょっと興味あるわね」
確保した賊ゴーレム2体のうち、1体はアーノルトに預けてきた。
そしてもう1体はここ第5工房へ運んできたのである。
「ゴウ、どっちを先にする? 『ピスティ』の修理か、賊ゴーレムの解析か」
どちらもそこそこ重要で、どちらも緊急性はない。
メリット・デメリット両方がある。
『ピスティ』を修理すれば、『助手ゴーレム』と2体体制で作業ができる。
賊ゴーレムの解析は、治安維持に役立つ……かもしれない。
「なら、『ピスティ』修理に決まってるわ!」
ルビーナが宣言した。
「解析は?」
「『ピスティ』を直してからゆっくりやればいいのよ。それに、アーノルト主任も解析していると思うから、業務上の問題はなし!」
元気いっぱいに言うルビーナの声に、ゴウも思わず微笑んでしまった。
「ふふ、そうだね。……それじゃあ悪いけど、『ピスティ』の修理を済ませてしまおうかな」
「もちろん手伝うわよ」
「うん、頼むよ、ルビーナ」
2人の間での話も付いたようなので、仁は黙って2人を見守ることにした。
私物である『ピスティ』の修理を就業時間にやっているとクレームが付くようなら、仁自身が乗り出すつもりなのだ。
そもそもその『私物』を借りて事故現場に派遣したのは『アヴァロン』であり、『ピスティ』は派遣先で2次災害から人命を救って自らは埋もれてしまったのだ。
そのことに対しての謝罪……まあ簡単な謝罪はあったのだろうが、補償や補填の話は一切出ていない。
これでは『アヴァロン』で勤務するのは馬鹿馬鹿しい、と第三者に思われても仕方がない。
どうやらこれについてはメルツェも気が付いているらしく、いろいろと案を出しているようだ、と仁は頼もしく思っていた。
とにかく、ゴウが『ピスティ』を修理してしまえば、その後の作業にいろいろと役に立つ。
「俺も少し手伝ってやろう……と思ったが、5時だな」
終業を告げるチャイムが『アヴァロン』に鳴り響いた。
「気分転換に風呂に入るといいぞ」
という仁のアドバイスに従い、ゴウもルビーナも作業を止めたのである。
* * *
「ジン様、今日はありがとうございました!」
「いや、ちょっと気になることもあったからな」
仁とゴウは大浴場で寛いでいた。
「でも、『ピスティ』が見つかって、本当に嬉しいです」
「それはわかる。……なあゴウ、今の『アヴァロン』は組織が未完成……というか人手不足で円滑な業務ができていない。それは理解してやってくれ」
「ええ、わかっています。今回の『ピスティ』貸し出しとか、未帰還に対する謝罪と賠償、とかの問題ですね?」
「そうだ。わかっていたか」
「はい。……ええと、メルツェから言われました」
「そうだったか」
「ええ。メルツェは業務内容の改善すべき点を1つずつ直していかなければならない、って言ってました」
「そうか、よくやっているな」
* * *
そのメルツェはルビーナ、エルザ、リシアらと大浴場にいた。
「メルちゃん、今日も忙しかったみたいね」
「そうなの。……調べれば調べるほど、業務が滞って組織が歪んでいるのが見えてきちゃって」
「そんなことまでわかるのね。すごいなあ」
「私にしてみればルビちゃんやゴウさんの方がすごいわよ……」
「……聞けば聞くほど、人員不足が祟ってますね」
リシアも少し呆れている。
「そうなんです。ですから、もっと福祉や福利厚生に力を入れないと、と思っているんですが」
「それはいいことですね」
「メルツェ、リシアは領地経営にも詳しいから、いろいろ意見を聞くと、いい」
エルザに言われ、改めてリシアに向き直るメルツェ。
「はい! ……リシアさん、ぜひ、お願いします!」
「ええ、私にできることなら、なんでも」
「ん、でも、今は、気分転換。無理は、駄目」
「は、はい……」
「でも、ジン様が『ピスティ』をこんなに早く掘り出してくれるなんて」
「ん、やっぱりほっとけなかったから」
「よーし、明日から頑張るわ」
女湯は賑やかであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230609 修正
(誤)
そもそもその『私物』を借りて事故現場に派遣し、2次災害から人命を救って自らは埋もれてしまったゴーレム。
(正)
そもそもその『私物』を借りて事故現場に派遣したのは『アヴァロン』であり、『ピスティ』は派遣先で2次災害から人命を救って自らは埋もれてしまったのだ。




