93-21 一連の事故、その解析
さて、エゲレア王国西部を目指した仁はどうしていたか。
時刻は少し戻って正午前。
『アヴァロン』からエゲレア王国西部のアンダーギまでは30分も掛からない。
また、『アヴァロン』とほぼ同じ経度にあるため、時差もない。
今回、仁は個人的に訪問する。
好都合なことに、アンダーギ鉱山ではレア素材である『アダマスロック』(アダマンタイトの鉱石)がごく少量採れるのだ。
『魔法工学師』である仁なら、個人で購入してもおかしくはない。
というのも、ここの鉱山は個人の持ち山で、仁以外にも直接購入に来る者はいるのだ。
そういう背景を仁はうまく利用し、この鉱山を訪問しようというわけである。
……はずだったが、礼子と老君の猛烈な反対にあい、仁Dでの訪問となっていた。
「鉱山のオーナーが黒幕なのでしょうか?」
「まだわからないけどな。少なくとも関係者である可能性は否定できないな」
「『第5列』も調査しているとのことですが、どうにもはっきりしないようです」
「秘密裏にやっているからな」
多少なりとも強引な調査をすればより短時間ではっきりするのだろうが、今はまだ『それとなく』調査している段階なので、調べきれていないという。
『覗き見望遠鏡』による老君の調査では、ここの鉱山の外れに『風力式浮揚機』が着陸したのは間違いなく、またその乗員が鉱山の関係者であることも確認している。
とはいえそれだけでその人物が黒幕であるとは断定できない。
「今頃アーノルトも『アヴァロン』内の調査をしているだろうな」
裏切り者がいるとは思いにくいし思いたくない、というのが仁の本音である。
蓬莱島で仁Dを操縦している仁は老君にそちらのフォローも指示していた。
* * *
仁が仁Dと入れ替わって『ハリケーン改』でエゲレア王国を目指していた時、アーノルトは最高管理官トマックス・バートマンと話し合っていた。
その結果、賊あるいは賊への協力者がいるのかどうかを調べる、という結論になったわけだが、一番の難問はその方法である。
1人1人に尋ねても、スパイが正直に答えるわけもなく、アーノルトとトマックス・バートマンはその点について協議を続けていた。
そこへ、秘書自動人形のマノンが意見を出した。
「あの、『盗聴器』という可能性はないでしょうか?」
「……ううむ、その可能性があったな。だが、見つけられるかな? 『アヴァロン』は広いぞ?」
トマックス・バートマンとしてもそう答えざるを得ない。
「いえ閣下、『アヴァロン』全てを対象としなくてもいいと思います。例えば飛行場や食堂は調べる必要はない、あるいは後回しでいいでしょう」
「うむ、確かにな。会議室や執務室を優先的に調査すればいいわけだな」
「はい、そうなります」
マノンは頷いた。
「よし、マノンは、それとなく気を付けていてくれ」
「わかりました」
そして再び、賊あるいは賊への協力者がいるのかどうかを調べる方法についての議論となる。
「もう1つ、催眠によって意志に反する行動を取った者、という可能性もあります」
そう言ったのは秘書自動人形のシモーヌだった。
「それもあるか……厄介だな」
「疑心暗鬼になって疑いすぎるのもチームワークを壊しますからね」
「難しいところだな」
「ええ……」
なかなか結論は出ないようである。
* * *
もう1つの可能性を、蓬莱島の老君は追っていた。
エリアス王国の『フラット鉱山』である。
『賊の襲撃があまりにも御主人様の訪問と一致していましたからね』
老君としては、狙いすましたように仁がいるタイミングで賊が襲ってきたことを訝しんでいた。
そもそも、賊の目的がはっきりしないのである。
賊ゴーレムの『制御核』は遠隔で調査してみたが、『賊に従え』というような単純な命令しか与えられていなかった。
捕らえた賊は州都トヴェスへ護送中で、尋問はまだ行われていない。
『陽動、という可能性もありましたが、何のための陽動か不明ですしね……』
老君の能力をもってしても、情報不足なので確実性のある結論は出せなかった。
『陽動でない場合の可能性の1つとしては、『アヴァロン』のゴーレムの情報を得ようとした、といったところでしょうね』
それならば『ショウロ皇国南海上で起きた船舶事故』と、『セルロア王国東部で起きた飛行船の墜落事故』も、そのデータを取るため、と考えることもできる。
そのためだけに人命を危険に晒したという事実は動かないが。
『個人、というよりも組織のやり口ですね……』
ただしあまり大きな組織ではなく、小規模〜中規模なもの、と老君は判断した。
比較用に例を挙げると、かつての『統一党』や『魔法連盟』は大規模、少し前に暗躍していた『公平党』は中規模である。
『ただし、やり方は巧妙ですね』
『覗き見望遠鏡』でざっと観察したくらいではわからない程度の工作活動しかしていないのだ。
* * *
『あるいは……』
老君はもう1つの仮説を組み上げる。
『『ショウロ皇国南海上で起きた船舶事故』だけは偶然で、『セルロア王国東部で起きた飛行船の墜落事故』と『エリアス王国での鉱山事故』の2つだけが人為的、という可能性もありますね』
そう仮定すれば、一連の事件が幾分かすっきりする。
事件……いや事故の内容を調べた結果、『ショウロ皇国南海上で起きた船舶事故』は船の老朽化が原因であった。これが人為とは考えにくい。
だが『セルロア王国東部で起きた飛行船の墜落事故』は気嚢に穴が空いた上、フレームの数箇所が折れたことによるもの。
飛行船の回収はまだなされていないが、老君は『覗き見望遠鏡』で破損箇所を確認していた。
『フレームは傷がつけられていましたからね』
一見しただけでは無理な力が掛かって折れたように見えるが、よくよく見れば超極細の糸鋸のようなもので切込みを入れた跡があったのだ。
真っ直ぐではなく、ランダムに曲げて切込みを入れたため、不自然さが緩和されて見分けがつきにくくなっていた。
『このような加工ができるのは……超小型のゴーレムでしょうか……』
少なくとも4分の1サイズの『リトル職人』クラスであろうと老君は推測した。
それだけの小型化ができるからには、世界トップクラスの技術を持った『魔法工作士』であろう、とも。
『ゴウさんやルビーナさん、アーノルトさんらと同等クラス……そんな技術者がまだ世に埋もれているのですね』
その技術を世界の発展に使えばいいのに、と老君は残念に思ったのである。
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