93-12 裏方として
さて、ゴウとルビーナは、固まったスペックを踏まえ、助手ゴーレムを作り始めた。
彼ら専用、ということで、位置づけは蓬莱島の『職人』といったところだろう。
仁からの助言により、彼らが作った『設計基』は一般公開されることになる。
つまり、誰でも同じものを作ることができるのだ。
こうすることで『私物』として助手ゴーレムを作る許可が出やすくなる。
そして、ゴウとルビーナにも恩恵がある。
『設計基』の公開によって、幾ばくかではあるが『見返り』もあるのだ。
今回、それは『素材』となる。
要は助手ゴーレムを作るための軽銀を格安で購入できるということである。
「そういう意味では助かるわよね」
「うん」
「ジン様もレア素材を分けてくれたし」
軽銀を64軽銀にするためのアルミニウムとバナジウムは仁がくれたものだ。
その他に、高品質な『魔結晶』もくれた。
これらを使えば、同じ『設計基』で作っても、別格の性能のゴーレムとなるだろう。
私物扱いなのでルール違反ではない。
「あとはあたしたちの腕次第ね」
「頑張るぞ」
そんなゴウとルビーナの様子を確認した仁は、一旦第5工房を後にしたのである。
* * *
エルザとリシアが打ち合わせを行っている小会議室に、仁は顔を出した。礼子も一緒である。
「どんな具合だ?」
「あ、ジン兄。……ん、打ち合わせはまあまあ順調」
「ジンさんの方はいかがですか?」
「ゴウとルビーナの方は当分心配はなさそうだな」
「それはよかった」
「で、こっちは?」
「それが……」
リシアが語ったのは、『アカデミー』における医療教育の実態である。
「公衆衛生に関しては、ほぼ守られてます」
手洗い、うがいの徹底や、殺菌消毒の概念は根付いている、とリシアは言った。
「ですが、その先が問題でして」
「問題?」
「はい。まず第一に、今の体制では『引き抜き』が簡単にできてしまうこと」
「ああ、そうだな」
今『アヴァロン』全体を見て『治癒師』や『治癒士』が不足しているのは、そこそこ育った者が『引き抜き』にあっているからである。
それというのも、『アヴァロン』の影響力と言うか信用と言うか、権威が低下している……といえばいいか……。
「まあとにかく、『世界会議』参加国に詰め寄られたら断りきれない、ということか?」
「そう、ジンさんのいうとおりです」
「なるほどな……それは少々問題だな……」
おそらくは『魔法連盟』の事件を通じ、『アヴァロン』というよりも『アカデミー』の権威が失墜しているのだろうと仁は考えた。
「ならば、有名な講師を呼んで、特別講義をさせることも考えたらいいかもしれないな」
「あ、それ、いいですね。ジンさん、是非お願い致します」
「俺!?」
リシアに請われて仁は面食らった。
そんな仁に、エルザが少し呆れ顔で言う。
「ジン兄、『3代目魔法工学師』以上に適任は、いない」
「そうですよ、ジンさん」
「それはそうか……うん、やるよ」
言い出したのは自分であるから、無下に断るわけにもいかず、仁は渋々ながら承知した。
「他にも何人か講義をさせたいな……」
「『ファミリー』から誰か、呼ぶ?」
「それはいいな。……誰が適任だろう?」
「こういうところで、とすると、ビーナ、マルシア、ロドリゴさん、ロロナさん、ハンナちゃん、サキ姉あたり?」
「まあ全員は無理にしても、何人かには講義してもらいたいな」
「ん」
仁とエルザ、リシアらは誰に頼むか相談した。
「明日か明後日には『クラフトクイーン工房』がこっちに来るらしいから、ビーナを呼ぼうか。講師としてじゃなく、純粋に、自分の作った工房がどうなっているのか興味あるだろうから」
「ん、それはいいと、思う」
「よし。……あと、ロロナさんに農学の講義をしてもらう、というのは?」
「アリだと思います。ロロナさんは世界的に有名ですから」
「だよな。他に誰か呼べそうな人はいないかな?」
『仁ファミリー』のメンバーはほとんどがヘールで隠遁生活を送っているのでこの時代では知名度が低い。
「それがこんなところで問題になるとは思わなかったなあ……」
「工学系の技術力の高さは、広く認められていますけど……」
「医療系が、今ひとつ」
「だよなあ。……そういえば、去年だったか? エルザが特訓した、フランツ王国の治癒士見習い……」
「ナージャス?」
「ああ、そうそう。……彼女はどうしてる?」
「引き抜きが掛かったけど、断って残っている、らしい」
「そっか、ならいずれ会えるな」
「うん」
ナージャス・カーン。
フランツ王国のカーン子爵家4女で、妾腹のため継承権がなく、『ド』を付けることを許されていない。
本来ならナージャス・ド・カーン子爵令嬢、となるはずだが、実家で疎まれているため、『アヴァロン』の『アカデミー』で『治癒士』になるため学んでいる。
そのような出自からも、国に帰ることを拒んだと推測される。
「あとは、落盤の半日前にショウロ皇国南海上で起きた船舶事故と、1日前にセルロア王国東部で起きた飛行船の墜落事故が気になる」
「ん、間隔が短すぎる」
「エルザもそう思うか」
「本当ですね。その後は事故の話がないあたり、偶然で片付けるにはちょっと無理がある気もします」
ここで礼子が発言。
「お父さま、その件は第5列が調査中とのことです」
「お、そうか。老君は手を打っていたんだな」
「はい」
その調査結果が出るまでは、この話題は保留となった。
* * *
「……やっぱり気になるのはピスティ」
「うん……ゴウのトラウマを刳りそうだからな」
ゴウの両親は、土砂崩れに巻き込まれで亡くなった。
その時に、ゴウ一家……アガート家に仕えていた自動人形が『アミィ78』。
『アミィ78』は辛うじてゴウを守ったが、ゴウの両親は守りきれなかったのだ。
そのアミィ78もまた事故で深刻なダメージを受けており、ゴウをオノゴロ島へ連れ帰った後、機能停止してしまったのだ。
「その土砂崩れの起きたのもエリアス王国だったな。偶然の一致だろうけれど」
「ん」
「……これから行ってみるか……エルザとリシアはこっちに残ってくれるか?」
「ん、そのつもり」
「頼む」
という風に話がまとまり、仁はエリアス王国西部の事故現場へ赴くことになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230605 修正
(誤)「それがこんなところで問題になるは思わなかったなあ……」
(正)「それがこんなところで問題になるとは思わなかったなあ……」
(誤)「工学系の技術料の高さは、広く認められていますけど……」
(正)「工学系の技術力の高さは、広く認められていますけど……」
(誤)その時に、ゴウ一家……アガート家に仕えていたゴーレムが『アミィ78』。
(正)その時に、ゴウ一家……アガート家に仕えていた自動人形が『アミィ78』。




