93-08 聴講
『ピスティ』がなぜ戻ってこなかったか、その説明は終わった。
「そうだったのか……。怪我人を救助し、その際に……」
「はい」
「残念だったな……」
かつて『アミィ78』が遭遇した事故と状況が被るため、仁も掛ける言葉が咄嗟には出てこなかった。
「戻ってきた『世界警備隊』の方たちからは丁寧な謝罪と感謝をもらいました」
「それが筋だものな」
「エリアス王国からは近いうちに慰謝料を貰えるそうです」
「近いうち、か。まあ、事故直後だとすぐには無理だろうからな……」
「そして、崩落した縦坑はこのまま放置するということも聞きました」
「そうか。今更再開発するだけの価値はないと判断したんだな」
「そうらしいです」
つまり、おそらくは地下800メートルで瓦礫に埋もれている『ピスティ』はこのまま、ということだ。
素材的に言っても、『ピスティ』が無事な可能性は限りなく0に近い。
「……ゴウ、『ピスティ』はよくやったよ」
「はい……」
「ん、誉めてあげたい」
「ありがとうございます」
仁もエルザもリシアも、ありきたりの言葉しか掛けることができなかった……。
* * *
仁たちはいつもの客室に泊まった。
そして仁はエルザと現状での問題点を話し合っている。
「一番の問題は、まだまだ実用的なゴーレムが足りないこと」
エルザが持論を述べる。
「そうだな。だからゴウとルビーナにゴーレム製作の依頼が来るんだろうな」
仁も現状をそう分析した。
「……でも、単純にゴーレムを増やせばいい、というわけでは、ないみたい」
「え?」
「人によっては、ゴーレムに教わることに抵抗がある人も、いる」
エルザは昼間聞いた話を仁にも説明した。
「なるほどな……共感はできないが、そういう人もいることはわかる気がする。偏見を持つな、と言ってやりたいが」
「同感。なら教科書も読むな、って」
「はは、本は人間じゃないもんな」
「……ジン兄なら、人間そっくりの自動人形を作れるから、1つの解決にはなると、思う」
「それはできるな。現にアーノルトがそうだし」
「それは最終手段ということで、まずは10人ほどいるという研究生を一人前に育てて、今度は指導する側にしたい」
「そうだな。……『知識転写』……いや、『知識送信』を使うか?」
「必要そうなら。でもまずは実際に講義をしてみないと」
「わかった」
エルザの言い分はよく分かるので、仁は頷いた。
そのエルザが、今度は仁に質問する。
「『ピスティ』はどうするの?」
「普通ならこのまま瓦礫に埋もれたままだが……」
だが、仁は『魔法工学師』である。
他の誰にもできないことを可能にする。それが仁、『魔法工学師』なのだ。
「折を見て掘り出すよ。ゴウのためにも」
「ん、そうしてあげて」
それからはリシアの話になる。
「どうかな? 明日からやっていけそうかな?」
「ん、明日はお披露目の講義みたいなものだから、その出来次第だと思う」
「リシアなら大丈夫さ」
「ん、そう思う」
『アヴァロン』の夜は静かに更けていく……。
* * *
「うう、明日のことが気になって眠れません……」
リシアは寝床でゴロゴロしていた。
まあ、人造人間なので眠らなくても体調に影響がないのが救いである……。
* * *
明けて10月12日。
「おはよう」
「おはようございます」
「よく眠れた?」
「それが、全然……」
「ありゃ」
そんな会話をしつつ、仁、エルザ、リシアは朝食を済ませた。
「今日は挨拶代わりの講義だって?」
「はい。午前と午後、2回やります」
内容は同じだという。
「それじゃあ午前の部、ゴウとルビーナにも声を掛けて聞きに行くよ」
「えっ……」
「何だよ、その顔」
「い、いえ、ジンさんが聞きに来てくれると思わなかったので驚いて緊張して」
「今更だろ」
「そうなんですけど……」
「大丈夫。リシアさんなら、ちゃんと、やれる」
「ほら、エルザもこう言ってるし。……何時からだ?」
「10時と15時から、1時間を予定してます。場所は中会議室です」
「わかった」
中会議室の最大定員は100名。通常は50名用だ。
大会議室は最大定員が300名と多すぎ、小会議室は20名なので小さすぎると判断されたようである。
* * *
「というわけだから、10時前に中会議室へ行くぞ」
「はい!」
「はーい」
第5工房へ顔を出した仁は、ゴウとルビーナに説明した。
「医療に関する基礎知識は持っていて損はない。自分や他人、拡大解釈すれば世の中の役に立つからな」
「はい!」
「まだまだゴウもルビーナも、いろいろな知識と経験を蓄える時期だ。それがどんな場面で役立つかわからないからな」
「わかりました」
「よし。時間までは『助手ゴーレム』の詳細を詰めていこう」
「はい」
講義開始時間までの2時間弱、ゴウとルビーナは仁の指導の下、『助手ゴーレム』の詳細仕様を煮詰めていくのだった。
* * *
午前9時50分。
仁、ゴウ、ルビーナ、礼子らは中会議室にやって来ていた。
「思ったより人がいるなあ」
「座れてよかったですね」
「補助席は座り心地が悪いものね」
通常定員の50名を超え、70名ほどが講義を聞きに来ていた。
通常定員超えの20名は補助席である。
また、通常定員の前にはテーブルがあるが、補助席にはテーブルがない。
そのためテキストを読んだりノートを取ったりするにはやや不便である。
「でも、今年から補助席がよくなったんだよ」
「え?」
ゴウの説明にルビーナは振り向き、後ろの方に並ぶ補助席を見た。
「あ、ほんと」
補助席とはいえ左側に肘掛けが付いており、そこから折りたたみ式のアームが伸びて簡易テーブルを展開できるようになっていた。
座面の座り心地も、パイプ椅子よりはよさそうである。
「あれならかなりマシね」
「だろう?」
ちなみに、礼子は椅子に座っていないので定員数を圧迫してはいない。
午前10時になった。
最終的に80名ほどが聴講するようだ……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日6月1日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20230601 修正
(誤)そのためテキストを呼んだりノートを取ったりするにはやや不便である。
(正)そのためテキストを読んだりノートを取ったりするにはやや不便である。




