93-07 ピスティ
ゴウが作った助手ゴーレム『ピスティ』。
それがなぜ、ゴウの手元になく、新たな助手ゴーレムを私物として作ろうとしているのか。
その理由はゴウではなくルビーナの口から語られた。
「一言で言うと壊れたみたいなのよ」
「え?」
「ルビーナ、それじゃあ簡単すぎるだろう? ジン様が当惑してるじゃないか」
「わかってるわよ。これからちゃんと詳しい説明をするんだから。……だいたいゴウの代わりに説明してあげてるんだからね!」
と、ちょっとしたすったもんだがあったが、ルビーナは説明を続ける。
「事故があって、どうしても優秀なゴーレムが必要だ、と言われて貸し出したのよ」
「で、その貸し出し先で壊れたのか?」
「……だと思う。見てはいないし、何も戻ってこなかったから」
「ふうん?」
ここでゴウがルビーナを遮った。
「ルビーナ、もういいよ。ここからは僕が説明する」
そして、代わってゴウが事情の説明を始めた。
* * *
エリアス王国西部の山中に、古い鉱山がある。
およそ200年前に閉山となったもので、廃坑が3つ存在した。
かつてはアダマンタイトを中心とした金属資源が豊富な鉱山だったが、採算が取れなくなって閉山となったのだ。
が、20年前、より深いところに新たな鉱脈が眠っていることがわかり、試掘が開始された。
そして、地下800メートルにそこそこ大きな金鉱脈と魔結晶の鉱脈が発見されたのである。
エリアス王国西部、つまりトヴェス州領主エラルド・ド・セネカ・アルベルティ侯爵は積極的に開発を始めた。
危険な箇所は人間ではなくゴーレムを派遣し、坑道を広げていく。
が、地下800メートルは深すぎた。
坑道は縦に掘らず、斜めに掘ることが多い。
この鉱山でも縦坑は使わなかった。
そのため、坑道の長さは途轍もないものになる。
勾配10パーセント(水平距離10に対し高低差が1)というものだ。
急勾配で有名だった碓氷峠越えの勾配は、66.7パーミル(1000メートル水平に進むと66.7メートル標高が変わる)という急勾配であったが、これはパーセントに直せば6.67パーセント。
つまりこの鉱山は台車で鉱石を運び出すには限界レベルの勾配である。
そして坑道の長さは高低差の10倍、8キロメートルにも及ぶ。
近年になって『魔法連盟』の影響がなくなり、魔法技術が再び発展し始めたので、最初の坑道以外は全て縦坑となり、リフト(エレベーター)を使って地下へ降りるようになった。
が、最初の坑道だけは10パーセントの勾配がある長い坑道を延々と8キロメートル行き来するままだったのである。
* * *
「……と、ここまでが前提です」
「なるほど、だんだんわかってきたよ」
仁は頷き、ゴウに先を促した。
* * *
そんな縦坑で、事故が発生した。
最も古い縦坑で、地下400メートルに中継点があって、乗り換えることで更に400メートルを潜ることができるタイプだ。
その1段目、地下300メートル手前で縦坑の側壁が崩れたのである。
その時、最下層の地下には2人の調査員と4体のゴーレムがいた。
また、中間点にも2人の作業員と2体のゴーレムがいた。
計4人と6体が閉じ込められてしまったのである。
* * *
「なるほどな、そんな事故があったのか。現場は大変だったろう」
「はい、『アヴァロン』からは『世界警備隊』が出動しました。『治癒士』も大勢派遣されたそうです」
「そうだろうな」
鉱山の事故となると、2次被害、3次被害が発生することもある。
救出作業も一筋縄ではいかないのだ。
「他の坑道から現場へは行けなかったのか?」
「はい。縦坑は最低でも200メートル離れていて、地下の坑道も繋がってはいませんでした」
「空気の供給はどうしていたんだ?」
地下深くのトンネル工事には、換気用の縦坑を空けることが多い。
「作業の大半はゴーレムが行っていましたので、あまり換気は必要なかったそうです」
「それにしても人間の作業員もいたんじゃないか」
「そちらはホースで空気を送り込んでいたようです」
「それだって、下手すると潰れるかちぎれるかしただろうに」
「はい。ですので救出は一刻を争いました」
* * *
状況を聞いた『世界警備隊』は、土木工事及び工学魔法を使えるゴーレムを同行させようとした。
土木工事用の工兵ゴーレムは2体を確保できたのだが、工学魔法を使えるゴーレムがいなかったのである。
理由は、半日前にショウロ皇国南海上で起きた船舶事故と、1日前にセルロア王国東部で起きた飛行船の墜落事故にほとんどの作業用ゴーレムが駆り出されてしまったからである。
そこで目を付けられたのだ『アカデミー』所属のゴーレムである。
「そうか、それで『ピスティ』に白羽の矢が立ったわけだ」
「はい、そうなんです」
「他にも2体、技術系のゴーレムを貸し出したわよね」
「うん」
「で、戻ってこなかったというわけだな」
「はい……」
* * *
事故発生から4時間、また連絡を受けて3時間後、『世界警備隊』の小型飛行船AS3ー010と011の2隻は現場に到着した。
現場はまだ混沌としており、『世界警備隊』はまず現場の秩序を回復させることから始めなければならなかった。
15分後、救出された怪我人のトリアージ(怪我の程度による振り分け)開始。
同時に事故現場の検証を行い、2次崩落に注意しつつ瓦礫の撤去を始めた。
この時に活躍したのが工兵ゴーレムである。
10人力を発揮できる工兵ゴーレムは瓦礫をどんどん運び出し、縦坑を掘り出していった。
一方、『ピスティ』は工学魔法の機能を発揮し、『接着』で縦坑の壁を崩れにくいよう強化していった。
3体のゴーレムは3時間を掛けて中継地点までの縦坑を掘り出した。
そこにいた2人の作業員は怪我をしてはいたものの命に別状はなく、無事救出された。
一緒にいた2体のゴーレムが崩れてきた岩塊から作業員を守ったのである。
そしてさらに下へ。
崩れた岩はエレベーターのワイヤーを断裂させており、下降は困難を極めた。
そのため、予定以上に時間が掛かってしまい、縦坑の壁の強化よりも瓦礫撤去を優先。
工兵ゴーレムと『ピスティ』は、5時間を掛けて最下層に到達した。
そこには4体のゴーレムに守られた、瀕死の作業員2名が。
急いで2人を救助し、救命用のリフトに乗せた時、2次崩落が起こったのである。
一際大きな瓦礫が落下してきたのだ。リフト直撃コースで。
それを未然に防いだのは『ピスティ』だった。
リフトに直撃する前に瓦礫に体当たりし、軌道をそらしたのである。
その甲斐あってリフトは無事。作業員2名は地上に運び上げられ、手当を受けることができた。
しかし、瓦礫と共に落下した『ピスティ』は、そのまま埋もれてしまったのである……。
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本日5月31日(水)は14:00に
『蓬莱島の工作箱』を更新します。
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