93-06 教育の難しさ
仁がゴウとルビーナの指導をしていた時。
エルザとリシアは『アカデミー』で打ち合わせを行っていた。
出席者は学長セイバン・イライエ・センチ、学長補佐サホ・ショマス、技術指導主任アーノルト、医療研究室室長ハーシャ・クラウド、医療研究室副室長メイ・シャイ・ジョーイら。
まずはざっと『教本』に目を通してもらった。
参加者は皆、基本となる学問を修めているので理解は速い。
「これは素晴らしい教本ですな」
学長セイバン・イライエ・センチが嬉しそうに言った。
「今後もこれを教科書として使わせていただきたいと思います」
「ありがとうございます。では、明日からの講義にはこれを使うということでよろしいですね?」
「もちろんです。ですが、1つだけ問題が」
顔をしかめるセイバンの口から出た言葉。それはエルザにもリシアにも、思いもかけないものだった。
「この内容を理解できそうな研究生は10人といないでしょう……」
「す、少ないですね……」
「今は世界的に『治癒士』が不足していまして、各国から引き抜きが掛かっているんです」
「あ、なるほど」
「ですので、優秀な研究生は流出してしまうわけで……」
「困りものですね」
『アヴァロン』での俸給は決して低くはないのだが、その2倍、3倍を出されたらそちらへ乗り換えてしまう者が出るのも無理はなかった。
「かといって、俸給をそこまで上げて対抗はできませんし、不当な方法ではないので各国にやめてくれと言うわけにもいきませんし」
セイバンはうなだれた。
「あ、あの……」
「リシア殿、何か?」
「俸給以外の特典を用意したらいかがでしょう?」
「特典?」
「ええ。例えば『アヴァロン』独自の施設を格安、あるいは優先的に使える、というような」
転移魔法陣、飛行船、それに各国にある宿泊施設などをリシアは挙げた。
「なるほど……それはいいですね」
「あとは、家族に対しても優遇するとかも」
「ははあ、なるほど」
社員とその家族への福祉、という概念なので、『仁ファミリー』のメンバーなら、一度は仁から聞いたことがあった。
リシアはそれを思い出しながら説明したのである。
「トータルでの居心地のよさ、そしてやりがいのある職場。それが大事なのではないでしょうか」
「なるほど、参考になりました」
学長セイバン・イライエ・センチはリシアに礼を言い、頭を下げたのであった。
* * *
「……それで、研究生未満の学生は、どのくらいいるのでしょう?」
エルザが尋ねる。
「そちらはそこそこおります。およそ50名」
「では、そちらへの教育も、重要ですね」
「そうなのです」
「教育用ゴーレムがあると、いいのでしょうか?」
「それはどうかと思いますな」
だがセイバンは首を横に振った。
「ゴーレムや自動人形に教わるのは嫌だ、という考えの者も一定数おりまして……」
「はあ、そうなのですか」
「残念ながら、そうなのです。半数近くの学生が、教師は人間でなければ嫌だ、と言っております」
「こればかりはどうにもなりませんか……」
「なりませんね……」
難しい問題であった。
が、エルザもリシアも、この問題の解決策を知っている。
それは仁だ。
仁がその卓越した技術で『人間そのもの』の自動人形を作ればいいのである。
そしてわざわざ『自動人形です』などと余計なことを言わなければ。
が、それは今日の話ではない……。
「医療教育については、今後も、考えていきましょう」
「そうですな、エルザ殿、リシア殿」
* * *
打ち合わせは一旦終了。
エルザとリシアは控室にいた。
「思った以上に、深刻」
「ですね……どうします?」
「基本は変えないでいいと思う。10人弱の研究生を一人前にして、彼らに指導をさせるしかない」
「そうですね、それしかないですね」
「ん、そのために効果的なカリキュラムも組まないと」
「教本だけではだめでしょうか?」
「実習を交える必要が、ある」
教本を読むだけでは不十分で、実務を経験しないことには一人前の『治癒士』にはなれない、とエルザ。
「そうですね……」
「私も数日、ここに居残る。そしてそうした実務のサポートを、する」
「助かります」
そうした打ち合わせが行われたのであった。
* * *
さて、時刻は午後6時。
仁たちとエルザたちは合流し、食堂で一緒に夕食を摂った。
「マキナは忙しいようで、俺たちだけで食べていてくれってさ」
ということで、仁、エルザ、ゴウ、ルビーナ、リシアの5人でテーブルを囲んだ。
「こちら、リシアさん。マキナの『アルカディア』で医療関係を引き受けてる」
「リシア・ファーレンハイトです、よろしく」
「ルビーナです。こちらこそよろしく」
「ゴウです。リシアさん、よろしく」
紹介後、和やかな食事の時間となり、食後のティータイムへと続く。
仁はゴウに質問をした。
「そういえば、以前ゴウが作った助手ゴーレムがいたよな?」
「あ、はい、『ピスティ』ですね」
『ピスティ』は、ゴウによる製作過程を仁も見ていた、かなり優秀なゴーレムである。
「それはどうしたんだ?」
「ええと、『ピスティ』はですね、貸し出してそれきりなんです」
「え? 一体何があったんだ?」
「実は……」
口ごもるゴウ。
「うーん、ゴウからは言いにくそうね。あたしが説明するわ」
と言って、ルビーナが説明を始めた……。
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