93-05 成長と申請書
ゴウとルビーナの話し合いを聞いていた仁は、ちょっとした引っかかりを感じる。
「ちょっといいか?」
「あ、はい、なんでしょう?」
「2人とも……というか、ゴウは『アミィ』を、ルビーナは『アリス』を、当分作る気はないのか?」
「え?」
「……」
押し黙る2人。
「いやな、2人の話し合いを聞いていると、これでもかと性能を盛ってるからな。一時的な助手ゴーレムとは思えなかったんだよ」
「確かに……」
「そういうつもりはなかったけど……」
「結果的にそうなるんじゃないのか?」
「うう……ジン様の言うとおりかも……」
(そうか、2人とも『自分』が見えてきているんだな)
思ったが、口には出さない仁。
ゴウの『アミィ78』に対する執着も、ルビーナの『アリス』に対する拘りも、幼年期の至上のものへの『憧憬』が反映されているのではないかと思っているのだ。
わかりやすくいえば子供がヒーローやヒロインに憧れ、なりたがるようなもの。
成長し、現実を知るにつれ、そうした想いは心の奥に押し込められていくものなのだ。
(ゴウの場合は保護者への依存心、ルビーナは幼児的な母性の発露……だったのかもな)
小児心理学とは無縁の仁であるが、施設時代に小さな子どもたちを見てきたので感覚的に理解している。
(幼年期の終わり……思春期の始まり、といったところかな)
と、そんな思いは口には出さず、仁は指導をしていく。
「俺としては、『今できる最高のものを作りたい』という気持ちはわかる」
「あ、そうよね!」
「ただな……2人とも組織にいるんだから、趣味を入れてはまずいぞ」
「う……」
「そういう意味で、このゴーレムを『自分たち用』にするのなら、俺が口を利いてやろう」
公費で趣味のものを作るというのは(建前上)許されない。私費で作るということならまあ許可されるだろう……ということだ。
ただし、仕事時間中に作るということを許可してもらうためには、用途やスペックをきっちり決めて届け出を出す必要がある。
そして同時に、仕事に役立てるということを納得してもらわなければ許可は下りない。
その上で私費で勤務時間中に製作する許可が下りるわけだ。
このあたりが勤め人の面倒な面である。
仁も現代日本で嫌というほど身に沁みているが、今は独立しているのでやりたい放題である。
それはさておき、ゴウとルビーナは『アカデミー』の研究員なので仁ほどの勝手はできない。
なので仁は、その枠組の中で最大限にやりたいようにできる方法を取らせようとしているわけだ。
「だからスペックをきっちり決めてしまえ」
「はい、わかりました」
「そうだなー、常識の範囲内なら、素材を調達してやるぞ」
「ありがとうございます!」
ここまで説明されれば、ゴウもルビーナも、より真剣に考えざるを得ない。
* * *
「外見は?」
「広い用途を考えるなら成人のサイズよね」
「力仕事をさせるつもりがなければ160センチくらいでいいんじゃないかな?」
「そのサイズで性別は?」
「中性的にすればいいと思う」
そもそもゴーレムに男女の区別はないが、見た目の体型でそう区別するわけである。
が、中にはどちらともとれるような体型、つまり中性的な体型も存在する。
身近なところではサキの専用自動人形アアルがそれだ。
「大きさと体型は決まった、なら素材を決めよう」
「うーん、基本的に64軽銀を使いたいわね」
「軽くて丈夫にしたいからね。それに強磁性体じゃないし」
「それはいえる。それじゃあ筋肉組織は……?」
「ジン様、魔物素材のほうがいいと思うんですけど、どうなんでしょう?」
「そうだな、経年劣化を防ぐためのメンテナンスができるんなら魔物素材を含めた生体素材のほうがいいぞ」
「やっぱり」
「だが、精密制御を含めると、金属系の方が精度を出しやすいな」
「ああ、なるほど」
「俺から言えるのは、パワーや瞬発力を重視するなら生体素材。精密動作を重視するなら金属素材、ということだ」
仁からのアドバイスに、2人はしばし頭を悩ませ……。
「今回は金属素材で行こう」
「わかったわ」
と決定したのである。
ここまで決まれば、他の項目はトントン拍子に決まっていく。
素材の大半は仁が融通してくれることになった(ゴウとルビーナの懐事情では賄いきれない)。
* * *
「よし、これなら大丈夫だ」
「ふう……」
「疲れたわ……」
「まだだ。申請書を書いてしまえ」
「はーい……」
昼食時間を挟んで午後2時、ようやく2人の『ゴーレム』の概要が決定した。
それを書類に記し、目的と用途を届け出て、許可が下りれば製作を始められる。
厳しいようだが、仁は2人にそこまでを要求した。
……で、書類が完成したのが午後2時40分。
「よし、申請しに行くぞ」
「はい……」
「いつ許可が下りるかしら……?」
「まあ、そのくらいは俺も後押ししてやろう」
仁が書類申請の検討・確認に助力すれば短時間で終わるはずである……。
* * *
3時休み、ゴウとルビーナは5号工房へ戻り、仁はそのまま『技術管理局』に残った。
もちろん、提出した書類を少しでも早く処理してもらうためである。
といっても、『魔法工学師』の権力を振りかざすのではない。
「……この書類は承認してもいいと思います」
「では承認しましょう」
「こちらはちょっと書類の内容が不確かですね」
「差し戻ししましょう」
「これはいい内容ですね」
「承認でいいですね」
アドバイザーとして『総合管理局』の業務を手伝ったのである。
* * *
「いやいや、ジン殿に手伝っていただき、捗りましたよ」
「お役に立ててよかったですよ」
その結果、同日中にゴウとルビーナの申請書も承認されたのであった。
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