93-04 仁の指導、再び
工房の片付け。
それは安全のため。
それは作業効率アップのため。
それは気分転換。
それは区切り。
それは逃避。
いろいろな目的で片付けは行われるものだが、ゴウとルビーナが第5工房を片付け始めたのは『安全』と『作業効率アップのため』である。
「まずは素材を片付けろ」
「はーい……」
「そのあとは工具だ」
「はい……」
素材と工具は置くべき場所がはっきりしているから、まずはそれをあるべき場所に戻す。
これだけでも少し片付いた感がある。
「次は、床の上にあるものを分別するんだ。工具は工具入れに。素材は素材置場に。ゴミはゴミ入れに。」
これで4割くらいは綺麗になった。
「まあ、これなら少しはマシだろう」
「……はい……」
「は、はい……」
床がちゃんと見え、作業台も1つがほぼ空いた。
これならとりあえずの作業が可能だ。
「作業中に散らかるのは仕方ない。でもな、床が見えないほど散らかっていたら怪我をするぞ」
「はい……」
実は仁にも経験があったりする。
施設時代、散らかし過ぎて床が見えなくなり、うっかりハサミを踏んづけて足の裏に怪我をしたことがあったのだ。
そんな経験から、過度の散らかりは自戒している仁なのである。
「で、何が引っ掛かっているんだ? ……ああ、その前に、今抱えている課題を教えてくれ」
「ええと、『最高管理官代理自動人形』の開発……です」
「なるほど、責任重大だな」
「そうなんです」
だから完成まであと少しなのに手が止まってしまって、とゴウが言った。
「それから?」
塞がった作業台はあと2つ。そのうち1つはゴーレムらしき部品が載っている。
「えっと、助手ゴーレム……なの」
今度はルビーナが答える。
「助手ゴーレム? 2人のか?」
「はい」
「ふうん……『アリス』とか『アミィ』って名前にするのか?」
「あ、違います違います」
「本当に、ただの『助手』ゴーレムなんです」
ゴウの説明によると、最近忙しいので助手用のゴーレムを借りに総務へ行ったら、『アヴァロン2』関連で出払ってしまっていると言われたのだという。
「それで、じゃあ自分たちで作ろうかということになって」
「うん、そこまではわかる。で、何を悩んで手が止まっているんだ?」
2人の技術なら、片手間にやっても2日もあれば助手ゴーレムは完成するだろうに、と仁は思った。
「それが……」
「?」
「作り始めたらいろいろと拘りたくなって……」
「だって、せっかく作るんですもの。どうせなら性能のいいゴーレムにしたいじゃない?」
「ははあ、なるほど」
なんとなく仁は察した。
そしてそれを確かめるためにいくつか質問をしてみる。
「助手ゴーレムはこれ1体で終わらせる気なんだろう?」
「あ、そうです」
「あたしたち、ゴーレムを2体も持てるほどじゃないし」
「なるほど、完全にワンオフとして始めたのか」
この場合の『ワンオフ』は『一度限りの製造品』という意味合いである。
「それが混沌の原因だな。……もうわかっているんだろう、2人とも?」
「はい……」
「はい」
うなだれる2人。
「最初にスペックを決めなかったことが最大の原因だ。だから作っている最中にあれこれやりたくなってしまい、結果として完成が遠のく」
「……」
「さらに『2人』での合作というのもまずかった。1人でさえ決められなかったりするのに、2人ではなおさら決定が難しい。……どうだ、何か言うことはあるか?」
「ありません……」
「ジン様の言うとおりです……」
「そうか。なら、これからやるべきことはわかるな?」
「はい。スペックを決めることです」
「そうだ。……俺が聞いているから、やってみろ」
「はい!」
そういうわけで、ゴウとルビーナは仁の前で『助手ゴーレム』のスペックを決めることとなった。
「体格はどうする?」
「これ、途中で変更したのよね……」
「僕らと同じくらいでいこうと言っていたのに、途中でルビーナが成人女性タイプがいいと言い出したから」
「その方がいいと思ったんだもん」
ここで仁が口を挟んだ。
「ちょっと待て。本当にワンオフにするつもりか?」
「そうですけど……」
「もう1体作る必要が出てこないと自信を持って言えるか?」
「そう言われるとちょっと……」
「自信ない、です……」
「そうだろう?」
仁自身、『設計基』が存在しない作品は礼子と老君だけだ。
礼子と老君はそれぞれ唯一無二、と思って製作している。
思い入れのあるゴーレムもしくは自動人形。
ゴウなら『アミィ78』、ルビーナなら『アリス』がそれに当たるのではないかと仁は言った。
「だから、この助手ゴーレムは『設計基』を作れ」
「はい……」
「よし、それじゃあ続けてくれ」
「はい」
ゴウとルビーナは話し合いを再開した……。
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