93-03 片付け
『アヴァロン』時間で10月11日、午前9時。
『アヴァロン』の飛行場には2隻の飛行船が着陸(着艦)していた。
仁の『ハリケーン改』とデウス・エクス・マキナ3世の『アリストテレス』である。
「ジン殿、マキナ殿、ようこそ!」
最高管理官のトマックス・バートマンが仁とマキナを出迎えた。
仁の横には礼子とエルザ。
マキナの横には従騎士レイ(実は第5列のスピカ9=リラ)とリシア・ファーレンハイト(ファールハイト)、それに助手自動人形のレイナ(実は従騎士レイ)が。
「マキナのところから臨時講師が来るということなので、エルザも連れて様子を見に来ました」
「おお、それはそれは。治癒士の育成は急務ですので助かります」
今現在、『優秀な』治癒士はどこの国でも不足しているのだとトマックス・バートマンは言った。
「かといって、急に人材が育つはずもなく」
「そうですよね」
知識だけならどうにかできても、『診察』は経験がものをいう。
おいそれと実務を任せるのも危険なのだ。
「立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」
* * *
執務室に場を移し、仁たちは会談を続ける。
「最近、各国間の関係は安定しているのですがね」
「何か事件が?」
「盗賊団が幾つか」
「幾つか!? ……って、幾つも?」
「幾つもなんです」
トマックス・バートマンが語ったところによると、セルロア王国とエゲレア王国、クライン王国の3国で小規模から中規模の盗賊団が現れたという。
「個々の被害は大したことはないんですが、物流に支障が出始めてましてね」
「比較的そうした治安はいい方だと思っていたんですが」
山賊、海賊の類は少なく、街道の治安は保たれていたと仁は思い起こしてみる。
(ああ、それでも、エリアス王国からショウロ皇国への旅で出会ったことはあったなあ)
400年前、ラインハルトやエルザとともにショウロ皇国を目指した時のことである。
(あの頃は『統一党』が跳梁跋扈していたなあ……)
最近も、『魔法連盟』やら『公平党』やら『捜理協会』やら、『魔法探求者』やら、トラブルを起こしてくれたなあと仁は思い起こしている。
(まあ、『魔法探求者』は直接事件を起こしたわけじゃないが……)
とにかく最近は大規模な犯罪組織は影を潜めたが、中規模〜小規模な組織が闇に蠢いているようなのだ。
(地球でもアルスでも……人間というのは変わらないのかなあ)
現状に満足せず、さらにその先を目指す欲望を持つ。
それがいい方向に働けば世界の発展に寄与し、悪い方向に働くと罪を犯すことになりかねない。
「……ジン殿?」
「ああ、すみません、ちょっと考えごとをしていました」
トマックス・バートマンに声を掛けられた仁は我に返った。
「それで、『世界警備隊』の出動回数も増えているんですよ。主に救助のためにですが」
「ああ、それもあって『治癒士』が不足しているんですね」
「そうなんです」
「そういうわけで、『治癒士』の育成が急務というわけだ」
マキナが口を挟んだ。
「1日早く教育を始めれば、1日早く『治癒士』が誕生する。……まあ、実際には1日2日のスパンではないわけだが、教育を始めるのは早いほうがいい。……リシア、頼むぞ」
「は、はい」
「よろしくお願いしますぞ」
「微力を尽くします」
* * *
その後、『アカデミー』の関係者を交え、打ち合わせを行う。
学長のセイバン・イライエ・センチ、学長補佐サホ・ショマス、技術指導主任アーノルト、医療研究室室長ハーシャ・クラウド、医療研究室副室長メイ・シャイ・ジョーイらが参加。
仁側はリシア、エルザの他、リシアの助手レイナ(実は従騎士レイ)が出席している。
仁とマキナはそれぞれ『アカデミー』へ様子を見に行った。
具体的に言うと、仁はゴウとルビーナの様子を見に。
マキナは『アヴァロン2』の現状確認に、である。
* * *
『アカデミー』へ行った仁は、まずゴウとルビーナが仕事をしているという第5工房に顔を出した。
「ジン様!」
「お久しぶりです!」
「元気そうだな、ゴウ、ルビーナ」
「はい!」
「だいぶ散らかっているな」
「は、はい……」
第5工房の広さは高校の教室くらい。2人で仕事をするには十分な広さがある。
……はずであった。
「なんか、あれもこれもやりだすとごちゃごちゃしちゃって……」
ゴーレムを横たえることができる大きさの作業台が4つあるのだが、そのうちの2つは作りかけのゴーレムで塞がっており、残る2つにも部品や素材が散らばっていた。
「気持ちはわかるけどな……」
職人は、散らかっているように見えても道具や材料がどこにあるかを把握しているもので、勝手に片付ける行為は迷惑以外の何ものでもない……が。
「これは度を越しているな」
「うっ……」
「はい……」
仁は工房内を見回して言った。
「おそらく、1つやってみたらうまくいかなくて、それならもう1つをやっているうちに何かアイデアを思いつくんじゃないか、とやっても駄目でまた他のことに手を出して……という流れだろう?」
「……すごい、大体あってます……」
「……どうしてわかるの……?」
「そりゃあ、いろいろな工房を見てきたからな」
実のところ、自分にも経験があったからだったりする。
もっともそれは『魔法工学師』になる前、現代日本にいた時。
時間がなくてどうしても半端な作りかけで放置せざるを得なかったからであるが……。
「まずは、できるところから片付けていくんだ」
「はあ……」
「こうとっ散らかっていたら、見ただけで気持ちが萎えてしまう。見た目をきれいにすることも大事だぞ」
「はーい……」
仁に諭されて、工房を片付け始める2人であった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20230527 修正
(誤)『|魔法探求者《マギシーカー』
(正)『魔法探求者』
2箇所修正。




