92-81 誕生会と報告 後編
仁は『人為的魔術変異元素』について説明を終えた。
「何か質問はあるかな?」
「ええと、あの、『亜自由魔力素波』を直接『魔導機』に当てたらどうなるのかしら? 性能が向上するの?」
ビーナが疑問を口にする。
「うん、ビーナの疑問も当然だ。で、それは『制御核』に書き込まれた内容にも影響があるからやらないほうがいい」
具体的には、分子構造がスカスカになる、と説明。
ただしかなりの長時間当てる必要があるが、とも補足する。
「じゃあ、『亜自由魔力素波』を当てたら、誤動作するの? 危険じゃない……もっとも、ジンにしかそんなことできそうもないけど」
「それも対策した」
『精神触媒』を少し多め……重量比で100万分の1加えたミスリル銀は『亜自由魔力素波』に対するシールド効果が著しいことも確認した、と説明。
「そっかー。さすがジンね……」
「で、1億分の1混ぜたミスリルは『プシ・ミスリル』だったから、こっちは『ヌラ・ミスリル』と名付けたよ」
「ヌラ? ……ああ、古いノルド語で『絶縁』ね。……語呂はともかく、適切な名付けだわ」
「うむ、よいだろう」
古ノルド語に詳しいシオンと『長老』も、ネーミングの適切さを認めてくれた。
「あと1つ、『強靱化』や『補強』で強化した効果を、キャンセルされてしまわないかという危惧を抱いたんだ」
「ありうる……かな」
「工学魔法を使う敵もいたしね」
「で、俺の『強靱化』と、つい最近簡単な工学魔法を使えるようになったリシアの『強靱化』を比較してみた」
その結果、仁の『強靱化』の効果が高いのは『亜自由魔力素波』領域まで使って強化しているからであるということがわかったわけだ。
「わざわざ『解析』という、『亜自由魔力素領域』まで調べられる工学魔法も作ったしな」
「しゅごいです、ジンしゃま」
「……で、分子状態・原子状態を亜自由魔力素的に不動にするオリジナル工学魔法『不動』も作ってしまった」
「何て言うか、ジンよねえ」
「ジンしゃまですねえ」
一同、案の定半ば呆れ、半ば感心した。
「そうすると、その『不動』はいわば『剛体』にするわけかな?」
『長老』ターレスが質問した。
「結果的にそうなります。柔軟性がなくなるので『強靱化』と使い分ける必要がありますね」
『強靱化』により張り巡らされる『網目』は伸縮性のある生地のような構造をしており、強度はアップしても柔軟性は損なわれないことがわかった、と仁は説明した。
「いろいろ調べた結果、柔軟性を保つには『強靱化』が一番だった。筋肉組織にはこれだな」
『強靱化』は柔軟性のある素材用、ということだ。
一方で『補強』は弾性を残しつつも強度を増したい時、つまり金属素材の強化に向いている。
そして『不動』は『硬化』の最上位互換である。
「……あれ? だとすると、結局、強化した効果をキャンセルされないようにする工学魔法は作れなかったのかい?」
「ああ、いやいや、それも説明するよ。……掛けた魔法の効果がなくなるのはどうしてなのか、というのが考えの始まりだったわけだ」
「うん、それはわかるな」
「だからリシアにも協力してもらって、俺の『強靱化』とリシアが掛けた『強靱化』との違いを比較してみたわけだ」
「網目、でしたね」
リシアが言った。
「うん、そうなんだ。『強靱化』や『補強』は対象の原子・分子の結合を包み込むような『網』を作って丈夫にしていることがわかった」
「ああ、その網が『強靱化』の場合は伸縮性のある生地のような構造をしている、というわけであるな」
「ターレスさんの言うとおり。差はこの網の丈夫さだった」
仁が掛けた『強靱化』の網は網目が緻密で糸も太いものだった、と説明。
「なるほど、丈夫なわけだな」
「でも、ジンしゃま、それをキャンセルされないようにしたわけでしゅよね?」
「そうだよ、マリッカ」
魔法の効果が切れる、ということはどういうことか。
「時間がなかったから検証しきれたわけではないので推測も交えているが、『空間を自由に動いている自由魔力素』の衝突により、少しずつ『網』が削り取られていく、ということらしい」
「うむ。確かにそれは納得の行く説であるな」
『長老』ターレスも仁の仮説に賛同してくれた。
「で、『自由魔力素』の衝突で削り取られないようにするにはどうするか、が課題だった」
「なるほど」
「その答えが『亜自由魔力素による強化』だ」
つまり、魔法で魔法を強化する、というわけである。
「これは『強靱化』や『補強』の『網』を『空間を自由に動いている自由魔力素の衝突』から守るものだ。名付けて『保護』だ」
これは『網』そのものを強化するというよりも劣化から守るものであり、素材の強度には影響を与えない。
「なるほど、古ノルド語で保護する、という言葉だな。さすがであるな、ジン殿」
「オリジナル魔法をポンポン作っちゃうあたり、ジンよねえ……」
「ジンしゃま、さすがです!」
ターレス、シオン、マリッカらは仁を絶賛した。
「……しかし、おそらくはジン殿……『魔法工学師』にしか扱えない魔法なのであろうな」
『長老』ターレスが残念そうに言った。
だが、仁はそれを否定する。
「いえいえ、魔導具に落とし込めましたよ」
「何?」
「今の『職人』は全員が使えます」
「いったいどうやって……もしかして『マライト』か?」
「はい、ターレスさんの言うとおりです」
正確には『ベネマライト』を使うことで、『亜自由魔力素』に影響を与えることができる、と仁は説明。
「ううむ……だが、ジン殿には劣るであろう?」
「それは仰るとおりです。ですがそれは時間を掛ければほぼ同様の効果を得られるようです。俺が0.5秒、『職人』なら50秒」
「100倍か。それでも驚くべきことだ。ジン殿は『主人たち』を超えたといってよいだろう」
「……ありがとうございます。……以上かな」
仁は説明を終えた。
「何かあるかい?」
ここでステアリーナが意見を1つ。
「さっき、『分子構造がスカスカになる』って言ってたけど、それって『魔力素タンク』に使えないかしら?」
「あ……なるほど」
マナタンクに蓄えられる魔力素は、おそらく魔結晶の結晶構造の隙間に入り込むと考えられている。
そして魔結晶は稠密構造なのである。
それがスカスカになっているとしたら……。
とステアリーナは考えたわけだ。
「ステアリーナさん、いいアイデアだよ!」
ハンナが嬉しそうな声を上げた。
新たな研究テーマが見つかったのだ。
秋を迎えた蓬莱島の空は澄み渡っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230524 修正
(誤)仁は『人為的魔術変異元素』に付いて説明を終えた。
(正)仁は『人為的魔術変異元素』について説明を終えた。
(誤)『空間を自由に動いている『自由魔力素の衝突』から守るものだ。
(正)『空間を自由に動いている自由魔力素の衝突』から守るものだ。




