92-79 山越え
蓬莱島は1つの大きな山を越えつつある。
「これで新素材の応用が捗るよ」
『新型魔力反応炉』と『人為的魔術変異元素』は、これまでの1000倍以上のパワーアップを約束してくれる。
「最後の課題は『制御核』の処理速度向上だな」
ここまででわかったことを思い返してみる仁。
まず、反応周波数が高い『マライト』を使うと『魔素変換器』の効率は70倍になる。普通のマライトだと15倍。そこに『精神触媒』を100万分の1添加すると52倍に。
ここから、『マライト』は固有の魔力周波数が高いと考えられる。
その『マライト』は、『制御核』を数百以上作れるであろう量が確保できている。タツミ湾の海底でも見つかっている。
そして、ハンナとサキが開発した『人為的魔術変異元素』。
素材の魔法による強化に著しい向上を見せるが、『魔結晶』はどうであろうか……。
* * *
「まずはやってみよう」
ハンナたちが処理しておいてくれた数々の素材。その中には『魔結晶』や『マライト』もある。
仁はまず一般的な『光属性の魔結晶』を検証してみることにした。
「『書き込み』……これで試そう」
コンピューターでいうなら『ベンチマークテスト』のようなプログラムを書き込んだのである。
「ジン、これって中味はどうなっているんだい?」
ラインハルトが興味津々で『ベンチマーク』の中身を知りたがった。
別に秘密でもなんでもないので、仁は簡単な説明を行う。
「ええとな、外部にわかるサインを表示してから、一定のルーチンを内部で繰り返し、一定回数行う。それが終了したら外部にサインを出す。この2度のサインの間隔で処理速度を比較するんだ」
「なあるほど……。理屈はわかったよ。で、今回はどんな内容なんだい?」
「1から1兆までの自然数を順に全部足すルーチンを1兆回。それを1ルーチンとして、それをさらに1兆回。その前後の時間を測定するというものだな」
「ちょっと想像がつかないな……」
「それは俺もだよ」
ちなみに、『スパコン』と言われるスーパーコンピューターは1秒間に1000兆回以上の計算ができるという。
つまり指数表記で1e15回毎秒である。
「さて、こいつは……? 礼子、間隔を測定してくれ」
「はい、お父さま」
開始時と終了時に一瞬光るようにしてあるので、その間隔を礼子に測定してもらうことにした。
「じゃあ、やるぞ。……『起動』」
「おお」
一瞬光ったあと消灯し、一呼吸置いて再び点灯した。
「お父さま、0.9982秒です」
「そうか」
約1秒として、1e36回毎秒、となる。
あまり聞き慣れないが『澗』という単位で呼ばれる。
単純比較はできないが、スパコンの10垓倍だ。(垓は京の1万倍、兆の1億倍)
「凄いのか凄くないのかわからないが、速いことだけはわかる」
「だな。……同じ内容を書き込んで比較すれば速さの比較ができるわけだ」
「よくわかった」
その後仁はいろいろな組み合わせで実験をしていった。
途中からハンナとサキ、エルザとリシアもやって来て見学している。
結果はというと……。
光属性の魔結晶(人為的魔術変異元素):1e36回毎秒
闇属性の魔結晶(人為的魔術変異元素):1.2e36回毎秒
無属性の魔結晶(人為的魔術変異元素):1.8e36回毎秒
ベネマライト(純化したマライト)(人為的魔術変異元素):7.5e36回毎秒
となった。
(無属性は全属性とは違い、仁が可能な限り不純物を除いて純粋化した魔結晶)
ちなみに現在の老君は、6.8e39回毎秒である。
「負けてるじゃないか……」
老君と比較したら1000倍近い性能差がある。
ちょっと落胆気味にラインハルトが言うが、それはすぐ仁に否定される。
「いや、それは違うよ、ラインハルト。老君は複数個の『制御核』があるし、コプロセッサだって幾つもあるんだから」
現代日本で例えれば、それこそスパコン(=老君)と単体のMPUを比較しているようなものである。
「『制御核』1個で比較したらそれこそ1000分の1くらいになってしまうと思うよ」
と言って、仁はノーマルな『光属性』の『魔結晶』で同じことをやってみせた。
結果は……。
「ほら、9.7e32回だ」
『ベネマライト』は7730倍以上の演算速度である。
「……なるほどな。よくわかったよ」
「老君は演算性能を上げるため、これでもかと手を尽くしたからな」
「ん、ジン兄はレーコちゃん同様に性能アップに熱心だから」
「と、とにかく凄いことはわかった」
「そうするとおにーちゃん、『ベネマライト』を使うの?」
「そうだな。老君にはそれがいいだろうな」
「統括部はこれまでどおり『無属性の魔結晶』にしておいて、サブを『ベネマライト』にしたほうがよくない?」
「それはありだな」
なんといっても『ベネマライト』は未知数の性能を有するし、これまで使ってきた実績も皆無。
いきなり全てを移行するのもリスクがあるだろうというわけである。
「もちろん、老君のシステム全部を入れ替えるつもりはないよ。いわば増設だな」
今現在とほぼ同じ規模のシステムを作り、並列接続を行う。
つまり老君のシステムが倍の規模になるわけだ。
「元々のシステムも残しておく。切り替えは老君自身が行ってくれる」
「なるほど」
「老君のメインとなる『制御核』は同じものが4つ。まずはその1つをハンナが言うように『無属性の魔結晶』にする。そして順次置き換えていく」
リスクを最小限にしつつ、大きな効果を上げられるよう、流れを作っていく仁。
「もちろん主要部のシールドは『精神触媒』を少し多めに添加したミスリル銀だ」
「あれ、ジン、まだ名前をつけていなかったのかい?」
「あ、そうだった」
サキに言われて思い出す仁。
「今付けてしまおう。……1億分の1添加で『プシ・ミスリル』だったな……それじゃあ『ヌラ・ミスリル』で」
『ヌラ』は『絶縁』という意味の古ノルド語である。
「あんまり語呂はよくないけど……まあ意味は通るね」
「ん、ジン兄らしいから、いい」
そういうわけでこの『亜自由魔力素波』にもシールド効果を持つ金属は『ヌラ・ミスリル』と名付けられたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230522 修正
(誤)開始時と終了時に一瞬光るようにしてあるので、その感覚を礼子に測定してもらうことにした。
(正)開始時と終了時に一瞬光るようにしてあるので、その間隔を礼子に測定してもらうことにした。
(誤)「もちろん主要部のシールドは『精神触媒』を少し多めに添加した軽銀だ」
(正)「もちろん主要部のシールドは『精神触媒』を少し多めに添加したミスリル銀だ」
20230523 修正
(旧)仁はまず『光属性の魔結晶』を検証してみることにした。
(新)仁はまず一般的な『光属性の魔結晶』を検証してみることにした。
(旧
闇属性の魔結晶(人為的魔術変異元素):1.2e36回毎秒
(新)
闇属性の魔結晶(人為的魔術変異元素):1.2e36回毎秒
無属性の魔結晶(人為的魔術変異元素):1.8e36回毎秒
(旧)
となった。
(新)
となった。
(無属性は全属性とは違い、仁が可能な限り不純物を除いて純粋化した魔結晶)
(旧)
「統括部は『光属性の魔結晶』にしておいて、サブを『ベネマライト』にしたほうがよくない?」
(新)
「統括部はこれまでどおり『無属性の魔結晶』にしておいて、サブを『ベネマライト』にしたほうがよくない?」
(旧)まずはその1つをハンナが言うように『光属性の魔結晶』にする。そして順次置き換えていく」
(新)まずはその1つをハンナが言うように『無属性の魔結晶』にする。そして順次置き換えていく」




