92-78 オリジナル工学魔法
仁が掛けた『強靱化』とリシアが掛けた『強靱化』の違い。
それを解明することで、より効果的な『強靱化』の掛け方がわかる……かもしれない。
「『分析』……ふんふん」
「ジン、何かわかったかい?」
「まあちょっと待ってくれ、ラインハルト。……『分析』『精査』……これかな……」
「わかったのかい、ジン!?」
仁はサンプルに対し解析を繰り返した後、ラインハルトを振り向き、大きく頷いた。
「少なくとも2つわかったことがある」
「それは?」
「1つ目は『自由魔力素』のネットワーク……網の『太さ』が違う」
この『網』が分子同士の繋がりを強化していると考えられている。
「それって、『強靱化』の効果の違いじゃないかな?」
「多分そうだと思う」
仁の方が太く、従って『強靱化』の効果も高いのだと推測できる。
「もう1つは網の目の細かさだな」
「うーん、細かい方がより強固に組み合わさるから、効果期間が長い……のかな?」
「その可能性はあるな」
何かもう1つ、検証実験を行いたいと、仁とラインハルトは考える。
「ジン、『強靱化』の重ね掛けがその網にどう影響を与えるかをみてみたらどうだい?」
「網の目が細かくなるのか、それとも網を構成する『糸』が太くなるのか、ということだな?」
「そうさ」
「やってみよう」
仁は別の素材……軽銀の小さな塊を出して工学魔法を掛ける。
「『強靱化』『強靱化』……どうだ? 『分析』『精査』……お、そうなのか」
「ジン、どうだった?」
「うん、『太さ』が増したな」
「なるほど。ということは、『強靱化』の効果は網を構成する糸の太さ、効果期間は網の目の細かさ、と考えていいのかな?」
「いや、なんとなくだがもう1つ、何か理由があると思う」
「ふむ、こういう時のジンの勘は当たるからな」
「いやあ、その『もう1つ』が何かわからなきゃ意味がないよ」
「うーん……」
仁とラインハルトは考え込んだ。
「類推で考えてみようじゃないか」
ラインハルトが提案する。
「そうだな。丈夫な『網』とは……?」
「まず、網を構成する糸が太い。これだな」
「そうだな。網の目は強度に直接は関係しないか」
「いや、目が細かいということは、単位面積当たりに通っている糸が多いということだ」
「つまり丈夫ということだな」
「もう1つ。強度というなら、網を構成する糸の強度だな!」
「それがあったか」
同じ材質なら太い方が丈夫。
同じ太さなら強い材質の方が丈夫。
こういうことである。
「あと……ジン1ついいかい?」
「何だ?」
「『補強』ではなく『強靱化』を使ったのは何か理由が?」
『補強』は仁オリジナルの工学魔法で、物質に含まれる自由魔力素の結合力を強化してその物質を強靱化する。
強靱化の上位互換で、魔導系素材に特に有効だ。
「ああ。『補強』は今のところ俺や『職人』たちくらいしか使えないから、実験の時はもう少し一般的な『強靱化』を使ったんだ」
「なるほど。おかげでリシアの『強靱化』とジンの『強靱化』を比較できたものな」
「そういうことさ。……待てよ?」
「何か思いついたのかい?」
「ああ。ラインハルトが『補強』のことを指摘してくれたから、思いついたことがある」
「それは?」
「もしかしたら『自由魔力素』だけじゃなく『亜自由魔力素』の『網』も構築されているんじゃないかと思ったんだ」
「ああ、ありそうな話だな」
「だとすると……駄目だ、今の工学魔法に『亜自由魔力素』を感知して分析するような魔法はない」
となるとオリジナル魔法を作る必要があった。
「作らなければ話にならないしな……」
「要するに『分析』や『精査』の魔力周波数を上げればいいんだろう?」
「そうかもしれないが、それが簡単にできれば苦労しないよ」
「そりゃそうだな」
「まずは……」
とかなんとか言いつつも、仁はラインハルトに相談しながらオリジナルの検査用工学魔法を作っていく。
「これでどうだ? ……まだ駄目か。じゃあこれは? ……」
何度も失敗し、そのたびに細部を修正していく。
「これでどうだ『解析』……おっ?」
十数度目かの試行で、ついに仁は手応えを感じた。
「どうやらできたみたいだ」
「やったな、ジン!」
「とはいえ、これは『魔法工学師』にしか使えないかもしれない」
「……そうか……残念だがしょうがないな」
『亜自由魔力素波』の領域まで魔力波を制御できる『魔法工学師』ならではの魔法である。
「で、結果は?」
「うん、『強靱化』にも『補強』にも『亜自由魔力素』の網が構成されていた」
つまり仁の『強靱化』の効果が高いのは『亜自由魔力素波』領域まで使って強化しているからということが判明したのである。
「この『亜自由魔力素』領域でのロックができれば、そう簡単に強化を解除されないだろう」
「いやジン、『強靱化』じゃなく『補強』を使えばいいんじゃないのか?」
「ああ、そっか」
『補強』は仁オリジナルである。
一般的ではない分、解除もしづらいのではないかということだ。
『掛けた工学魔法を安定化する工学魔法』。
それを作り出すため、仁は知恵を絞った。
もちろんラインハルトも協力する。
* * *
そして、ついに仁はオリジナル工学魔法『不動』を開発したのである。
これは、分子状態・原子状態を固定し、変化しづらく(不動に)するもの。
亜自由魔力素的に固定されるので自由魔力素系魔法では解除できない。
「やったな、ジン!」
「ラインハルトが手伝ってくれたおかげだ。これで新素材の応用が捗るよ」
蓬莱島は1つの大きな山を越えようとしていた……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230521 修正
(誤)「なるほど。おかげでリシアの『強靱化と』ジンの『強靱化』を比較できたものな」
(正)「なるほど。おかげでリシアの『強靱化』とジンの『強靱化』を比較できたものな」
(旧)固定
(新)不動
(旧)これは、分子状態・原子状態を固定し、変化しづらくするもの。
(新)これは、分子状態・原子状態を固定し、変化しづらく(不動に)するもの。




