91-32 心機一転、その成果
さて、『アヴァロン』の様子はどうであろうか。
『オノゴロ島』で第5回飛行機競技会が行われていたその日、『アヴァロン』では『推進機』としての『重力魔法機関』が完成。
翌2日には実機に搭載してのテストが行われようとしていた。
「ゴウとルビーナがいなかったら、もっと時間が掛かっていただろうな」
「いえ、僕らは既にできあがっていた『機能試作2』を元に、推進機用の形状にしただけですから」
「いや、それが大変なんだよ」
「それに、この短期間で『フリューゲル1』に『重力魔法機関』を搭載することができたのも2人のおかげだ」
「ううん、だって『フリューゲル1』はあたしたちがカスタマイズした機体ですもん」
褒詞に対し、ゴウもルビーナも謙遜しているあたり、成長……特にルビーナの……が目覚ましい。
「それではテスト飛行をさせよう」
プロジェクトリーダーのアーノルトが言った。
テストパイロットは今回も『エアリア01』。
『では、行きます』
『よし、行け!』
短いやり取りの後、『エアリア01』は『重力魔法機関』を起動した。
そしてゆっくりと出力を上げていく。
おおよそ0.5Gで滑走開始。さらに出力を上げ、0.8Gで離陸。
45度の角度でぐんぐん上昇していく。
『出力は1G。好調です』
『よし。そのまま高度3000メートルまで上昇だ』
『了解』
あっという間に機影は見えなくなってしまった。
が、一応、観察用の飛行船が2機、上空に飛んでおり、そこからの映像と報告が入ってくる。
今のところ順調そのものだ。
『魔力素の消費量はどうだ?』
『思ったより少ないです。『密閉型推進機関』とほぼ同等』
『わかった』
『エアリア01』と短い通信を行ったアーノルトは、満足げに頷き、ゴウに向き直った。
「ゴウの言うとおり、『重力』の効果範囲をほぼ『重力魔法機関』に限定したからだな」
これにより、『密閉型推進機関』を『重力魔法機関』に置き換えることが簡単になったのだ。
機体や操縦者に重力の影響を及ぼすことなく、『置き換え』ができる。
問題点は入力ー出力特性や、応答性の変化である。
その確認のため、『エアリア01』がテスト飛行を行っているのだ。
「それに、この運用法なら墜落事故防止用の『重力魔法の魔法陣』と干渉はしないわよね」
ルビーナが言った。
「そのとおりだ。重力魔法の影響範囲を機体全体としてしまうと、『重力魔法の魔法陣』が発生した重力と干渉し合うこともわかったからね」
「あとは、機体がどんな姿勢になっても、常に『反重力』を発生してくれるような『重力魔法の魔法陣』を開発してほしいわ」
「同感だ」
今現在の『重力魔法の魔法陣』は発生する重力の方向が、『魔法陣と垂直方向のみ』なのである。
これでは、例えば機体が真っ逆さまに墜落した場合と、背面状態で落下した場合と、双方に対処するには2種類の『重力魔法の魔法陣』が必要になってしまう。
さらに機首から墜落した場合……と、さまざまな状況を考慮しなければならない。
それに気付いたルビーナは、『重力魔法の魔法陣』の改良版が必要だと主張しているというわけである。
「新たな時代は始まったばかりだな……」
アーノルトはひとりごちたのである。
* * *
『フリューゲル1』のテスト飛行は大成功であった。
プロジェクトメンバーは『エアリア01』が記録したデータの分析に取り掛かっている。
「ふむ、消費魔力は問題なし。推力重量比は1.5、優秀だな」
推力重量比とは、推力と重量(=重力)との比率である。
『密閉型推進機関』の場合は、文字どおり機体重量と推進力の比であった。
『重力魔法機関』の場合も同様。ただ、算出がやや面倒である。
というのも、機体全体が効果範囲にあるなら、推力重量比は『重力魔法機関』が発生できる重力加速度に等しい。
が、今回のようにエンジン筐体が効果範囲の場合は、実測するのが早い。
すなわち、『垂直にどのくらいの加速度で上昇できたか』である。
この場合、主翼が発生する揚力は完全に意味をなさない。
推力重量比は主翼がなくても上昇できるなら1以上。
今回はおよそ0.5Gの加速度で上昇できたということになる。
ちなみに、現代地球の超音速ジェット戦闘機の推力重量比は1を少し上回る程度である(VTOLが1.1から1.4くらい)、スペースシャトルが1.5から3くらいである。
これは有人機の場合で、ロケットエンジンはもっと大きい。
蛇足ながら、仁の作った宇宙船である『アドリアナ』は20G以上である。
それはさておき、『重力魔法機関』は、有人飛行機に搭載するには十分な性能を持っていることがわかった。
「出力特性もリニアなんだな」
例えばレバーを10度動かすと出力は1で20度動かすと出力が2になる、というような特性のことで、横軸に入力、縦軸に出力というグラフを描いた場合、直線で表される、それが『リニア』の意味である。
「制御しやすいですね」
人間が操縦した場合に直感的に操作できるというのは大事である。
「消費魔力も『密閉型推進機関』と遜色ないということだし、置き換えるのも楽だな」
ここでメンバーの1人であるカチェアが挙手し、質問を行った。
「ええと、『密閉型推進機関』と『重力魔法機関』が置き換え可能だということはわかりました。ですが、どのようなメリットがあるのか、ご説明くださいますか?」
これに答えたのはグローマ・トレーだった。
「そうだな、まず『密閉型推進機関』よりも軽量にできる。つまり材料費が少なくて済む」
「ああ、それは確かに意味がありますね」
「それから、破損した場合の安全性が高いかな」
『密閉型推進機関』はつまりは圧力容器である。
事故が起きて筐体が破損し、なおかつまだ機関が動いていた場合、高圧の気体もしくは液体が噴き出すことになる。
一方、構造と原理が違うため、『重力魔法機関』の場合は噴き出すものはないわけだ。
「安全性は大事ですものね」
「そういうことだな。あとは振動がない。……わかりやすく言うと『密閉型推進機関』の内部では一定周期で爆発をしているようなものだが、『重力魔法機関』はそんなことはない」
「よくわかりました。そういうことでしたら置き換える意味は大きいですね」
『重力魔法機関』の有効性が明らかにされ、カチェアも納得したのであった。
「では、改善点の検討に入る」
会議はまだまだ続く……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230219 修正
(誤)おおよそお0.5Gで滑走開始。さらに出力を上げ、0.8Gで離陸。
(正)おおよそ0.5Gで滑走開始。さらに出力を上げ、0.8Gで離陸。
(誤)……わかりやすく言うと『密閉型推進機関』に内部では一定周期で爆発をしているようなものだが
(正)……わかりやすく言うと『密閉型推進機関』の内部では一定周期で爆発をしているようなものだが




