91-15 趣味に興じる仁
さて、夕食である。
エルザが腕をふるった献立はというと、白いご飯、クルム(アサリ)の味噌汁、野菜の天ぷら、焼きメジカ(鮭)、甘い玉子焼き、そしてお新香。
味噌汁はクルム(アサリ)から出た出汁と味噌がとてもいい味を醸し出していた。
天ぷらの衣はサクサクで、天つゆでも塩でも美味。
焼きメジカ(鮭)はうまく骨を抜いてあり、皮もパリパリで残さず食べられる。
玉子焼きはうんと甘くしてあるのに焦げていないという絶妙の焼き加減。
お新香は浅漬かりでポリポリという歯ごたえも楽しめる。ちなみにキュウリである。
「うん、美味い」
蓬莱島にいた『仁ファミリー』たちは気を利かせてヘールに戻ったので、夫婦水入らずでのんびりと夕食を楽しんだ仁とエルザであった。
* * *
そして食後は家の縁側に並んで座り、東の空から昇ってくる月を眺める。
「『アヴァロン2』は見えない?」
「そのはずさ。アルスの影を通ってくるから」
加えて、可視光線を反射させずに吸収する結界を前面に展開しているので、『アヴァロン2』は皆既月食のような色にもならないはずである。
「アルスに近づいたら『不可視化』の結界も張るし」
「ん、なら安心」
それからは夫婦仲よく夜空を眺めたのである。
* * *
明けて8月25日。
仁は『ジーク1』を自分で操縦することにした。
とはいえ、いきなり高度な操縦はできないので、練習用の操縦席を用意する。
いざという時、礼子が使うノーマル操縦席からいつでも介入できるようになっている。
その方法としては、操縦に使う魔力波に優先順位を付けたことによる。
要は、ノーマル操縦席からの命令を優先する、ということだ。
仁が操縦ミスをしても、礼子がリカバリーしてくれる。
15分で仁は練習用操縦席を用意。
「礼子、頼むぞ」
「はい、お父さま。お任せ下さい」
そうして仁は『ジーク1』をスタートさせた。
「おお、軽い感じがする」
ジェット推進の模型飛行機に比べ、さらに翼面荷重が軽くなっているからか、操縦の感じが『軽い』と仁は感じていた。
とりあえず、半分くらいのパワーで上昇させる。角度は45度くらい。
「安定してるな」
「今日は風が弱いですから」
「あ、そうだな。翼面荷重が小さいということは風に弱くなるよな」
呟きながらも仁は『ジーク1』を上昇させていく。
「よし、この辺で曲技飛行をさせてみるか」
ということでまずは定番のループ。
「うーん、やっぱり『軽い』な」
低翼面荷重の効果であろう。
その後もエルロンロール、インメルマンターン、スプリット・Sなど、数々の機動を試してみたところ、ピッチ方向とヨー方向の運動性はよく、ロール方向の運動性は若干悪いことがわかった。
一番それを感じたのはエルロンロールの回転速度が遅かったからである。
「主翼面積が大きいからな……」
運動性と安定性はトレードオフ(両立できない関係)である。
とはいえ、
「あとで、エルロン面積を増やしてみるか……」
など、多少の対策方法はあるのだが。
* * *
30分ほど飛行を楽しんだ仁は『ジーク1』を着陸させた。
特に礼子が手助けすることなく、飛行を終えることができた仁である。
「70点といったところかな」
まだまだ不満点があるなあ、と仁は呟いた。
そして工房へ『ジーク1』を運んでいく。
もちろん改良するためである。
「エルロン面積を増やして……もう少しこの部分の強度を上げて……ああ礼子、何か気が付いたことはあるか?」
礼子にも意見を求める仁。
「そうですね……余裕があるのでしたら滑走用の車輪を少し大きくし、懸架装置の性能をアップしたらどうでしょう?」
「うん? どうしてだ?」
「滑走路は実機用です。実機のサイズならまったく問題ない凹凸でも、10分の1くらいの模型では……」
「ああわかった、そういうことか」
悪路の走破性でいえば、車輪の直径は大きいほど有利になる。
オフロード系の自動車やオートバイのタイヤ(特に前輪)が大きいのはそのためだ。
「じゃあ……直径を1.5倍にして、サスペンションのストロークも1.5倍。ダンパーの性能アップ。これでいいかな」
「はい、かなり改善されると思います。滑走距離も短くなるでしょう」
「よし。あとはプロペラのピッチを調整して……こんなものかな」
お昼にはまだ間があるので、比較のため礼子に試験飛行をさせてもらうことにした仁であった。
* * *
「で、どうだ、礼子?」
「はい、お父さま。申し上げた欠点はほぼなくなりました」
「そうか」
この手の問題点は完全になくすことは難しい。
逆に言うと、完全になくすと、今度は別の問題点が顔を出すことになりかねないのだ。
ゆえにほどほどで止めておくのが吉である。
……通常は。
それを許容しないのが『魔法工学師』である。
模型であろうと全力投球だ。
昼食時間まで、調整しては飛ばし、飛ばしては調整を繰り返す仁であった。
* * *
昼食はざるそば。
エルザの手打ちである。
「頑張った」
「こりゃ美味そうだ」
せいろに大盛りになっているのは蓬莱島産のそば粉10割のそば。
そこに刻んだ海苔が掛かっている。
カツオと昆布もどきの出汁に蓬莱島特製の醤油で作った汁は絶品である。
「うん、これは美味い」
「美味しく、できた」
薬味としてはワサビと辛味大根があって、両方楽しんだ仁とエルザであった。
最後は蕎麦湯で締め。
「美味しかった。ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
昼食後は少し食休みということで、『家』の畳の上にごろりと横になった仁である。
そんな仁に、同じ様に横たわったエルザが質問する。
「ところで、オノゴロ島の模型飛行機競技、行くの?」
「そう思ってる」
「ゴウとルビーナが『ずるい』って言いそう」
「……まあなあ。でももう2人は『アヴァロン』の住民だし」
「なら、もう少し規模を抑えて、『アヴァロン』でも模型大会みたいなものを開催したら?」
「あ、それも面白そうだよな」
どんな競技がいいだろうか、と仁は考えてみる。
「全員が模型を作れるわけじゃないからな……」
「操縦技術を競う系の競技もいいかも」
「なるほど。機体は貸し出すとかな。だとしたら飛行機じゃなく自動車とか船でもいいな。『アヴァロン』だからボートレースか?」
そんなことまで考え始める仁であった。
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本日2月2日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
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20230202 修正
(誤)特に礼子が手助けすることなく、飛行を追えることができた仁である。
(正)特に礼子が手助けすることなく、飛行を終えることができた仁である。




