91-16 技術立国への遠い道のり
昼食後の食休みを終えて。
「さて、あとちょっとだな」
「見に行っていい?」
「もちろんさ」
午後はエルザも研究所裏の滑走路にやって来た。
『アヴァロン』での模型競技大会。
それについての検討はまた別の機会に、ということで、仁は自作飛行機『ジーク1』の調整を再開した。
「どんな感じかな?」
何度目かの調整後、仁は礼子に尋ねた。
「はいお父さま、これまでで一番いい感じです」
「やっぱりそうか。……よし、これで完成としよう」
「ジン兄、満足度は、何点?」
「95点といったところだなあ」
「それはすごい」
『魔法工学師』の評価が95点。自作物とはいえ、それは高評価である。
「飛ばしてみるか?」
「いいの?」
「ああ。いざとなったら礼子がリカバリーしてくれるから」
「ん、やる」
「よし」
ということで仁はエルザに操縦席を譲った。
「……発進」
滑走路からの発進。
足回りを手直ししたので、滑らかに加速していく。
そして最初に比べ、3分の2の滑走距離で『ジーク1』は離陸した。
「うまいぞ」
「ん」
時々はエルザも模型飛行機を操縦しているので複雑な機動でなければ十分にこなせる。
「これ、なんというか、軽い。操縦、しやすい」
「だろう?」
「うん」
エルザは初級レベルの機動をいくつかこなす。
ループ、エルロンロール、水平旋回。
「すごい、ただ操縦桿を倒すだけで水平旋回ができる」
「補助制御装置があるからな」
イメージ的には『ジャイロセンサー』と『気圧センサー』をマイコンが制御しているといったもの。
これにより、細かな姿勢制御を気にすることなく飛行を楽しめるのだ。
「競技規定には使ってはいけないとは書かれてないようだしな」
「……それって、そういう補助装置を作れる人がいないからじゃ?」
「…………そうかもしれないが違反じゃないからさ」
「それは、そうだけど」
操縦しやすくなっているだけで、性能向上にはあまり寄与してはないので、気にしないようにする仁である。
「でも、この操縦しやすさは、気持ちいい」
初心者でもこれなら落とさずに飛ばせるかも、とエルザは言った。
「レンタルすれば利用する人、けっこういそう」
「ああ、そういう普及もありか」
今のところ『模型製作』という趣味は、まだまだアルスに根付いてはいない。
こうしたアプローチで模型の楽しさに目覚めてくれれば、技術者の卵が目覚める……かもしれないなと仁は思ったのだった。
そしてそれは、技術立国への第一歩になる……はずである。
「なかなか難しそうだけどな」
「ん、一気に……は無理だと思う」
よくも悪くも、今の世の中は安定しており、変化を嫌う者は多い。
逆に言うと、今の生活に満足しているともいえる。
(……そのあたりが……俺の知っている……日本の人たちとは少し違うのかもなあ……)
などと仁は思ったが口には出さず、
「じゃあ、折を見て発表するか」
「ん、それでいいと、思う」
それからも仁とエルザは交代で『ジーク1』を飛ばして遊んだのである。
* * *
気が付けば薄暗くなっていた。
「ああ、もうこんな時間だ」
「夕食の支度を、しないと。……ジン兄は、先にお風呂入って」
「わかった」
その日のお遊びは終了、風呂に入りに行く仁であった。
* * *
夕食はエルザ特製のカツ丼だった。
「うん、うまい。カツも衣もご飯もつゆも」
「ん、ありがとう」
仁は、丼ものだと少し甘めのつゆが好きである。
エルザもその辺は心得ていて、好みに合わせてくれる。
というよりもエルザの好みも同じようなものなので味付けには苦労していない。
まさに似た者夫婦であった。
そして食後のお茶を飲みながら。
「さっき話をした模型の件だけど」
「うん」
「まずは『アヴァロン』で様子を見るのがいいと、思う」
「やっぱりそうかな」
「ん、受け入れられるかどうかわからないものをいきなり一般向けに、というのはリスクが大きい、と思い直した」
「そっか……」
さっきは操縦が楽しくて、客観的な判断ができなかった、とエルザ.
「その点、『アヴァロン』なら、規模も小さいし、住人は技術に対して忌避感はないし、革新的でもある」
「それはいえるな」
「だからまずは『アヴァロン』ではやらせて、それから考えるのがいい、と思う」
「そうだな……。『アヴァロン』ではやらなかったら、他の国でも無理だろうな」
「うん」
エルザとの話し合いで、道が少し見えてきた、と仁は感じた。
ゴーレム自動車レースや飛行機レースも、一時的なブームで終わり、継続的な開催は今のところ行われてはいない。
要するに、物珍しさで一時的なファンは付いても、まだまだ世の中は受け入れてくれないということ。
「焦っても、しょうがない」
「そういうことか。……それはゴウたちの世代に託すことになるのかな」
「そう、かもしれない」
「それならそれでいいけどな」
1人で焦っても仕方ないか、と仁は肩の力を抜くことにしたのであった。
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