91-13 趣味の工作
仁が趣味で作ろうとしているもの。
それは遠隔操縦の飛行機模型、いや模型飛行機だった。
まずは構想をまとめるところから。
エルザも横でそれを見ている。
「それ、オノゴロ島の?」
「ああ。飛行機競技会が9月1日に行われるそうだからな」
「参加するの?」
「いや、デモンストレーションでいいと思ってる」
細かなレギュレーションは聞いていないからだ。
「でも……プロペラ機?」
そう、今回の競技は、なんといっても『プロペラ推進』という縛りがあったのだ。
使用するのは『魔導モーター』。
* * *
『モーター』とは元々『発動機』の意味であり、ラテン語の『moto』=『動きをあたえる』から来ており、末尾に『r』を加えることで『motor』となり、『動きをあたえるもの』という意味になる。
日本では主に『電動機』つまり電気で回る発動機の意味で使われることが多い。
が、本来の意味では『エンジン』とほぼイコールである(ロケットエンジンのことを『ロケットモーター』とも呼ぶ)。
ちなみに日本では『エンジン』は主に『内燃機関』系の発動機を指すことが多い。
仁としては、ゴーレムアームでクランクシャフトを回すのが『(ゴーレム)エンジン』、魔法の応用で直接ローターを回すのが『(魔導)モーター』となんとなく呼んでいる。
なんとなくなので、仁も混乱して時々『魔導ロータリーエンジン』などと呼んだりもしているが……。
* * *
話を戻す。
今回はレギュレーションで規定された『魔導モーター』を使ったプロペラ推進式の飛行機で行われる競技、ということになる。
「老君、詳しいレギュレーションってわかるか?」
『はい、御主人様。『直径1メートルの球体に収まる大きさの機体』『支給される魔導モーターを1つ使う』この2つが主な縛りです』
「なるほど。立方体だった前回と違って球体にしたわけだな」
『そうだと思います』
「で、そのモーターというのは手に入るか?」
『はい、御主人様。3つほど手に入れています』
「おお。よくやってくれた」
『光栄です』
おそらく自分、ゴウ、ルビーナの参加の可能性を考慮してのことだろうなと、仁は老君に感謝した。
「全部同じ仕様か?」
『はい。おそらく『テスタ』が作り上げたものです』
「なるほど」
『テスタ』はマリッカの配下で『オノゴロ島』の管理統括魔導頭脳である。
その『テスタ』が用意したものであれば、性能差はほぼ0であろう。
個体差、いわゆる『当たり外れ』は考えなくていいわけだ。
「『魔導モーター』の改造は認められているのか?」
『はい。ただし『加えること』は反則です』
「つまり、軽量化のような『引く』改造のみか」
『そうなります』
「これも面白そうだな。で、競技内容は?」
『未発表です』
「つまり、なにかに特化した設計はしないほうがいいわけか」
『はい、御主人様』
「面白そうだな……」
直接の参加はせずとも、『自分なら』という機体を仕上げて、デモ飛行、あるいはエキシビション的な参加ができたらいいかな、と考える仁であった。
* * *
「ということで日数がないから、俺としては実在した飛行機を参考に模型を作ろうと思う」
「ん、それはわかる、けど、具体的には?」
「俺の世界でかつて作られたプロペラ機だ」
「……どんな?」
「ミーハーと言われても、ここはやっぱりゼロだな」
「ゼロ?」
「うん。通称を『ゼロ戦』と呼ばれた戦闘機があって、男の子の多くは、1度は憧れた、と言ってもいいんじゃないかな?」
もちろん、興味を持たない子や、別の戦闘機が好きな子もいるだろうけど、と仁は補足した。
「で、『ゼロ』は今回の競技に向いているんじゃないかと思ってな」
「どんな?」
「機体設計が低速から高速まで対応している……らしいからさ」
ゼロ戦は、低速域での運動性能がよかった、という報告がある。
が、高速時は補助翼の効きが悪かった、という報告もある。
そのあたりは翼面荷重にもよるので、模型飛行機サイズで意味があるのかは未知数。
「でも、空気力学的にはかなり完成形に近いだろうと思ってるし」
好むと好まざるとにかかわらず、戦争初期から末期まで使われ続けた(型式はバージョンアップしているが)機種である。
「もっとも、内燃機関を積んでいるから、機首部分がごついんだ。そこは滑らかにデザイン変更しようと思う」
空冷式のエンジンなので、空気取り入れ口が広く取られているのは仕方がない。
仁としてはそこは形状を変えるつもりであった。
「軽量化しすぎて強度不足になった、という話もあるけど、模型の場合は関係ないし」
熱心に語る仁を見て、エルザは微笑んだ。
「ん、ジン兄がどれだけ作りたがっているか、よくわかった」
聞きたいことは聞いたから、後はお好きにどうぞ、とエルザは言い、見学に回ったのである。
というわけで仁は、『ゼロ戦』を参考に、独自の模型飛行機を作ることになる。
「まずはモーターのチューンアップからだな」
重量が増えてはいけない、ということなので、大々的な改造はできない。
「まずはバランス取りかな」
高速回転体は、僅かな重量の偏りが振動の原因となり、効率を落とすことにつながる。
モーターの場合は『ローター』のバランス取りが重要になってくる。
『魔導モーター』を一旦分解する仁。
ローター(回転子)を取り出すためだ。
取り出したローターは直径10センチ。120度ずつに『極』があって、正面からだとYの字にも見える。
「3極か」
魔導モーターで使用される魔法は土属性魔法初級の上『石つぶて』。小石を飛ばして相手にぶつける魔法である。
小石の代わりにモーターの『極』を押すように力を加えるわけだ。
「軽くするのはいいわけだから、極の根本は少し削ろうかな」
模型飛行機用のモーターの場合、トルクよりもパワー重視、と仁は考えた。
トルクは回す力、パワーは馬力=仕事率である。
回転数を少しでも増やしたいと仁は考えたのである。
実機の場合は、あまり回転数を上げるとプロペラの速度が音速に近付いてしまい、効率を落としてしまうが、およそ10分の1の模型ならその心配は少ないというわけである。
その日の午後一杯、仁は喜々として製作を行ったのであった。
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本日1月31日は14:00に
『蓬莱島の工作箱』を更新します。
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