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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
91 新たな技術篇
3563/4413

91-11 ようやく一段落

 8月23日、蓬莱島時間午後9時、『アヴァロン2』は月面の工場から離陸した。

 加速度は1G。宇宙船としての使用は今回限りの予定なので、大出力のエンジンは搭載しなかったのだ。

 期日を決めてあるわけではないので、無理のない、ゆっくりとした飛行でアルスを目指す。


「でかい力場発生器フォースジェネレーターを付ければもっと速いんだけどな」


 蓬莱島でモニタ画面を眺めている仁が呟く。


「ジン、それはよそうと言ったのは君だぞ」


 ラインハルトが苦笑しながら仁に言った。


「まあなあ……この機会に、巨大構造物を崩壊させずに飛ばすノウハウを蓄えようとは言ったけどさ」


 いつもなら力場発生器フォースジェネレーターの効果範囲に対象全体を包んで推進している。

 物体の分子レベルで力を加えているため、加速度で潰れるようなことはない。

 が、今回は『アヴァロン2』を包み込むようなフィールドを展開することなく、宇宙へと発進させたのだ。


 ユニーの重力は、地球のルナと同じ6分の1G。

 1Gの重力加速度(反重力)があれば、差し引き6分の5Gで上昇していくわけだ。


 最初はゆっくり、しかし次第に速く。

 『アヴァロン2』は宇宙空間を航行していく……。


*   *   *


「これでよし。あとはアルス近傍に到達するまでは『ジャック』にまかせていいな」

『はい、御主人様(マイロード)。私も監視しております』

「うん、頼んだぞ」


 老君なら、何かあったらすぐに対処できる。仁は安心して任せることができた。


「少しのんびりしたいなあ」

「ジンもいろいろ忙しかったみたいだものな。風呂にでも入ったらどうだい?」

「うん……そうしようかな」


 ここのところ日程が詰まっていたので、蓬莱島でのんびりしようと仁は思った。

 ラインハルトにも勧められ、今日はもう風呂に入って寝ることにする。


「ああ、やっとのんびりしたな……」


 1人温泉でくつろぐ仁。


「お父さま、お背中を流しましょうか?」

「そうだな、頼もうか」


 いつものように礼子に背中を流してもらい、またお湯に浸かる。

 そこへ、エルザがやって来た。


「私も、いい?」

「ああ。いい湯だぞ」


 その昔なら、照れて大慌てだったろうが、今は外見はともかく中身は熟年夫婦である。

 仁とエルザは仲よく浴槽に身を沈めた。


 今使っている浴場は露天ではないが、窓が大きく作られていて、入浴しながらユニーを見ることができた。


「あそこから今、『アヴァロン2』が飛んできているんだなあ」


 38万キロメートルという長距離を、30日ほど掛けて翔破することになる。

 宇宙船ではないので無理な加減速をせず、速度もほどほどに抑えるのだ。

 それでも、隕石との衝突のような不慮の事故に備え、ユニーのジャックが建造した護衛艦『ベテルギウス』が随伴している。


一月(ひとつき)後が楽しみだ」

「ん……あ」

「どうした?」

「およそ1ヵ月後の、9月21日はヴィヴィアンの誕生日」

「ああ、そうだったな。ダブルブッキングしないように気を付けないと」

「ん、それがいい」


 ということで、全体のスケジュール管理をしている老君が、少しだけ速度を上げ、ヴィヴィアンの誕生日と重ならないよう調整するのであった。


*   *   *


 明けて24日。

 のんびりと休息をした仁が目覚めたのは午前7時。

 仁にしては珍しく、遅い目覚めである。


「ああ、よく寝た。遅く起きるのも久しぶりだなあ」

「お父さま、おはようございます」

「ああ、礼子、おはよう」

「今日もいいお天気ですよ」

「そっか」


 隣の布団は空。どうやらエルザは既に起きているようだ。

 家の台所からコトコト音がする。


「この匂いは……味噌汁だな」

「はい。油揚げとおからのお味噌汁を作ってらっしゃいます」

「お、そりゃいい。……顔を洗ってくるとしよう」


 油揚げとおからの味噌汁は仁の大好物である。

 口を濯ぎ、顔を洗って食堂へ行くと、ちょうど仕度ができたところであった。

 ホカホカと湯気を上げる白いご飯と、大好物の味噌汁。


「ああ、ありがとうな、エルザ」

「ん」

「いただきまーす」

「いただきます」


 仁夫妻の、平和な朝のひとときであった。


*   *   *


 食後、のんびりしていると、やや唐突にエルザが意見を口にした。


「ジン兄、『アヴァロン2』に、書庫も設けたら?」

「書庫か……いいかもな」


 データベース基地とするなら、図書館があってもいい、というわけだ。


「これは俺も動くけど、『世界会議』で各国に協力を仰ぐのもよさそうだ」

「ん、確かに」

「なら、『アヴァロン2』の内部に書庫……書架か……を、作らないとな」


 アルスに到着するまで十分な時間があるので、空いた倉庫に書架を作って書庫にできるよう、仁は指示を出した。


『承りました、御主人様(マイロード)。飛行中に改装してしまいましょう』

「頼むぞ」


 老君に任せておけば安心だ、と、仁は再びのんびりとお茶を飲み始めたのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20230129 修正

(旧)「なら、『アヴァロン2』の内部に書庫を作らないとな」

(新)「なら、『アヴァロン2』の内部に書庫……書架か……を、作らないとな」

(旧)アルスに到着するまで十分な時間があるので、空いた倉庫を書庫にするよう、仁は指示を出した。

(新)アルスに到着するまで十分な時間があるので、空いた倉庫に書架を作って書庫にできるよう、仁は指示を出した。


(誤)「ジンもいろいろ忙しかったみたいものな。

(正)「ジンもいろいろ忙しかったみたいだものな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >『承りました、御主人様。飛行中に改装してしまいましょう』 30日もあれば、米議会図書館以上の大図書館くらいは。 仁「……となると、あとは司書自動人形、か……」 エ「それ以前に、そもそもそ…
[一言] > 8月23日、蓬莱島時間午後9時、『アヴァロン2』は月面の工場から離陸した。 > 加速度は1G。宇宙船としての使用は今回限りの予定なのd て今更だけどさ、月からアルスへもふつーに転移させた…
[一言] いっそのこと主人公やマキナの正体を二代目マギクラフト・マイスターが作った人造人間(アンドロイド)という事にしてしまったら寿命の無さを誤魔化せるかも知れない、オートマタよりも遥かに高性能で身体…
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