91-09 再始動
8月23日朝、ゴウは仁、エルザ、礼子、メルツェらと共に『アヴァロン』へやって来た。
仁、エルザ、礼子らは最高管理官トマックス・バートマンに挨拶、ついでデウス・エクス・マキナ3世と会ってこれまでの様子を聞く予定だ。
ゴウとメルツェは別行動。ルビーナに会いに行った。
「ゴウ、メルちゃん! なんか久しぶりね!」
「そうだね。やっぱりこっちの雰囲気がいいなって思うよ」
「ルビちゃんも元気そうでよかった」
「あったりまえじゃない! あたしは元気が取り柄なんだから!」
しかし、最初のうちはちょっと不安に苛まれていたことをゴウもメルツェも知らないし、ルビーナも話すつもりはない。
「昨日戻ってくると思ってたんだけど、遅かったのね」
「うん。確かに『夜会』は21日だったけど、その夜は宮城に泊まったからね。屋敷に戻ったのが22日の昼前だったんだよ」
「ああ、ショウロ皇国とここじゃあ時差もあるものね」
「そうなんだ。あと、メルツェもいろいろ整理するものがあったしさ」
今まで身の回りの世話をしてくれていたイェニーとのお別れもなかなかに辛いものがあった。
* * *
「イェニー、今までありがとう」
「メルツェお嬢様、どうぞお元気で。夢が叶えられますよう、祈っております」
「ありがとう。イェニーも元気でね」
涙の別れとなったが、いずれはメルツェにも『転移門』を自由に使わせてやりたいと仁は思っている。
そうすれば好きな時にロイザートへ行けるようになるのだ。
それは多分、メルツェが成人……この世界では15歳……になった時のはずである。
* * *
「それで、メルちゃんは無事に皇籍離脱できたの?」
「ええ。陛下からライマン姓をいただいたので、これから私の名字はライマンよ」
「メルツェ・ライマンね、かっこいいじゃない」
「ありがと」
「で、ルビーナの方はどうだったんだい? 聞かせてくれよ」
「もちろんよ。ゴウがいなかったけど、その分あたしが頑張ったんだから!」
ルビーナは説明を始めた……。
* * *
『改良型重力魔法機関開発プロジェクト』の進捗状況。
8月18日には『魔導回路』の解析が行われた。
19日からは改良型の『魔法制御の流れ』を考える会議だ。
20日、会議は紛糾し、なかなかまとまらなかった。
21日も会議は続いていた。
が、あまりにまとまりに欠ける会議内容を見かねたのか、それまで黙って様子を見ていたデウス・エクス・マキナ3世が口を挟んだのである。
「どうやら方向性が決まらず、迷走しているようだな」
「お恥ずかしいが、そのようです」
技術主任のアーノルトが答える。
そのアーノルトに向かってマキナは頷き、言葉を続ける。
「まとまらないのは、1つには利用方法の設定が悪いからだと思う」
「なるほど……そうかもしれませんね」
「うむ。推進機関にするのか、浮遊機関にするのか、それとも補助装置として利用するのか、など、使用目的が定まっていないな。どれを選んだとしても、応用もしくは少しの改変で転用できると思うから、1つに絞ったほうがいいぞ」
「確かにそうです。……では、技術主任として、まずは浮遊機関として考えよう、と宣言します」
「よし」
反対する者はおらず、この時点で話し合いの内容であり目的は、浮遊機関として『重力魔法機関』をどう構成するか、に決定した。
「浮遊機関として考えますと、まずは出力ですね」
「浮かすだけなら2Gくらいでいいだろうからな」
「重量物を運ぶことを考えても十分ですよね」
ここが重力魔法機関の利点である。
効果範囲内なら、何トンであろうと重さをなくすことができるのだから。
出力が2Gあれば、1Gの重力を打ち消し、1Gの加速度で上昇することができるのだから。
最初に検討するのにちょうどやりやすい教材といえた。
「ただ、慣性はなくならないから要注意だよ」
アーノルトが注意を促す。
「ああ、そういうことですね」
慣性力というものは馬鹿にならない。
重いものは動かすのも大変だし、動き出したら止めるのも大変なのだ。
「それって、推進力に重力魔法を使えば解決よね?」
ルビーナが意見を言う。
「ああ、それは確かにそうだ」
アーノルトも認めた。
「だから推進器を、という意見が出てまとまらなかったのよね」
「うむ。ここでそれを言い出すと振り出しに戻るから、話を戻そう。浮遊機関としての『重力魔法機関』だけを考えよう」
「わかりました」
アーノルトもなかなか苦労しているのであった。
* * *
「……というのが、昨日までの概略ね」
「大分省略されたような気がするんだけど?」
「まあね。……まあいいじゃない。要点は押さえたつもりよ」
確かに、今何が検討中なのか、何が問題なのかは掴めたかな、とゴウは一応納得した。
それに、議事録ももらったから読んでおけばいいや、とも。
「それよりゴウの方はどうだったのよ?」
「ああ、うん。それは夜にでも」
「それもそうね。メルちゃんの話も……夜、打ち合わせが終わったら聞かせてもらうわ」
「そうしよう。……で、今日は何時から打ち合わせだい?」
「今が7時半だからあと30分ね」
8時から再開ということになるようだ。
「今日からゴウも参加よね?」
「もちろん」
「メルちゃんは?」
「私は正式に『アヴァロン』の事務員見習いになります」
管理職への第一歩、ということになる。
が、正式な職員になれるのは15歳からなので、いわばアルバイト扱いで勤めることになる。
仁の関係者といえど例外ではない。
きちんとルールを守り、その上で一歩一歩進んでいくのだ。
故にゴウとルビーナも、15歳になるまでは『客員研究員』扱いとなる。
『修士』の客員研究員は前代未聞だが、ルール違反ではない。
とにかく、ゴウとメルツェも戻ってきて、『アヴァロン』は少しだけ活気づいたようである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230127 修正
(誤)「大分省略されたような気がするんだけど?」」
(正)「大分省略されたような気がするんだけど?」
(誤)「まあね。……まあいいじゃない。要点は抑えたつもりよ」
(正)「まあね。……まあいいじゃない。要点は押さえたつもりよ」
(誤)それに、議事録ももらった読んでおけばいいや、とも。
(正)それに、議事録ももらったから読んでおけばいいや、とも。




