91-07 夜会、騒動と対処
5体の女性型自動人形の踊り子による踊りが披露された後は、万雷の拍手が鳴り響いた。
仁の隣に立つ魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスも誇らしげな顔つきだ。
『さあ、ここからは飛び入りも大歓迎です。彼女たちと踊りたい方はどうぞ』
どうやら自動人形たちと踊ることができるらしい、と仁は理解した。
名乗り出るのは高齢の貴族と、独身だろうと思われる若い貴族。
どうやら妻帯者は奥方に遠慮して誰も希望しなかったようだ。
それから2曲ほど、希望者と自動人形とのダンスの時間が続いた。
「こういう時間もいいですね」
「そうでしょうそうでしょう。ジン殿にそう言っていただくと、私も部下も、苦労のしがいがあったというものですよ」
魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスは嬉しそうに笑った。
* * *
『さて、『夜会』も終盤に近づきました』
司会の声が響く。
『お供に自動人形をお連れの方もいらっしゃると思います。これより、そうした者たちも交えてのダンスタイムとします!』
「ふうん……レグレイ殿、これは?」
「最近は、自動人形の侍女、執事も増えてきておりましてな。本日はレーコ卿を含め、4体の自動人形が『夜会』に参加しておりますな」
礼子を除けばあと3体。どんな自動人形だろう、と仁は少し興味を惹かれた。
自動人形を連れて『夜会』に来るということは、多少なりとも自己顕示欲があると見え、3組のペアが音楽とともに文字どおり躍り出てきた。
「お、3組とも侍女型か」
「まあ普通はそうではないですか? レーコ卿が特殊といいますか……」
小柄なボディに超高性能、超パワーを詰め込むことなんてそうそうできるものではない、とレグレイ魔法技術相は言った。
曲はスローなもの、だが、3体の動きはややぎこちない。
「うーん……見かけはいいが、動作が今ひとつだな」
「そうですな……」
先程の5体に比べ、ステップがぎこちないのだ。
仁は、『アドリアナ式』ではなく、『球体関節式』であろうと見当を付けた。
「お父さま、ちょっと危険かもしれません」
礼子が進み出て、仁の前に立った。
「え、どういうことだ、礼子?」
「あの3体に『追跡』を掛けてみて下さい」
「わかった」
なぜだ、というような余計な質問をすることなく、仁は礼子の言に従った。
『追跡』は工学魔法。魔力の流れを調べることができる。
姿を隠して魔法を放つ術者を見つけ出す、というような使い方ができる。
また、仁やマキナなど熟練した者が使うと、魔法の発生原理まで遡ることも可能。
そんな工学魔法、『追跡』を使うと……。
「危ないな……レグレイ閣下、すぐに曲を止めるよう指示を出して下さい」
「どうしたんだね、ジン殿?」
「いいから、早く! 理由は後で説明します!」
「わ、わかった」
レグレイ魔法技術相は小走りで楽団の所へ向かった。
が、少しだけ遅かったようだ。
「わああ!?」
「どうした、おい、止まれ!」
「な、なんだっていうんだ!?」
踊っていた3組の片方……つまり自動人形の動きが明らかにおかしくなったのである。
パートナーの貴族を振りほどき。勝手にくるくる回り出した。
「間に合わなかったか……礼子、できるだけ騒ぎにならないよう収められるか?」
「『魔法無効器』を使いましょう」
「うん、それがいいな」
「はい!」
短いやり取りの末、礼子が飛び出した。
まだ被害は微小。振りほどかれた貴族3名が尻餅をつき、尻を痛めたことと、近くにいたどこぞの婦人が手にしていたグラスが床に落ちて砕けたくらいだ。
周りの者たちは、何が起きたかわからずに、ただ目を丸くしている。
そこへ、音も立てずに駆けつけた礼子は、暴走している3体目掛け『魔法無効器』を発動させた。
その波動は3体を包み、動力源である魔力素を強制的に自由魔力素に戻してしまう。
結果、3体は停止する。
つまりはエネルギー切れ。
「お父さま、終わりました」
「ご苦労さん、礼子」
この騒動は局地的で、会場全体は和やかな空気に包まれたまま。
『夜会』の雰囲気を壊さないようにしたいと思った仁の意図はなんとか達成されたようだ。
「ちょっと失礼します」
動かなくなった自動人形のそばに屈み込んだ礼子は、手早くそのメンテナンスハッチを開いてしまう。
この3体は同型で、ハッチは背中側にあった。少し後からやって来た仁はそれを覗き込むと黙って頷き、『上書き』を行ったのである。
「これでよし。……ええと、オーナーの方々、もう自動人形は暴走しませんから、再起動してください」
「あ、はい」
「……どうも」
「ありが、とう?」
毒気を抜かれたように3人の御曹司たちは自分のお付きの自動人形を再起動した。
3体の自動人形は何ごともなかったかのように立ち上がり、それぞれの主人とともに立ち去っていったのである。
* * *
「つまりは、『魔力波の混信』が起こったんですよ」
「それはいったい?」
「ええとですね、同じ形式のゴーレムや自動人形の場合、近距離で動作させると、魔力波の漏洩分で影響し合うことがあるんですよ。それを俺は『魔力波の混信』と呼んでいます」
「ふむ、少しわかってきましたぞ」
「さすがですね。……今回は同型の自動人形3体が、『ダンス』という『同じ動作』をしたため、その『魔力波の混信』が起こって制御がおかしくなったんです」
「やはりそういうことでしたか」
「ええ。調べてみたら、3体の『制御核』は全く同じものでした」
最低でも製造番号をナンバリングしておけば区別がついたのだが、と仁。
「ハードは全く同じで、『基礎制御魔導式』も同じ。違うのは起動してからの経験だけ。そんな3体が至近距離で混信したために暴走したんですね」
「なるほどなるほど」
「あと、せめて『シールド』されていれば起きなかったのですが……」
仁が手掛けたゴーレム・自動人形には、全て『シールドケース』が備え付けられており、重要な魔導装置は全てその中に収められている。
それにより外乱の影響を受けにくくなっているのだ。
「礼子が気が付いてくれてよかったですよ。下手をしたら『夜会』がめちゃくちゃになりかねなかったですからね」
「そうですな。ジン殿とレーコ卿には感謝してもしきれません」
魔法技術相はそう言って仁と礼子に黙礼をしたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230125 修正
(誤)姿を隠して魔法を放つ術者を見つけ出す、というな使い方ができる
(正)姿を隠して魔法を放つ術者を見つけ出す、というような使い方ができる




