91-06 夜会、出しもの
静かな曲が終わり、会場の照明が明るさを取り戻した。
時刻はいつの間にか午後6時。
ダンスをした者もしない者も、小腹がすいてくる頃だ。
『夜会』は食事会ではないので、重い料理は基本的には出ない。
立食パーティの一種でもあるので、簡単に食べられるものばかりだ。
今夜用意されているのは、主食系がサンドイッチ、ハンバーガー、焼きおにぎり。
おかず系が焼き鳥、ソーセージ、唐揚げ。
デザートにカットフルーツ各種が用意されていた。
飲み物はアルコール度数低めなワイン類、フルーツジュース、冷茶、氷水があった。
どれも取皿を持って片手で口に運べるような大きさで作られている。
仁とエルザはサンドイッチと焼きおにぎりを皿に載せていた。
「サンドイッチは……ツナとハム、卵か」
「ん。焼きおにぎりは味噌と醤油?」
「うん、なかなかうまい」
「同感」
「……しかし、ハンバーガーなんてものもあったんだな」
「そう。あなたが40くらいの時、一般に広まった」
「そうなのか……」
まあ多分そうだろうなと思っていたらそうだった、と仁は内心で溜息を吐いた。
ゴウとメルツェは焼きおにぎり。味噌と醤油を1個ずつだ。
「どっちも香ばしくて甲乙付けがたいよね」
「本当ですね」
食文化も広まることで食生活が豊かになる。
新たな食材、新たな料理は必然的に産業を興すことにもつながる。
巡り巡って経済が発展する……はずだと仁は思っていた。
* * *
午後7時、ダンスに次ぐ催し物が始まる。
「技術陣が大張り切りで作り上げたのですよ」
と教えてくれるのは魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアス。その技術陣のトップである。
それは何か、という仁の質問は、口から出ることなく終わった。
というのも、その『技術陣が大張り切りで作り上げた』作品がお披露目されたからである。
『皆様、どうぞご覧下さい! 我が国の技術陣が心血を注いで作り上げた、芸術品ともいえる5体です!』
「おお!」
「うわあ……」
「美しい……」
会場のあちこちから呟きが漏れる。
現れた5体は女性型の自動人形。今は踊り子の衣装に身を包んでいた。
赤、黄、緑、青、紫のゆったりしたロングスカートのワンピースを着て、白い布を手にしている。
身長は160センチくらい。中肉中背、といった外見だ。
髪の色は銀。目の色はワンピースと同じ赤、黄、緑、青、紫である。
そんな彼女たちが招待客に向かって一礼すると、再び楽団が音楽を奏で始めた。
緩やかな曲だが、ダンスの音楽ではない。
ダンスは大体が三拍子(正確には四分の三拍子)だが、今回の曲は四拍子(四分の四拍子)だったのだ。
1、2、3、4、1、2、3、4。
5体の自動人形は自ら手拍子を何度か打つと、徐に踊り出した。
テンポはゆっくりであったが、意外なことに端切れのいい動きのダンスである。
近いものを挙げるとすればヒップホップダンスか。
もっとも、それよりもずっとゆっくりであるが。
「おお」
「面白いですな」
「斬新な……」
伝統的ではない動きゆえ、受け入れられるのかと思った仁だったが、周囲の反応は悪くない。
歯切れのいい動きはヒップホップダンスっぽいが、振り付けはかなり異なる。
(あ、これって、どちらかというと日本舞踊に近いのかな?)
着物を着て踊る日本舞踊。
それをヒップホップ調にアレンジした、という表現が最も近いかもしれない。
もっとも、仁は日本舞踊に暗いのでそれが正しいかどうか判断がつかないのだが。
* * *
音楽が変わると、自動人形たちの動きも変わった。
ヒップホップ調から、滑らかな……仁としてはそう表現するしかない……動きとなる。
5体でパートナーを変えながら踊り続ける社交ダンスといえばいいか。
ペアで踊るのは2体。
その際、残る3体はバックダンサーのように、背後で控えめに踊る。
これはこれで見応えがあった。
「どうですかな、ジン殿?」
魔法技術相が仁に感想を尋ねる。
「そうですね、自動人形はいい出来ですね。動きが自然ですし、滑らかです。『アドリアナ式』ですね」
「おお、そのとおりです」
「パワーは……3人力、といったところでしょうか。体重は60キロくらいでしょうね」
「おお、そこまでわかりますか」
「ええ。動きを観察していれば」
例えば、腕を振って止める、という動作を考える。
腕には質量があるので慣性の法則により、止めたいところでピタリと止めるのは難しい。
そして同時に作用反作用の法則というものもあり、腕を止めるために力を入れれば、腕以外……身体本体にも同じだけ力が掛かる。
結果、止めたはずの腕は僅かにブレるし、身体もほんの僅かに動いてしまう。
そうした『動きの誤差』を観察することで、質量やパワーを想像することができるのである。
もちろん、並の技術者には無理であるが。
* * *
仁と魔法技術相がそんな会話をしているうちに、曲はまた雰囲気を変えていた。
今度は踊りのための曲、だがワルツではない。
(タンゴ、に近いかな?)
仁は、この世界でワルツっぽいダンス音楽は聞いているが、タンゴっぽい音楽は聞いたことがなかった。
タンゴは二拍子(四分の二拍子もしくは八分の四拍子)なのである。
なので今回、初めて聞いた、ということになる。
「最近はやりだしたジャンルの音楽なのですよ」
「最近、ですか」
「ええ。若い貴族たちの間で、プライベートなパーティで奏でられているのです」
「そうなんですね」
5体の自動人形は、タンゴっぽい曲に合わせ、キレのよい動きを見せてくれたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230124 修正
(誤)1、2、3,4、1、2、3、4。
(正)1、2、3、4、1、2、3、4。
(誤)体重は60キロくらでしょうね」
(正)体重は60キロくらいでしょうね」
(誤)今度踊りのための曲、だがワルツではない。
(正)今度は踊りのための曲、だがワルツではない。




