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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
91 新たな技術篇
3557/4413

91-05 夜会、ダンスタイム

 『夜会』のメインイベントの1つが始まろうとしていた。

 楽団が静かな音楽を奏で始める。

 そう、ダンスの時間だ。

 照明も少しだけ暗くなる。


 貴族社会ではダンスは必須科目。

 既婚者の場合はともかく、未婚の令息令嬢は出会いを求めてダンスを行い、親睦を深めるためにダンスを楽しむ。

 そして、名残を惜しむためにも……。


「ゴウさん、一曲踊って下さい」

「え、あ、喜んで」


 メルツェに差し出された手をゴウは取った。

 そしてダンス用スペースの隅で2人はひっそりと踊り始めた。


「足を踏んだらごめん」

「それは私も……」


 幸い、演奏されているのは序盤の静かな曲なので、2人とも慌てずに済んでいる。

 これが中盤のアップテンポな曲だったら危なかったかも……しれない。


「ゴウさん、上手です」

「メルツェも」


 緊張して硬かった動きも、慣れとともに滑らかなステップになっていった。


「……この半年で、すっごく身の回りが変化して、ちょっと戸惑ってます」

「わかるよ。メルツェほどじゃないけど、僕も随分と生活に変化があったから」


 踊りながらそんな話もできるくらいには余裕が出てきた2人。


 気が付けば、彼らの直ぐ側で仁とエルザも踊っている。

 2人はゴウとメルツェより、少しだけ上手に見えた。


 曲が終わると、僅かなインターバルの後に再び演奏が始まる。

 今度は先程より少しだけアップテンポな曲だ。


「メルツェ、今度は俺と」

「ゴウ、私と」

「はい」

「はい!」


 そして仁はメルツェと、ゴウはエルザと、再び踊り出した。

 これは、2人が他の参加者から誘われないうちに、という気遣いでもある。


「……ジン様、ありがとうございます」

「うん、何が?」

「いろいろ、です」

「そうか、いろいろか」


 今までいろいろなことがあった。

 そして今日は1つの大きな区切りとなる日である。


 平民から皇族になって、もう一度平民となる。

 いや、正確には『皇籍』から抜けるだけで、血縁関係までなくなるわけではない。

 それでも、半年前までは頼りない女の子だったメルツェは、『アヴァロン』の管理職になるという明確な目標を持ち、確実に歩みを進めているのだ。


「私、頑張りますね」

「ああ、そうだな。だけど、無理はするなよ? 疲れたら立ち止まっていいんだ。休んでいいんだ。ロイザートに、いつ帰ってきてもいいんだぞ?」

「はい、ありがとうございます!」


*   *   *


 ゴウはエルザと踊っている。


「ゴウ、随分とうまくなった」

「そうですか?」

「ん、これならまあ、合格点。時々練習していれば、恥をかくことは、ない」


 この先も、技術者としてこうした宴会、園遊会に招かれることもあるだろうし、その際にはダンスをせがまれることもあるだろう。

 そんな時に踊れないと言って断るのは酷く格好悪いし、礼儀としても褒められたものではない、という。


「貴族社会とは、そういうもの」


 いい悪いではなく、そういうものと認識して、とエルザは言った。


「ゴウも、一人前になれば、そうした義務が付いて回る」

「ジン様も、そうなんですよね?」

「ん、そう。あの人は、特にこういう場が嫌いだけど、今日はメルツェの門出だから」


 そして、敬愛する女皇帝陛下が治めていた国だから、と声に出さずに続けたエルザであった。


*   *   *


 その次の曲はさらにアップテンポとなったので、仁たちはもう踊るのをやめ、壁際へ戻って飲み物を手に取った。

 そしてダイキとココナを目で捜す……と、意外にも2人はアップテンポな曲に合わせて踊っていた。


「おじさま、おばさま、凄い……」

「うまいものだねえ」

「ん、さすが伯爵夫妻」

「やっぱり違うな」


 仁たちは感心することしきりであった。


*   *   *


 アップテンポな曲が2曲続いた後は、またゆっくりと落ち着いた曲となる。

 戻ってきたダイキとココナは、ゴウとメルツェを誘った。

 2人は喜んでそれを受ける。


 ダイキはメルツェと、ココナはゴウと。

 ゆっくりした曲に合わせ、優雅に踊る。

 仁とエルザはそれを眺めていた。


「うーん、やっぱりうまい人と踊ると違うなあ」

「ん、そういうもの」


 仁とエルザは踊る2組を見て感心していた。

 ゴウもメルツェも、先程に比べて格段に上達して見える。

 もちろん急にうまくなったのではなく、パートナーのリードが巧みだからである。

 そのステップは、次第に部屋の中央へと向かっている。


「あ、あれはわざと……かな?」

「ん、多分、そう」


 仁とエルザは、ダイキとココナが、ゴウとメルツェをダンスの輪の中心へと導いていくのを眺めていた。


「さすが伯爵夫妻ですね」


 気が付けば、仁の隣にヨヒア・ガイニス・フォン・イーゴ子爵夫妻がやって来ていた。


「お2人は踊らないのですか?」


 と仁が聞けば、ヨヒア子爵はにこりと笑って答える。


「先程の曲で疲れてしまって」

「ああ、そうでしたか」


 アップテンポの曲を踊ったので疲れ、こうして休んでいるということだった。


「私より10歳以上歳上なのに、伯爵はお元気ですなあ」


 ヨヒア子爵は今年44歳。ダイキは59歳になる。


「いかに健康管理が大事か、この歳になって気が付くとは」

「……ちょっと、拝見しても?」

「お、おお、エルザ殿は『治癒師(ドクトル)』でいらっしゃいましたなあ」


 正確には『国選治癒師(ライヒスドクトル)』である。あまりおおやけにはしていないが。


「『診察(ディアグノーゼ)』……少し消化器系が疲れて、います。暴飲暴食を控えて下さい。……『癒し(フェルハイレ)』」

「おお、少しすっきりしました。ありがとうございます」


 そんな一幕もあったりして、『夜会』は進行していく……。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20230123 修正

(誤)と、意外にも2人はアップテンポな教に合わせて踊っていた。

(正)と、意外にも2人はアップテンポな曲に合わせて踊っていた。

 orz

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― 新着の感想 ―
[一言] > 『夜会』のメインイベント(中 >略)ダンスの時間だ。 (中略) > 既婚者の場合はともかく、未婚の令息令嬢は出会いを求めてダンスを行い、親睦を深めるためにダンスを楽しむ。 ↑とあるけど、…
[一言] >「『診察ディアグノーゼ』……少し消化器系が疲れて、います。 某胃痛さん「ん?何やら親近感が沸いてきそうな気配が西の方から」
[一言] >>ダンスタイム ハ「ボディコン、羽根扇子・・・」 エ「歌って踊れる・・・」 >>特にこういう場が嫌い 礼「・・・・」ぴくっ >>アップテンポな曲に合わせ ハ「まだ若い者には負けぬ?」 …
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