91-03 夜会、開催
午後3時30分。
控室は招待客で一杯になった。
およそ40人、15組くらいである。
20畳5間続き、つまり100畳の40人なので1人あたり2畳半。テーブルの分を差し引いても1人あたり2畳のスペースが確保されているので狭くは感じない。
そもそも控室なので、動き回るような場面はないのだ。
仁、エルザ、ダイキ、ココナはのんびりと座って時間を過ごしていたが、ゴウとメルツェはそうはいかなかった。
「ゴウ君、今夜の夜会で、うちの娘と踊ってはくれんかね?」
「メルツェ嬢、是非僕と踊って下さい!」
「ゴウ君、私の娘は器量よしでね」
「メルツェ嬢、ぜひ一度、我が家に遊びに来ていただきたいのだが」
「ゴウ君」
「メルツェ嬢」
……と、引きも切らない貴族たちの挨拶に辟易していた。
仁たちはこれも貴重な経験と、実害がない限りは見守るだけにしている。
そのため、『夜会』が始まる午後4時まで、ゴウとメルツェは対応に追われることになったのだった。
* * *
そして午後4時、『夜会』のため、大広間への移動となる。
さすがにゴウとメルツェは、保護者であるダイキとココナ、仁とエルザにエスコートしてもらった。
「うわあ……」
大広間は光属性魔法『明かり』や『光の玉』の明かりが散りばめられ、さながら夢の国のよう。
壁には金糸銀糸で縫いとられたタペストリーが掛けられている。
正面奥……北側の壁には、『3本の麦』をデザインしたショウロ皇国の国旗と、皇帝家の紋章『交差した3本の剣』が。
その国旗を見た仁は、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ女皇帝陛下と語らった時代のことを懐かしく思い出していた。
『『国の基本は王に非ず兵に非ず軍に非ず、そは食なり』。だから麦の穂が、我が国の紋章になっているのよ』
女皇帝は仁とエルザにそう教えてくれたのだった。
そんな物思いは、『夜会』の開始を告げるアナウンスで破られた。
『お集まりの皆様、ただいまよりショウロ皇国恒例の行事である夏の『夜会』を開始致します。まずは皇帝陛下からのお言葉』
『拡声の魔導具』を使っているので声がよく通る。
ざわついていた会場が、一気に静まり返った。
そして皇帝、エルンスト2世が語り出す。
『皆、よく集まってくれた。今夜は夏の終わりの『夜会』である。親睦を深め、楽しんでほしい。では、始めよう!』
短く簡潔な言葉。
そんな皇帝陛下の言葉を受け、『夜会』が始まった。
まずは軽い飲み物と食べ物が供され、ほろ酔いになった人々が懇談に興じるという流れだ。
カラフルだがアルコール度数の低めなカクテルが多く並んでおり、仁、エルザ、ダイキ、ココナらはフレッシュジュースベースのカクテルを。
未成年のゴウとメルツェはジュースを、それぞれ口にした。
「ブドウのジュースですね」
「……ん、このベースになってるブドウは、多分ワス湖産」
「わかるのか?」
「ん。あそこの特産の品種特有の風味があった、から」
などという一幕も。
夕方となり、多くの者たちは小腹がすいていたと見え、クッキーやマカロン、クラッカーやトポポチップスといった菓子類をつまんでいる。
今のところ、各家で固まり、懇談という雰囲気ではない。
懇談が始まらないのはなんとなくきっかけが掴めないから……のようだ。
そんな中、再びアナウンスの声が響いた。
『この場を借りて、陛下より発表があります』
再びエルンスト2世の声が響く。
『長いこと皇后の座が空位であったが、この度余はテオバルト・テオデリック・フォン・グレイン侯爵の長女、コンスタンツェ・テオデリック・フォン・マジェンタを后とすることに決めた』
そしてエルンスト2世は、少し離れた場所にいた婚約者を招き寄せ、その肩を抱いた。
おおお、と会場がどよめく。
「おめでとうございます、陛下」
宰相ロデリッヒ・バルベラス・フォン・ハイザーがまずお祝いの言葉を述べた。
その後、宰相の音頭で乾杯が行われる。
一人一人からお祝いの挨拶を受けていたら切りがないからだ。
「では、陛下のご婚約に、乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!!」
* * *
この一幕があってから、会場は一気に賑やかになった。
あちらこちらで和やかな会話に花が咲いている。
そして仁たちにも……。
ショウロ皇国魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスがやって来て、仁と話し込んでいるのだ。
「ジン殿、お久しぶりですな。聞きましたぞ、セルロア王国で直径200メートルの『球形基地』を転移させてしまったこと」
「お耳が早いですね」
「これでも魔法技術相ですからな」
そう言って笑うレグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアス。
「おお、そう言えば、お聞きしたいことが1つあったのです」
「何でしょうか?」
「転移についてですよ」
「ええ、それで?」
「例えば、先日行われた『球形基地』の転移ですが、あれだけの巨大構造物が転移して消えたなら、そのあった場所は『真空』となり、周りから空気が流れ込んで衝撃波のようなものが生じるのではないでしょうか?」
「ああ、そういうことですか……」
似たような現象を、小規模ならば現代日本でも体験することは可能だ。
それは『真空管』を使うことになる。
真空管は、その名のとおり内部は真空なので、割ると『爆縮』という現象を起こす。
広がる『爆発』ではなく周りから圧縮されるので『爆縮』である。
仁は、河川敷に捨てられていた古いテレビのブラウン管を、いたずら好きな高校生が石を投げて割る場面に遭遇したことがある。
その時は『ボン』というような音がして、ほとんどガラスは飛び散らなかった。
レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスは、似たような、しかし遥かに大規模な『爆縮』が起きるのではないかと疑問を持ったわけだ。
対する仁の答えは……。
「それは大丈夫です」
であった。
「その理由は……」
仁の説明が、始まった……。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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