90-19 夏の初めに
近い将来、『アヴァロン』で働くことを決心したゴウ、ルビーナ、メルツェ。
仁もエルザも、そんな3人の意思を尊重し、できるだけのサポートをしてやろうと考えていた。
3人とも、専門職としての知識や経験は既にかなりのもの。
足りないのは『社会経験』であろう、と考えた仁は、
「よし、旅行に行こうか。そうだな、1週間くらい」
と提案を行った。
「え? いいんですか? あの、『アヴァロン』の方は?」
「そっちはマキナがいればまず大丈夫だろう。何かあったら、マキナが連絡してくるだろうし」
仁がやるべきことはひととおり終わっている。
『パールス島』の整備。終了。
『インディゴ島』の整備。終了。
システム魔導頭脳『アステール』の構築。終了。
『インディゴ島』の施設の解析については現在進行中だが、マキナがいる。
「だから、当面は問題ないよ」
「あの、セルロア王国の『最終兵器』掘り出しは?」
「始まってはいる。……今は、魔導頭脳『ファースト』配下のゴーレムたちが動員されて掘り出しているところだ。……ああ、そこも見に行ってもいいな」
セルロア王国との話も付いており、今後の重要な作業としては『球形基地』を収める『メガフロート』の建造である。
「そっちも基礎設計は終わっているし、建造を開始すれば10日くらいで完成するだろうし」
「さすがジン様よね……」
「どうせなら、みんなで行こう」
仁はダイキとココナ、アマンダ、そして侍女のイェニーにも声を掛けた。
「私どもも……ですか?」
「そう。家族旅行みたいなものさ」
「あの、ジン様、わたくしもですか?」
「もちろん、イェニーにも来てもらいたい」
「……ありがとうございます」
そんな形で旅行に行く話がまとまった。
あとは行き先であるが、
「『ハリケーン』内で寝泊まりできるから、行き当りばったりで大丈夫だぞ。夏の初めだから北国なんかもいいな」
と仁が言い出す。
「それでいいんですか……?」
「駄目かな?」
「……ジン兄、せめて行き先候補くらい決めたら……?」
「そ、そうか。そうだな」
エルザに注意された仁は、改めて皆に行きたいところを聞いてみる。
すぐには意見が出なかったので、まず仁が提案。
「ミツホには行ってみたいと思う。それからパンドア大陸もしくは4公国。あとはノルド連邦も候補だな」
これを聞いて、まずゴウが希望を口にした。
「あ、それでしたらエリアス王国のポトロックに行ってみたいです」
「あたし、カイナ村に行ってみたいな」
ルビーナも希望を口にした。
「私は……旧レナード王国のどこかへ行ってみたいです」
さらに、メルツェも希望を口にしたのである。
「ダイキとココナは? イェニーも」
「私たちは別に……」
「わたくしも……」
3人は遠慮してか、行きたいところを言わない。
それなら旅行中に希望を聞いてもいいかと、仁は無理に聞き出すことはしなかったのである。
* * *
「それじゃあ明日出発ということで。俺は『ハリケーン』の整備をしてくる」
決めてしまったら行動は早い。
もっとも、『ハリケーン』なら1日以内でアルス上のどこへでも行けるわけで(その行き先には家へ帰る、というのも含まれる)、いざとなれば転移門もあるのだ。
「転移門を転移魔法陣として偽装しておくとするか……」
見る者が見ればわかってしまうだろうが、一応の擬装をしておこうと仁は考えたのである。今のところ転移門は、まだオーバーテクノロジーに近いのだ。
対応する転移門はロイザートの屋敷なので、こちらも同じように擬装する必要がある。
具体的に言うと、転移門自体は小部屋に見えるようにし、床に転移魔法陣によく似たものを描いておく。これだけである。
利用する者は(一部を除いて)転移魔法陣で転移していると思うだろう。
ちなみに、転移門を使う理由は、魔力チャージの必要がないことと、動作がより安定していること、非常時には行き先を変更できることなどである。
「あとは……布団も毛布もあるし、空調はばっちりだし、食料も大丈夫だな。……ああ、ゴーレムメイドにも来てもらえばいいか」
仁は5色ゴーレムメイドのナンバー100を呼ぶことにした。
イェニーにも、旅行の間は休んでもらおうというわけだ。
これで準備は終了。
あとは各自の手荷物くらいである。
* * *
さて同じ頃、『インディゴ島』では、『アヴァロン』の研究員が調査を進めていた。
できるだけ大勢の研究者がここの技術を習得できるようにと、メンバーは2日交代となっている。
そしてこの日からエイラとグローマも参加している。
「おお、ここの資料は面白いな」
「同感だ」
前の組が少し整理していってくれたので効率がいい。
これはあとの組になるほど顕著であろう。
「これを見てみろ、グローマ」
「うん? ……ははあ、『ジャイガント』の構想メモか」
「そうらしい。これを見ると、最初はもっと巨大にしたかったんだな」
「50メートルか……できなかったのは資材不足かな?」
「そうだろうな」
「だが、50メートルか……見た目はすごいだろうな」
「確かにな」
「重力魔法で軽量化すれば作れるのかな?」
「どうだろう? 大きさの割に軽いだろうから、強い風でよろけるかもな」
「それはカッコ悪いな」
楽しげな2人である。
他にも、重力魔法の応用方法を検討したメモや、素材の軽量化についての実験結果などもあり、非常に興味深い資料だらけである。
この一連の調査は、間違いなく『アヴァロン』の、ひいては世界の技術力底上げに貢献するであろう。
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