90-20 旅行第1日目、カイナ村
7月23日、仁たち一行はロイザートの屋敷を出発した。時刻は午前8時。
向かうはカイナ村である。
旅行の初日ということで、仁の所有地であるカイナ村への旅行となったわけだ。
とはいえ、仁がカイナ村の領主であることは侍女のイェニーにはまだ秘密なので、現領主であるエリス・ニドーの縁者、という建前で訪問する(既に連絡済み)。
ちなみにエリスの孫フレディは、今現在『オノゴロ島』で修業中(という名目でグリーナとデート?)であった。
二堂城前に『ハリケーン』が着陸すると、そこにはエリスと村長のガイザックが待っていた。
「ジン様、ようこそ」
今代『魔法工学師』である仁なので様付け、という設定である。
「エリスさん、ガイザックさん、ご無沙汰。短い間ですが、お世話になります」
「どうぞゆっくりなさってください」
今回は身内だけでゆっくりすると伝えてあるので、エリスもガイザックもここまで。
あとは仁たちだけで過ごすことになる。
「それでは、私たちはこれで。何かご用がありましたらお呼びください」
「ありがとう」
* * *
仁一行は二堂城を宿とする。
仁とエルザは5階にあるいつもの……かつての居室。
他の面々は2階の客間だ。
ちなみに今現在、領主であるエリスとフレディは、二堂城ではなく、カイナ村の中に家を建てて住んでいる。
「さて、お昼にするか」
プラス3時間の時差があるので、今は正午を回ったところ。
朝食は早めに食べているので、軽いものならお腹に入る。
ということで一行は1階の大広間で昼食である。
「ええと、わたくしもご一緒させていただいていいのでしょうか……」
「連れてきた5色ゴーレムメイドの100番たちと、二堂城勤務の101番たちがいるので、イェニーの出番はないよ」
居心地の悪そうなイェニーを仁がなだめる。
「というか、今回の旅行では侍女という役職を離れて、メルツェの保護者的な役割を果たしてもらおうと思っているんだから」
「……はい、ありがとうございます」
そんな会話をしている間にも、昼食が運ばれてくる。
今回は二堂城特製の一口おにぎりだ。
海苔を巻いたおにぎりがほとんどだが、焼きおにぎりもある。
海苔を巻いたおにぎりの具は梅、おかか、昆布、鮭。
焼きおにぎりは味噌と醤油。
あと、塩だけで握ったおにぎりもある。
それにお新香が出、お茶は玄米茶。
一口サイズなのでいろいろな味を楽しめる。
「あ、おかかって美味しいですね」
「ここの梅干し、一味違います。酸っぱいですけど」
「シンプルな塩だけ、というのもいいですね」
「お茶がとっても美味しいです」
ダイキ、ココナ、イェニー、アマンダら大人組はのんびりと。
「あたし、この昆布が好き」
「私は鮭……でしょうか」
「僕は醤油の焼きおにぎりが好きだなあ」
子どもたちは次々におにぎりを口に運び、味の違いを楽しんでいた。
そして仁とエルザはマイペースで食べていく……。
* * *
「ああ、美味しかった」
「ごちそうさま」
「ちょっと食べ過ぎちゃいました……」
食後はお茶を飲んで一息。
カイナ村は高緯度にある上、ここ大広間は天井が高く、風が吹き抜けるので涼しい。
「これからどうする?」
カイナ村に来たがっていたルビーナに仁は尋ねた。
「ええと、話に聞いていたワイリー採り、してみたいなって」
「ああ、なるほど」
ワイリーはヘビイチゴに近い野生イチゴ。酸っぱくて不味いが、砂糖を加えて煮ると美味しいジャムになる。
そのワイリーが生えているのはカイナ村東部の森だ。
広葉樹の森で山野草が豊富に生えている。
更にその北側には岩場があり、そういう場所にワイリーが多い。
「崖もあるから気をつけろよ」
「はーい」
大人4人……ダイキ、ココナ、アマンダ、イェニーらは二堂城に残ってのんびりしている。
仁とエルザ、礼子が引率だ。
そして念の為、連れてきた五色ゴーレムメイド100番5体も一緒である。
仁はその昔、ここで村の子供クルトとジェシーが崖から落ちた時のことを思い出し、安全を期したのだ。
「あー、あった!」
「こっちにも」
「ここにもありました」
お子様3人は元気よくワイリーを摘んで籠に入れていく。
夏の初めのこの季節は、ちょうどワイリーが熟す頃で、村の子供達も何人か集めに来ている。
「こんにちはー!」
「こんにちは。たくさん採れたかい?」
「うん!」
「危ないから、崖には近寄らないようにね」
「わかってるよー」
そんな村の子供達とも言葉を交わす仁とエルザ。
ゴウたち3人も、
「飛行船で来たお客さんだろ?」
「うん」
「ワイリーがたくさん生ってる場所、教えてやろうか?」
「いいの?」
「いいっていいって。どうせ採りきれないんだから」
「ありがとう!」
……と、村の子供達と仲よくなっていた。
そんな様子を見た仁は、カイナ村の子供達はいつも元気だな、と嬉しく思っていたのである。
* * *
3人合わせて1キロほどのワイリーが採れた。
1時間ちょっとでこれは優秀だ。
「さて、帰ろう」
「帰ったら、ジャムにする」
「はーい」
「ああ、結構汚れたな。温泉に入るといいんだが……どっちにする? 城の風呂か、村の共同浴場か」
「……今日はお城のお風呂でいいです」
「あたしも……」
「私も」
「わかったよ」
3人とも疲れた顔で二堂城の風呂を希望したので、今日のところはそれでいいか、と仁は了承した。
カイナ村には2泊するつもりなので、共同浴場は明日でもいいかな、と思ったのである。
* * *
午後4時、二堂城に着いた。
「お帰りなさい」
「お帰り、ゴウ」
「お帰りなさい、メルツェさん」
「お帰り、ルビーナ」
ダイキ、ココナ、イェニー、アマンダらが出迎えてくれた。
「たくさん採れたねえ」
「さあ、お風呂に入りなさい」
そして子どもたちが風呂に入っている間に、採取したワイリーを煮てジャムにしてくれる、ということになったのである。
出来上がったジャムは翌日試食することになる。
カイナ村での1日目は静かに暮れていくのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20221109 修正
(誤)今回は二堂城特性の一口おにぎりだ。
(正)今回は二堂城特製の一口おにぎりだ。
(誤)お子様3人は元気よくワイリー摘んで籠に入れていく。
(正)お子様3人は元気よくワイリーを摘んで籠に入れていく。
(誤)ゴウ、ココナ、イェニー、アマンダらが出迎えてくれた。
(正)ダイキ、ココナ、イェニー、アマンダらが出迎えてくれた。




