90-17 近い将来のこと
管理者の序列も決まり、『アステール』はより安定した。
筆頭管理者のアーノルトが代表で『アステール』と話をしている。
「通常は専用の『魔素通話器』回線で『アヴァロン』とやり取りをする予定だ」
『わかりました』
「それから、ここ『パールス島』は『アヴァロン』の支部として開発していくことになると思う」
『それはよろしいことだと思います』
そうしたやり取りを、プロジェクトメンバーたちも見ている。
「なるほどなあ」
「主任のやり方は参考になる」
もちろん、ゴウとルビーナも。
「アーノルト主任って、魔導頭脳とのやり取りがうまいよね」
「それは言えるわね。何かコツがあるのかしら?」
「僕が見るところによれば、『論理思考』がうまいんだよね」
「感情任せじゃ駄目ってことね」
「そういうことだね」
「あ、それに、エイラさんの思考回路を取り入れたからといって、口調がエイラさんっぽくなるってことはないのよね」
「人格はコピーしてないからじゃないかな?」
エイラとグローマはまた別の話題を話し合っている。
「ここを『アヴァロン』の支部にする話が出ていたと思うけど、武装と防衛施設はどうするんだろうな」
「『アステール』の能力次第なんじゃないかと思う」
「それはそうなんだろうが……」
そこへ、仁が顔を出した。
「当面はマキナが部隊を置くことになるらしい。俺も協力はするけどな」
「それなら安心か……」
「エイラとグローマは、いや元『ゴー研』のメンバーは、近々『インディゴ島』の方へ調査に行くんだろう?」
「ああ、その予定だ」
「なら、そこで得た技術をこっちにフィードバックし、防衛力を強化できるといいな」
「確かにそうだな」
「ああ、楽しみだな」
1つの仕事を終えたエイラは、もう次の研究に思いを馳せていた。
* * *
さてさて、仁が不在のロイザートの屋敷では……。
「え、宮城から使者が?」
7月21日の朝、ニドー邸には宮城からの使者が訪れていた。
「要件は何だったんですか?」
メルツェは不安を感じ、急き込んでココナに尋ねた。
「いえ、大したことではないのよ。……今度、宮城で夜会があるから、その招待状を持ってきただけ」
「夜会の招待状ですか? どなた宛に?」
「私と主人、それにジン様とエルザ様……あと、ゴウとメルちゃんに、ね」
残念ながらルビーナ宛の招待状は来ていないという。
ルビーナは貴族ではないので、この世界では当たり前なのだが……。
「ルビちゃんが行かないなら、私も行きません」
メルツェはきっぱりと断った。
『春の園遊会』の時は、元々参加資格がゆるいパーティだったので、仁が弟子という触れ込みでルビーナを連れて行ったが、今回はもっと堅苦しい催しである。
「……メルツェさんは行かないと、まずい」
「え?」
「皇帝陛下の印まで押されてる、から」
「……」
「おそらくここらで、メルちゃんが継承権はないとはいえ皇族であるとはっきりお披露目するつもりなんじゃないかしら」
ココナが推測を述べる。
「……少し早いけど、私、決めているんです」
考え込んでいたメルツェが口を開いた。
「私、『アヴァロン』に就職します」
「え」
「……うん、そうか」
「……ん、やっぱり」
ココナは驚いたようだが、ダイキとエルザは薄々感づいていた、と頷いてみせたのである。
「『アヴァロン』でメルツェさんに付き添っていたから、わかる」
「あ、そうですよね。エルザ様ならおわかりですよね」
「ん。……世界平和のために働いてみたく、なった?」
エルザの言葉に、メルツェは首を横に振った。
「いえ、私、それほどできた人間じゃありません」
「正直者」
くすっ、とエルザは笑った。
「ゴウさんとルビちゃんと一緒にいるには『アヴァロン』で働けばいいんだと気付いたんです」
「ん、それは確かに」
「でも私は技術者ではないので、研究室で働くことはできそうもありません」
「ん、それで?」
「でも、事務職なら働けそうです!」
「ん、なるほど」
「……どうでしょう、エルザ様?」
少し悲痛な表情を見せたメルツェを、エルザは優しく撫でながら、
「よく決心したね」
と、その想いを肯定したのだった。
「私も、『アヴァロン』を案内していて、メルツェさんは管理職に向いていると、感じた」
「エルザ様、ありがとうございます! …………管理職?」
エルザが『事務職』ではなく『管理職』と言ったことに気が付き、尋ね返すメルツェ。
「そう、管理職。メルツェさんには、その能力が、ある」
『総務局』『外務局』『総合管理局』などに勤めてほしい、とエルザは言った。
「もしかすると、将来の『最高管理官』になれる、かも」
「ええええええええ!?」
最高管理官、すなわちトマックス・バートマンのポジションである。
「むむむむ、無理です!」
ぶんぶんと両手を振るメルツェであったが、エルザは落ち着いた声で諭すように言う。
「今から決めなくて、いい。でも、ゴウ君やルビーナさんは、将来、きっと『アカデミー』の頂点に上り詰める。だからメルツェさんも、管理職の頂点に……」
「ふええええええええええ!?」
「メルツェ様、落ち着いてください」
さらに慌てるメルツェを、最終的に落ち着かせたのは一時的にニドー家で働く侍女、イェニーであった。
「メルツェ様はまだお若いため、そうした地位に就く未来を想像しづらいのでしょう。ですが、目標は高く持った方がよろしいかと存じます」
「イェニーさん……」
「とはいえ、最終的にお決めになるのはメルツェ様です」
「はい……」
「私は、メルツェ様がどんな道をお選びになろうと、ずっとお味方ですよ」
「はい、ありがとうございます」
イェニーの言葉に、少し気が楽になったらしいメルツェ。
「私なりに、頑張って、みます」
そう宣言したメルツェの顔は、焦りもなくなり、すっきりとした表情であった。
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