90-15 『アスピーダ』設置
『アスピーダ』が完成した頃、デウス・エクス・マキナ3世は『パールス島』にいた。
『アスピーダ』の設置場所を整備するためである。
「『アイオーン』より……いや『アスティノ』よりも規模が小さくてもいいかな」
魔導頭脳を維持管理できればそれでよく、居住区は既にあり、倉庫も作る必要はないので、規模は小さくていいだろうということになった。
2つの魔導頭脳は球形の基地の中心に収められている。
が、『アスピーダ』にはその必要はない。
結局、岩盤をくり抜いて設置場所を作ることになった。
「上・中・下層の3層にして、『アスピーダ』は中層に設置するかな」
下層にはエネルギー設備、上層には外部センサー関連、と大雑把に区分け。
トラップや武装は設けない。
専用のゴーレムに防衛を任せる予定だ。
防衛には結界を使用する。
くり抜いた岩盤には『強靱化』を施し、崩落を防ぐ。
転移魔法陣も設置し、物資やゴーレム、人間の移動をサポート。
整備・拡張中の『通信網』を使い、『アヴァロン』と直接通信を行えるようにする。
これだけの作業を7月20日中に終わらせてしまったのである。
* * *
7月21日、『アヴァロン』。
「さて、今日は転移魔法陣で『アスピーダ』を運ぶよ」
アーノルトが宣言した。
「そして、向こうで設置工事だ」
「はい!」
「おう!」
プロジェクトメンバーは勢いよく応じた。
いよいよ『アヴァロン』を出て『パールス島』へ行くのだ。
未知の冒険に出るみたいでワクワクしているのである。……男の技術者は特に。
「……子供みたいだな」
エイラはそんな連中を苦笑しながら横目で見ていた。
「まあまあ、彼らは普段『アヴァロン』の外に出たことがないから、ってのもあるんだよ」
自分やエイラは外出をしているのであまりそういった連中の気持ちはわからない、とグローマは言った。
「うーん、まあそうかもな」
「我々も支度をするぞ」
「わかった」
なんだかんだ言いながら、エイラも楽しみにしていたようで、嬉々として支度を整えていった。
* * *
そして午前9時。
「支度ができた者から転移魔法陣で向かってくれ」
「おう!」
「はい!」
プロジェクトメンバーは専用の転移魔法陣で『パールス島』へと向かった。
アーノルトとチェルは、『アスピーダ』を転移魔法陣で運ぶことになる。
サポートするのは『アヴァロン』標準の汎用自動人形AM04、05。
「よし『アスピーダ』、一旦停止するぞ」
『はい、管理者様』
「『アスピーダ』、『停止』」
『アスピーダ』は停止した。
そこでアーノルトたちは『アスピーダ』を持ち上げ、専用の転移魔法陣に乗せた。
これにより転移が行われる。
アーノルト、チェル、AM04、05らも一緒に転移した。
転移先は設置する部屋、つまり『魔導頭脳室』。
そのままなネーミングであるが、わかりやすくていいと皆が賛成したのだ。
「よし、設置しよう」
「魔法陣は消去しておきます」
「頼む、チェル」
設置場所に転移魔法陣を置いておき、そこへ転移。
魔法陣の機能を停止すれば、運搬の手間が大幅に削減できる、というわけだ。
設置コストの低い転移魔法陣だからこそできるやり方である。
「『アヴァロン』側の転移魔法陣も帰ったら消去しておかないとな」
「そうですね、アーノルト様。この後、一時帰還しますからわたくしにお任せください」
「それじゃあ、チェルに頼むとするか」
蓬莱島から……『ファミリー』としてのアーノルトにもたらされた情報の中に、2つより多い魔法陣の組み合わせがどんな事故を起こすか、というものがあった。
であるからして、転移魔法陣を描く際には必ず2つで1組となるよう厳重な管理をしているのだ。
今回のように片方を消去したなら、速やかにもう片方を消去しなければならない。
閑話休題。
『魔導頭脳室』にプロジェクトメンバーがやって来た。
彼らはこの部屋とは別……上層にある『転移魔法陣室』から徒歩で中層までやって来たのである。
「主任!」
「おお、来たね。さあ、手伝ってくれ」
「はい!」
エイラ、グローマをはじめ、総勢12名のチームメンバーで作業を行えば、あっという間に設置は終了。
「あとは階下の施設からの魔力線を接続するだけだ」
これまでの『アスピーダ』は、内蔵された非常用魔力源から供給される魔力素で動いていた。
が、これからは専用の供給施設からの魔力素で動作する。
魔力量に余裕ができるから、様々な周辺機器を同時に操ることができるようになるわけだ。
「主任、接続完了しました」
「チェック完了。結線に問題ありません」
「よし、『アスピーダ』、『起動』」
『はい、管理者様』
「今度はどうだ?」
『はい。魔力素に余力がありますね。これでしたらいろいろな作業を並列に行えます』
「よし。それではこれから、上層階のセンサー類を接続しよう」
前日、デウス・エクス・マキナ3世が用意してくれた設備である。
すでにケーブル類は配線済みなので、『アスピーダ』に接続するだけである。
「では1つ1つ接続していくから、動作を確認してくれ」
『わかりました、管理者様』
まず1つ、アーノルトはコネクタを接続した。
『外部センサーの1つ、『魔導監視眼』ですね。……ここは『島』であることがよくわかります。周囲は海。北西に大陸が見えます』
「よし、次だ」
『これも『魔導監視眼』ですね。こちらは島の様子を観察できます』
「次」
『これは『集声の魔導具』ですね。この施設周囲の物音が聞こえます』
「よし。……これは?」
『通信の魔導具のようです。対になる魔導具がないか、起動していないようですが』
「うん、ちゃんと機能しているな」
こうしてアーノルトは『アスピーダ』の設置を進めていったのである。
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20221104 修正
(旧)運用コストの低い転移魔法陣だからこそできるやり方である。
(新)設置コストの低い転移魔法陣だからこそできるやり方である。




